見出し画像

34鍼灸小説「道案内のシンシン」:物件探し②

物件探し二日目

今日は、たまプラーザ駅の近くのマンションの内見だ。

駅近くには高級住宅街があり、そこに住むセレブ達は

『美しがネーゼ』と呼ばれている。

地名の『美しヶ丘』を文字っているのだ。

もちろん都内の高級エリア白金に住む『シロガネーゼ』のパクリだ。

物件は駅から徒歩5分、見晴らしの良い7階で

2LDKの間取り、家賃は15万円と結構高い。

(ここで開業したら、僕もいつかは美しがネーゼの仲間入りかも)

画像1

内見を終え玄関を出たところで不動産屋さんが

「ご覧ください。この物件は外廊下も塀が低く、こちらからも見晴らしが良いでしょう!」

来る時は気がつかなかったが、確かに塀が普通より結構低い。

さすがオシャレな街の物件だ。

僕は携帯で何枚か写真を撮って家に帰った。

「ただいま〜」

「おかえりでござる!新しい家はどうだったでござるか?」

「うん!結構良かったよ。やっぱオシャレな街のオシャレな家って感じ!」

とシンシンに写真を見せた。

「ほう、さすがは美しがネーゼでござるな!」

目をキラキラさせながら写真を見るシンシン。

だが突如動きが止まった。

「比呂殿…この家は何階でござるか?」

「え?七階だよ」

「却下ござる」

「えっ!なんでよ?」

「却下でござる!」

「だからなんでよ!」

「拙者…高い所が嫌いでござる…」

「え?シンシン高所恐怖症なの?」

「まぁ、そんな所でござる…」

「なんで…猿なのに…」

パァーン!

「痛え!」

久しぶりに愛刀とうがらしが火を吹いた。

叩かれた頭を摩っている僕にシンシンは怒鳴りつけた。

「御主!こんな塀が低い家で、もし患者さんが落ちたりでもしたら責任取れるでござるか!」

画像2

(高所恐怖症の話はどこいったんだ…)

とは言えシンシンの言うことは

違った意味で的を得ている。

いわゆる自殺のリスクというやつだ。

鍼灸院にはメンタルを抱えた人も来院するため

飛び降りやすい場所というのは結構NGなのだ。

メンタルがボロボロでも、わざわざ高い所に行って身を投げようという人は少ない。

何故なら高い所に行く体力も気力も無いからだ。

それがもし治療を目的としてマンションの7階まで上がった時、低い塀が目についてしまった場合何が起こるかわからない。

想像すればするほど恐ろし・・・


東洋医学とメンタルは相性が良い。

古くからメンタルに対する治療の歴史があり

『身体と心は繋がっている』という哲学のもと、弱っている心の状態と内臓を関連付けて治療を行なってきた。

例えば

悩む事が多ければ脾臓が疲れ

悲しむ事が多ければ肺が疲れ

ショックな事が多ければ腎臓が疲れると考え

弱った内臓を治療することで心を回復させる。

他にも1200年以上前の中国、唐の時代では

女性のメンタルを向上させる目的で化粧品を処方したりもしていた。

東洋医学は昔から心の問題を重要視していたのだ。

「わかったよシンシン。高い所は危ないからやめておくね。」

「わかれば良いでござる!」

「何階までなら大丈夫なの?」

「うーん、四…いや、三階まででござるな!」

「了解!」

物件探しの条件に『三階まで』が加わった。


つづく
















シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂  (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)