指さす方へ
刺しかけの刺繍がなかなか完成しない。
少しは進んだんだけど、せっかく仕事が休みだったあの日、他のことに気を取られてしまったからだ。
原因はポーチにある。
昔昔の懐かしいポーチを、発見してしまったのだ。
作ったのは30年くらい前、大学生の頃だ。
「moe 」という絵本雑誌があって(今もあるみたい)、高校生当時、竹下文子さんが書かれた「風町通信」という連載があった。
どこかにある「風町」で起こる不思議な日常のお話。
大人が読んだら???ってなる人が居そうなんだけど、当時高校生だった私はこの世界観にハマってしまった。
その連載をまとめた初版本を買ったのだけれど、その挿絵を描かれていたのが 飯野和好さんだった。
モジャモジャの髪の毛に切れ長の目が印象的な 飯野和好さんのイラストが、お話にぴったりで大好きで、それを刺繍してポーチに仕上げた。
刺繍なんてやったことがなかったのに、刺しにくい金色のラメ糸なんか使ったものだから、糸が絡まるわ切れるわで完成させるのがなかなか大変だった。
裏のポケット部分にも刺繍してある。
若い人はわからないかもしれないが、ダイヤル式の電話機だ。
本が出た当時、電話のダイヤル部分はもうプッシュ式になっていて、留守番電話機能もついていたしコードレス電話も出始めてたんだけど、祖父母の部屋にはまだグルグル回すダイヤル式の黒電話が置いてあったのを覚えている。
懐かしいな。
「あっち」
女の子が向こうを指さしている。
なんだかちょっと散歩に出かけてみたくなった。
その歳で?って笑われるかもしれないんだけど
指さす方に行けば
「風町」に行けそうな気がするから。
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