鍼灸小説「道案内のシンシン」〜その8: 手土産
「おはようございます黒田院長!実はお話が…」
僕は出勤途中にある和菓子屋さん庵末広で川崎ダッワクースを手土産に買い、少し早めにマッサージ院に到着した。
黒田院長は既に院の掃除を始めていた。
「おはよう!陶山君今日も早いね!」
掃除の手を止めて笑顔で挨拶をする黒田院長。
「黒田院長!すみません。僕ここでは働けません。これほんの気持ちですが受け取ってください!本当に申し訳ありません!」
僕は深々と頭を下げながら、手土産の川崎ダッワクースを差し出した。
「え?何?何?どういうこと?と、とりあえず話を聞かせてよ。こっちで話そう」
黒田院長は戸惑いながら、僕をスタッフルームに招き入れた。
黒田院長は紅茶を入れ、川崎ダッワクースを取り出した。
「陶山君、僕がダッワクース好物なの知ってたの?ありがたいねぇ〜」
と言いながらモグモグ食べ始めた。
僕は働けない理由を誤解がないように丁寧に説明した。
条件も待遇も良いし、黒田院長も素敵だと思っている事、慰安でのマッサージがお客さんに喜ばれる素晴らしい仕事だということも伝えた上で、自分が何故この職業を選んだのか、過去のエピソードを簡潔に伝えた。
黒田院長は僕の話を聞きながら川崎ダッワクース
を4つも平らげていた。
(本当に好物だったんだ…)
黒田院長は紅茶を飲み干すと
「ふぅご馳走さま。そっか残念だね〜、お父さんは今は元気なの?」
「あ、はい父は元気にしています。」
黒田院長は笑顔で頷いた。
「それは良かったね。僕はお婆ちゃん子でね〜この業界に入ったのも婆ちゃんの肩叩きでお小遣もらってた延長みたいな感じだからさ、慰安の仕事大好きなんだよ〜。きっと陶山君は『癒す』ことよりも『治す』ことが好きなんだね。頑張ってね!」
どこまでも優しい黒田院長に僕は泣きそうになった。
(できた人間ってこういう人の事言うんだろうな…)
「ありがとうございます。本当に申し訳ありません。朝の準備だけ手伝わせて下さい!」
僕は深々と頭を下げた。
「あ、ありがとう、僕もダッワクース食べ過ぎて朝の準備億劫だったから助かるよ〜」
と黒田院長。
どこまでも癒し系だ。
僕は朝の準備をテキパキと終え、もう一度黒田院長に深々と頭を下げマッサージ院を後にした。
つづく
シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂 (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)