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蒜山ジャージーヨーグルト

「蒜山ジャージーヨーグルト」。

私を虜にして久しい、魅惑のヨーグルトだ。

牛乳は温めすぎると膜がはる。あの膜が張る現象を「ラムスデン現象」と呼ぶらしい。熱でタンパク質が固まったもので、体にとても良いらしいが、ぶよぶよしていて舌に残るので、私は少し苦手だ。

しかし、こちらの「膜」となれば大好物。

ここだけの話、消費期限をあえて過ぎさせて、「膜」が分厚くなり、凝縮したものを食べるのが密かな楽しみ。小さな罪悪感と共に、クリーミーな膜が舌の上で溶ける。但し、これが体験できるのは、こうなるまで食べることを我慢できれば、、、のおはなし。♪

岡山県真庭市北部に位置する蒜山高原は、上蒜山、中蒜山、下蒜山からなる蒜山三座山麓に広がる壮大な高原で、「西日本屈指の高原リゾート地」と呼ばれ、多くの観光客を集める。ログハウスが立ち並び、カントリーな雰囲気にあふれた高原の牧場は、日本一のジャージー牛飼育頭数を誇っている。

ジャージー牛とは、英領ジャージー島原産の乳牛だ。一般的な乳牛としてよく知られている白黒模様の「ホルスタイン種」と比べると小柄な体格。優しい褐色の身体。長い睫毛に大きな瞳、バンビのような愛らしい外見に加え、他の牛種よりも人懐っこくて好奇心旺盛。

ジャージー牛から絞られる牛乳は「ジャージー乳」と呼ばれ、大変濃く味わい深い。乳脂肪5パーセント、無脂固形分率は9パーセントを超え、栄養価も高く、βカロテンを多く含むため、黄色味がある。その色味から、「ゴールデンミルク」とも呼ばれる。

その希少なゴールデンミルクから作られたヨーグルトが、「蒜山ジャージーヨーグルト」なのだ。一般的なヨーグルトと比べ、その差が歴然と現れるのは、ヨーグルトの表面に黄金色の「クリーム層」が浮かぶこと。

このクリーム層は、新鮮なジャージー生乳を、そのまま殺菌し発酵させた時にできるもので、バターとも生クリームとも取れないまろやかな味で、一切くせがなく、優しく、スプーンにぴったり張り付くほど濃厚。そしてその厚い膜の下から現れるヨーグルトも、彼女の品格を引き立てる。主役をさらりとエスコートする紳士のように、スッキリと爽やかな味わい。濃厚なクリーム層と、爽やかな酸味を持つヨーグルトが絶妙のバランスなのだ。

そして不思議なことだが、爽やかな高原の下で、牛が健やかに過ごしたことが容易に想像できる、そんな味がするのだ。

濃厚な膜だけを、ぺろりと剥がして最初に食べてしまうのも良い。膜とヨーグルトを少しずつ崩しながら一緒に食べるのも良い。ここまで書くととても高価なものかと思うが、コンビニで買うヨーグルトよりも安い。

なのに、些細なカップひとつで、小さな国の王様になったような幸せな贅沢感に包まれることができるのだ。

岡山でも買える地域は限られているくらいなので、都内で滅多にお目にかかれない。あまり姿を現さない。その控えめなお姫様のような希少さが、恋しい気持ちを加速させる。


第39期 編集・ライター養成講座

「課題:自分が一番好きな食べ物を語る」より。

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