決意

「きゃははは!こっちだよショウ兄!」

「おっしゃまてー!」

「こっち来たあ!あはは!」

次の日、3人は書店が休みなので僕の家の庭でユウキさんとシュウヤくんと鬼ごっこをして遊んでいた。

庭には小さな花壇とベンチ、そして大きな木があるだけで、床も洒落た煉瓦やテラコッタなどではなかった。

しかしながらもかなり広いスペースがあった。

簡単に言うと、旅館にあるような宴会場を2つ繋げたぐらい。

その様子を僕とニリンは庭に面した洋風の縁側から見ていた。

「あいつら、元気だなぁ」

ニリンがそう言うと、僕も微笑んで答えた。

「そうですね。まるでお日様に当たっているような気分です。」

「下手な冗談よせやい。あたしたちは吸血鬼、陽の光に触れれば死ぬ。、、、でも太陽はとても綺麗らしいからな。あたしも死ぬなら、太陽にあたって死ぬのもいいかもな。」

「ニリンは強いのでなかなか死なないと思いますけどね。」

「そーかもな」

僕達はくっくと笑いあった。

「捕まえたー!次はネルがおに!」

「やってやるわ!10かぞえるから隠れて!バリアはなしだからね!」

「わかってますよー!」

5人は変わらず元気に走り回っている。

そんな様子をニリンはクッキーをつまみながら見ていた。

僕は9人分のアイスティーが乗ったおぼんを置いてニリンに話しかけた。

「あの子たち、戦災孤児なんだそうです。昨夜、ショウヘイくんから聞きました。」

ニリンが持っていたクッキーを落とした。

「せ、戦災!?どういうことだよ!?」

「そのままの意味です。人間界は今、戦争状態にあるようです。確かに彼ら、服には住所と名前をつけていますし、よく見ると服の丈も地味に合っていない。それに年齢に対して体が細いと思いませんか?恐らく生活が貧しかったのでしょう。」

「戦争、、、って、何十年も昔に終わったはずだろ!?」

「その通り、それから長らく少なくとも日本は平和だったようです。しかしそれから100年ほどが経ち、独裁者が現れて日本はめちゃくちゃになりました。独裁者、、、王は政府の人間を皆殺しにして、政権を奪いました。そして世界征服を目論み、人間界全てでは事足りず、このオポサイドワールドまで支配しようとしているそうです。幸いまだこの世界は人間界よりは安全です。彼らの言うシスターは、このことをどこかで知ってここへ逃がしたのかも知れませんね。」

「、、、そうか。あいつら、辛い目に遭ってたんだな。、、、待て、イラル。なんで人間がオポサイドのこと知ってんだよ?向こうでは吸血鬼は架空の生き物と教わるはずだ。それに、オポサイドの出入口は政府の奴らしか知らないんだぞ!?どうやってあいつらはここまで来れたんだ、、、?」

「ニリン、僕が昔読んだ歴史書に載っていたのですが、昔、吸血鬼が産まれた時、最初は吸血鬼も人間も自由にオポサイドと人間界の行き来が出来たのだそうです。そして今のように交流が断絶された時、数名の吸血鬼が人間界に取り残されたそうです。」

「まじかよ。じゃあつまり、そのシスターとかいう奴は吸血鬼ってことか!?」

「そうと決まった訳ではありませんが、可能性はあるでしょう。少なくともショウヘイくん、ネルちゃん、イロハくんは一般的な人間です。しかし吸血鬼特有の力でここへ来たことが推測されます。人間界の警備の厳重さを考慮したら、それ以外考えられません。ましてや子供が、こんなことを知っているわけが無いですし。」

「そうだよな、、、思ったんだけど始祖ヴァンパイアは王とか言うやつと同じで両世界の支配をしようとしてて、人間は反対派吸血鬼と共に始祖率いる賛成派吸血鬼と戦って、始祖は討たれた。なんていう戦争が大昔にあったらしいが、人間界の戦争はなんかそれによく似てるな。」

「隔絶戦争のことですか?」

隔絶戦争、それは何千年も前に始祖ヴァンパイアが起こした戦争の名称である。
始祖は両世界の征服を目論み、自身の配下である吸血鬼と共に両世界の住民を脅し、反抗するものは殺していったという。
そんな彼らと戦ったのは、人間と反対派吸血鬼だった。結果的に多くの犠牲を出しつつも、人間達が勝利した。

「父から聞いたことがあります。隔絶戦争で人間達は吸血鬼に対して半信半疑になり、少しずつ種族の壁ができていった。そしてある年、隔絶戦争で吸血鬼に親や友人を殺された吸血鬼狩りが復讐と称してオポサイドワールドを攻めてきた。始祖の手下だけでなく、隔絶戦争で人間たちと共に戦った反対派吸血鬼達も吸血鬼狩りによって殺されてしまった。それに激怒した吸血鬼達は吸血鬼狩りを人間界へ追放すべく戦った。しかし、吸血鬼狩りを追放することには成功したものの、彼らは我々が襲ってきたと言い張り、それを鵜呑みにした当時の政府は人間界とオポサイドワールドを隔絶し、貿易のみの関係となった。、、、という話ですよね。」

「ああ、つまりその時人間界にいた吸血鬼は取り残されたわけだ。」

しかし、その仮説にも疑問が残る。日光からでる紫外線は吸血鬼にとっては毒と同じ。人間界には太陽があるのだから、陽の光に浴びずに生きるのは容易なことじゃない。

興味深い。そして、この世界はおかしい。子供すら危険な目にあうなんて許せない。みんな公平に幸せは訪れるべき。幸せは、ひとりが独占してはならないのだ。

「ぼくは、この謎を解いて、あの子たちを助け、隔絶の壁を壊したいと思っています。それが、僕たち吸血鬼のためでも、人間のためでもあるのです。」

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