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いま"教育経済学"に感じるギャップ

はじめに

私ごとですが、先日オープンキャンパスがありまして、7/30, 31に高校生に向けて講義を行ってきました。講義タイトルは「なぜ大学に行くのか〜人的資本論的に考えてみる」。

所属ゼミでは、毎年オープンキャンパスで学部4年生が授業することが慣例となっていてます。実はこの講義は幾年もの間、ゼミで受け継がれてきたものです。かくいう私もこの講義を高校2年生の時に聞いて「こんな面白い分野があるのか!!」と興味を持ち、東北大学への進学を決意しました。

そしてこれはまた別の話なのですが、訳あって南魚沼市に2週間滞在することがありまして、その時出会った人に「専門分野を教えてください!」と言われたんですね。少し自分の研究の内容を話したら「教育経済学ドンピシャです!」なんて言われてしまいました。

輝かしいものには、必ず影となる部分があるものです。その姿が高校2年生、オープンキャンパスの自分の姿と重なり、過去の自分、そして南魚沼で出会った彼女に向けて注意として「教育経済学を学んで感じたギャップ」の話をしなければならないと思いました。なので今回は、自分の専門分野の一部である教育経済学をいまどう見ているのか、入学前と今の違い紹介しようと思います。

大きく3つ考えたことがあります。

教育経済学はあくまで"経済学"

教育経済学は経済学の教育に関する領域、もっと言えば計量経済学の一部です。経済学では「教育=投資」と見なすんですが、実はこれ教育学の世界ではタブーとされています。なぜなら、教育学における「教育」は個人の生産性を高める手段や国益のために行われる無機質なものではなく、人間として豊かに生きるためであったり、それ自体が尊いものであるという考え方があるからです。「教育=人間形成」と考えること教育学と「教育=投資」とみなして論を進める経済学は、実は相容れない関係にあります。

私は教育学部で教育経済学をやることになったので、これに凄く困惑しました。いまは、教育経済学にとって教育活動を投資と見なすことは必ず必要になる前提条件であり、これ仮定しなければ論を進められないので、私は教育経済学はあくまで経済学の1分野であると思っています。教育学部で教育経済学をやろうとすると、知識がないまま数式やらに触れることになり、大学数学や計量経済学の分野を自分で学ぶ必要があるので、凄く大変です。文系人材が教育経済学に挑戦しにくい理由でもあり、学び初めに最も大きく感じるギャップがこれに由来するものです。私は少しづつ線形代数や統計学を自学していたから助かってますが、経済学部に入っておけば良かったと少し後悔してます。

また、教育経済学はSDGsの「貧困をなくそう」と「質の高い教育をみんなに」では前者寄りだと考えていて、教育そのものに興味があるなら教育学に、教育の効果に興味があるなら経済学に強みを伸ばすべきだと思います。しかしながら教育経済学はそれでも"教育学"の分野でもあり、国内に目を向ける機会が多いのです。本当にSDGsの「貧困をなくそう」に取り組みたいなら、海外系の大学・学部をチェックするのが良いと思いますす。

教育経済学は時代に取り残されている(気がする)

2つ目は明確なエビデンスがなくて自分の感覚が強いのですが、日本では教育経済学の全盛期は既に過ぎ去っていると思います。そもそも、この分野は海外で1950年くらいから研究が進められて、その時期に経済理論を教育に応用する方法が確立されました。日本では1990年代に盛り上がりを見せ、国内では2000年あたりから下火になってます。最近の研究でも1990sや2000sの論文を先行研究としていたり、昔からよく活用される分析方法を新しいデータで計算する焼き増し方式の論文が多かったりします。実際に自分も20年前、30年前の本を読んで勉強する機会はよくありますし、先行研究としてそういった時期の論文もよく読みます。

興味がある・やってみたいという気持ちは十分に持っていたものの、かなり研究が進んでいる分野だと知らずに入ったので、私は少し後悔しました。一方で、自分も興味を持ったばかりなのですが、国際開発の領域、世界銀行やUNESCOの活動は何を基準にしていたり、研究したりしているんだろうといま興味を持っているところです。理論はほぼ整っている感じもありますが、探求すれば新しい事例を蓄積していける領域だとも思います。

教育社会学との関係

教育経済学において、教育とは高等教育を指す場合がほとんどです。高等教育とは、大学、大学院、専門学校、短大などのことを指します。義務教育以外のアディショナルな教育を投資とみなすので、塾なども研究対象になります。もし、小学校や中学校で起こっている事柄に興味がある人は教育経済学ではなく、教育社会学という分野を専攻するべきだと思います。教育社会学の守備範囲は非常に広く、男女のジェンダーに関わる問題(例えば男性と女性の学歴と職業の違いなど)や、学校の先生の働き方、部活動に関する問題なども議論されています。また、社会教育(生涯教育)と呼ばれる分野も別に存在します。これは学校を卒業しても学びは続くし、何かを学び続けることは生きがいに繋がる。人生のどの段階においても学びの機会を保証していくためにはどうしたらいいのか、そしてそこでは何が起こっているのかを観察する学問分野です。教育投資とリターンを深く考えたい人や、人的資本論に興味がある人であれば、教育経済学の分野に入ってみると良いと思います。

さいごに

いまから教育経済学を理解するためには松塚『概説 教育経済学』を読むと一番この学問が何を対象に、どうアプローチしているのか理解してもらいやすいと思います。  そして、興味のスコープが国内から国外に少しでも移りつつある人は、国際開発系の学部を見てみるといいんじゃないかなと思っています。
(これらは学部4年レベルで感じているもので、一個人の意見に過ぎません。)

最後まで読んでいただきありがとうございました。ご参考までに。

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