鍼灸小説「道案内のシンシン」〜その6: マッサージの仕事
昨日黒田院長のマッサージが効いたのか
はたまた新しい仕事への期待なのか
いつもより早く目が覚めた僕は、部屋の隅々を掃除して回った。
「ついに、このサイズまできたでござるな!むにゃむにゃ…」
シンシンがお腹をポリポリかきながら
寝言を言っている。
(どんな夢見てるんだか…)
僕はコーヒー豆をゴリゴリと挽きながら
「シンシン朝だよ〜」と声をかけた。
コーヒーの良い香りが部屋に漂う。
「むにゃむにゃ…クンクン、むにゃむにゃ…クンクン、今日はキリマンジャロでござるな!」
鼻をヒクヒクと動かしながらシンシンが起きてきた。
「正〜解!おはようシンシン!」
朝食をサッと済ませ、出勤時間より少し早いが出発することにした。
「じゃあ、行ってくるね。」
「行ってらっしゃいでござる!大統領殿は何時頃帰られるでござるか?」
(まだ大統領っ言ってる…w)
「帰りは22:00くらいかな?」
「結構遅いでござるな、拙者夜食を食べても太らない体質だから心配御無用でござるよ比呂殿!」
(これはお土産買ってこいってことだな…)
「OK。じゃあ行ってきま〜す」
「頑張るでござるよ〜」
シンシンは大きく手を振って送り出してくれた。
僕の家からセンター北まで自転車で約20分
バスと電車を乗り継いで行くことも可能だが、交通アクセスが悪く40分くらいかかってしまう。
今日みたいに晴れていると絶好の自転車日和だ。
センター北のマッサージ院に到着すると入口で黒田院長と一緒になった。
「陶山君。おはよう!早いね〜」
「黒田院長おはようございます!今日から宜しくお願い致します!」
午前中は黒田院長と受付さんに院内の準備を教わる。
治療院の朝は掃除とタオルや患者着をたたむ仕事が多い。マッサージ院だと手拭いも大量に使うため手拭いのアイロンがけもする。
平日ということもあり、患者さんもチラホラしか来ない。
午前中の空いている時間に就労について説明があった。
「昨日の面接の時に軽く説明したんだけど念のため確認ね。え〜最初の1ヵ月は研修期間になります。その間は歩合給で5割。うちは1時間6000円だから、陶山君の取り分は3000円ってことね。
で1ヵ月たってお互いに大丈夫って感じなら、正規雇用ってことで歩合給が6割になります。また最低保証として15万円を設定しています。
まあ、うちは大繁盛店ってわけじゃないから
ひっきりなしにお客さんが来るわけじゃないけど
最低でも一日2〜3人は担当するから
月に20万は入ると思います。
もちろんリピーターが付けば、月5、60万は稼げるよ」
と一通り黒田院長の説明が終わった後
「あの〜鍼灸を受けたいっていう患者さんはいますか?」
と質問してみた。
「う〜ん…うちはマッサージ院って看板に出してるからねぇ…あんまり鍼灸を目的に来るお客さんはいないかな…」
と黒田院長は申し訳なさそうに答えた。
午後になるとマッサージ院にお客さんがチラホラ増え出し僕も1人を担当させてもらった。
「今日担当させて頂く陶山と申します。全身マッサージ40分ですね。宜しくお願いします」
僕は挨拶を済ますと、昨日教えてもらったように40分で全身のマッサージをした。
ペース配分も完璧だし、結構コリも解れたし我ながら上出来な仕事ぶりだな
と自己満足に浸る中
「陶山君、どうだった?緊張しなかった?」
と黒田院長。
「あ、はい!大丈夫でした」
と僕は胸を張って答えた。
「できればね、もう5分くらい延長してマッサージしてあげると、お客さんも沢山やってくれたって喜ぶから次回からそうしてあげて」
と黒田院長
「はい。わかりました。次から気をつけます」
気持ちよく返事をしたものの、僕は少し戸惑っていた。
前の職場では「患者さんには次の予定もあるんだから時間厳守を心がけて治療してください!」と言われていて
もし5分も伸ばそうものなら院長から50分は説教される覚悟をしなければならなかったからだ。
その後、夕方に1人夜に2人担当させてもらい初日の仕事を終えた。
研修期間は日当で渡してくれることになっており今日の売上が16000円で僕の取り分が5割なので8000円を帰りに手渡された。
つづく
シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂 (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)