20鍼灸小説「道案内のシンシン」: 願いを一つ
「いや〜このボールドラゴン🐉という漫画は最高でござるな!」
ボールドラゴンは7つの玉を集めると願いが叶うという冒険ファンタジー漫画だ。
主人公の猿がカッコイイとシンシンは現在どハマり中だった。
一方テレビでは連日、澤前社長がOZOZタウンを辞めたことや、付き合っていた女優さんと破局したことが報道されていた。
僕はシンシンの祟りか何かかと思いボールドラゴンを読みふけっているシンシンを遠巻きにマジマジと見ていた。
「ね、ねえ…シンシンのことを怒らせると祟られるとかってあるの?」
僕は恐る恐るシンシンに聞いてみた。
「祟り?何のことでござるか?」
シンシンは漫画に目を向けたまま、あっけらかんと答えた。
「ほら、神の祟りとかっていうじゃない?神様を怒らせるとバチが当たるとか、仏の顔も三度までとか…」
シンシンは、めんどくさそうに答えた。
「拙者は道案内の神でござるよ〜祟りなんかは専門外でござる」
それを聞いて僕はホッとした。
(澤前社長の件はシンシンのせいじゃないよね…)
シンシンはおもむろに漫画を閉じ立ち上がると
「拙者を怒らせると祟りなんてつまらん仕返しはしないでござる!一撃必殺の『めかめか波』をお見舞いするでござるよ!」
めかめか波はボールドラゴンの主人公の必殺技だ。
この前は雲に乗ってる風に写真を撮って欲しいと言われ、我が家はシンシン撮影会場となった。
それに満月の日は
「拙者の理性が飛んで巨大化したら、この街なんか一瞬で壊滅でござる!カーテンを早く閉めるでござる!」
とスッカリ主人公モードに入っていた。
ある晩
僕はシンシンに
「7つの玉を集めたら何をお願いするの?」
と聞いてみた。
するとシンシンは、う〜んと考え
「願いを3つに増やして!と願うでござる!」
「いやダメだよ!」
思わずツッコミを入れる。
(神様のくせに欲深い奴め…)
「くぅ〜1コでござるかぁ〜、難しいでござるなぁ、巨大なバナナも欲しいし、如意棒も欲しいし、7つの玉も欲しいし…」
(7つの玉を集めて願いを叶えてもらうのに、7つの玉を欲しがるんだ…ある意味無欲!)
「決められないでござる!お主は何を願うでござるか?」
とシンシン。
「う〜ん…願いねぇ…もっと鍼灸院比呂の事を知ってもらいたいかな?」
「ふーん何かつまらない願いでござるな、もっと世界征服とか永遠の命とか超能力とかあるでござろう?その程度の願いなら7つの玉を集めるまでもないでござる。」
僕はシンシンの話を上の空で聞きながら
散らかった漫画を本棚に片付けた。
翌日
「ホームページのSEO対策はお済みですか?」
という電話がかかってきた。
僕はSEOという言葉を知らなかったため
「SEOって何ですか」と質問すると
会って詳しい話をしたいというので午後に家に来てもらうことになった。
ピンポーン
「始めてまして私、さるさるネットの田中と申します」
と名刺を渡された。
名刺にはホームページ作成、SEO対策ならお任せ
さるさるネット 田中伸の介と書いてあった。
僕は猿のイメージキャラクターと伸の介って名前がシンシンみたいで勝手に親近感が湧いていた。
田中さんが言うには
SEO対策というのは治療を必要としている人がネット検索した時に治療院のホームページが上位検索に出るよう工夫する方法らしい。
なんでも僕のホームページは名前で調べればネットで検索に引っかかるが、辛い症状で鍼灸院を探した時には出てこないらしく
「当社のホームページを契約して頂ければ、あらゆる検索ワードで鍼灸院比呂様を上位に表示することが可能です!もちろん院長先生は何もしなくて大丈夫です」
と言いながら田中さんは鞄からホームページのイメージ図を見せてくれた。
「こちらは鍼灸院比呂さまのホームページをイメージして何パターンか作成したものです」
さすがプロが作るホームページなだけあって、どれも見やすくオシャレだった。僕の手作りホームページとは雲泥の差だ。
「それに今なら期間限定で半額ですよ!半額」
「え!半額なんですか?」
「はい!月々六万円の所を、三万円です!ホームページ作成料も込み、SEO対策も込み、情報を変更したい時も五年間は年中無休で即座に更新いたします」
「三万円はちょっとキツイなぁ…」
と僕がモジモジすると
「半額といえども三万円は確かにお高いかもしれません…しかし弊社のホームページにして新しく患者様が来院されれば簡単に元が取れます!新規の患者さんの平均来院回数は月でどのくらいでしょうか?」
と田中さん。
「う〜ん少なくて一回、多くて三、四回かな?」
「では間を取って二回としましょう鍼灸院比呂様の治療費が五千円ですので弊社のホームページで月に三人新規の方がこればOKということです!」
「え〜そうですかねえ?」
「分かりました、ではこうしましょう!今御契約頂けましたら今月と来月の費用は一万円で結構です。」
(一万円なら何とかなるな…)
僕は田中さんの営業トークに乗せられ契約書にハンコを押してしまった。
(大丈夫だよね…きっと何かの縁に違いない…)
そう自分に言い聞かせながら、僕は田中さんを送り出した。
つづく
シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂 (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)