見出し画像

21鍼灸小説「道案内のシンシン」: 176万


さるさるネットの田中さんを送り出し、しばらくするとシンシンが帰ってきた。

「ただいまでござる〜」

「おかえり、どこ行ってたの?」

「七つの玉を探しに行ってたでござる」

シンシンは嬉しそうに赤いカラーボールを握っていた。

「それどこで見つけたの?」

「そこの公園で見つけたでござるよ!拙者興奮して他の玉を隅々まで探していたら、こんな時間になってたでござる。」

(それゴムボールだよ…)

そんなことよりも僕はシンシンに見て欲しいものがあった。

「見て見て!」

と、さるさるネットさんが持ってきた

サンプルのホームページデザインを

シンシンに見せてみた。

「何だかオシャレでござるな!

ここの隅にボールドラゴンの画像を入れてボタンも全て七つの玉のデザインにすると、もっとワクワクすっぞ!でござるよ」

とシンシンは目を輝かせた。

「でしょ!でしょ!ボールドラゴンは著作権があるから入れらんないけどねー。これで新規の患者さんもきっと増えるよ!」

「ついに極貧丸ごとバナナ生活も終わりということでござるな!」

「何だよ、極貧丸ごとバナナって」

と僕らは大笑いした。

画像3

「これは何でござるか?」

「あ、それホームページの契約書。人生で初めて契約書に印鑑押したから緊張しちゃったよ〜」

シンシンは契約書を手に取り、読み始めたと思ったらワナワナと震え始めた。

「シンシンどうしたの?」

「お主、これだけのお金を隠し持っておきながら拙者に丸ごとバナナを節約させてたでござるか?」

「え?何のこと?」

「しらばっくれるなっ!でござる!

百七十六万円もの契約をいとも簡単に済ますとは!」

シンシンは契約書を僕の目の前に突き付けた。

画像3

僕は慌てて契約書を読み直した。

よく見ると、小さく5年契約と書いてあった。

つまり毎月三万円を五年間払い続けるということなのだ…

「えーっと三万円×十二ヶ月が三十六万円で…」

ぼくがマゴマゴと計算をしていると

「百七十六万でござる!」

「え?」

「だから!三万円×十二ヶ月×五年間-四万円で百七十六万円でござる!」

とシンシンは早口で説明した。

(シンシンって意外にも数字に強かったんだ…)

感心している場合ではない。

「お主は百七十六万円もの大金を出して、そのホームページを買い、五年ローンを組んだってことでござるよ!」

僕は頭の中が真っ白になり何も言い返せなかった。

それを見たシンシンは

「お主、分からないで契約したでござるか!」

と僕を怒鳴りつけた。

「う、うん」

と僕は小さな声で応えた。

「かぁ〜情けないでござる!それでよく院長が務まるでござるな!」

「だって田中さんが、さるさるネットのホームページにすれば毎月新患さんが増えるっていうんだもん!それに昨日僕の願い事の話をしたら容易く叶えれるみたいなことをシンシンが言ったんじゃないか!さるさるネットの伸の介なんて人が来たら、そりゃシンシンが願いを叶えに来てくれたんだと思うじゃないか!」

と僕は逆切れして言い返し、田中さんの名刺を叩きつけた。

シンシンは名刺を拾い上げ

画像2

「馬鹿でござるか!漫画の見過ぎでござる!」

と愛刀とうがらしで僕の頭を叩いた。

「痛ったぁ!殴ることないだろ!」

「馬鹿は殴らなきゃ治らないでござる!」

「馬鹿馬鹿うるさい!シンシンだって馬鹿だよ」

「拙者のどこが馬鹿でござるか!」

「その赤い玉は、ただのカラーボールで子供の玩具だよ!シンシンの馬鹿!」

「え…おもちゃ…」

シンシンは呆然としている。

「さっさと公園に戻してきなよ!」

「わかったでござる…」

シンシンは赤いボールを拾い上げると

トボトボと家を出ていった。

そんな寂しそうなシンシンの背中を見て僕は罪悪感に苛まれた。

つづく



シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂  (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)