15:鍼灸小説「道案内のシンシン」:宣伝
いよいよ始動した『鍼灸院比呂』だが宣伝しなければ当然患者さんは来てくれない。
宣伝にも様々なものがある
口コミ、チラシ、ホームページ、新聞折込み、電話帳、などなど
けれど僕には広告にかけるほどのお金が無いので、チラシとホームページは手作りしていくしかない。
幸いチラシは学芸大の鍼灸マッサージ院で作ったことがあるし、ホームページも叔父さんの中華料理店のために作ったことがあるので、何となく要領は得ていた。
簡単なホームページを作っておくと、チラシを見て興味を持った人がネット検索した時に詳しい情報が得られる。
チラシに詳しい情報を載せられればいいのだが、そこには『広告規制』というものがあって、
治療院の名前、電話番号、営業時間は載せていいけど効果効能は載せちゃダメとか
得意な治療や経歴なんかも載せちゃダメという厳しいルールを課せられている。
要するに誇大広告で詐欺紛いに患者さんを集める方法を事前に取締っているようなものだ。
この広告に関する法律はインターネットが普及する前に作られているため、ホームページに関する規制は、まだ厳しくなく詳細を載せられるというわけだ。
僕は早速ホームページとチラシを作った。
保健所に届け出を出してすぐに叔父さんに電話をして開業することを伝えると
「店にチラシ置いてやるから持ってこいよ!」
と言ってくれたのでチラシを20枚ほどコピーしてお店に持っていった。
ランチタイムを避け10時半くらいに店に顔を出すと叔父さんはせっせと食材の下ごしらえをしていた。店内はカシューナッツをローストした良い香りで包まれていた。
「叔父さん!持ってきたよ!」
「お!ちょうど良いタイミングで来たな!ジャーン!」
そう言いながら叔父さんは背中を向けた。
叔父さんの背中に
『鍼灸院比呂』の文字が入っていた。
「え〜何これ!」
「カウンターキッチンってお客様に背中向けることが多いだろ?そこで背中を広告スペースにしたってわけよ!ちょうど今朝刺繍を頼んでいた所から届いたとこだったんだ」
叔父さんは僕が開業したことを聞いて直ぐに背中に刺繍をオーダーしてくれていた。
「ありがとう!叔父さん。これチラシ持って来たからお願いします!」
「あいよ!そこのカウンターの1番目立つ所に置いときな!なんか食ってくか?」
「うん!鳥とカシューナッツの炒めが食べたい!」
まだお昼前だが朝ご飯も食べずにチラシ作りに没頭してたから腹ペコだった。それにあのカシューナッツの香りを嗅いでからお腹はずっとグーグー鳴りっぱなしだ。
「俺が開業進めたんだから儲けの半分はマネージャーである俺ん所持ってこいよ〜」
冗談まじりで鍋を振る叔父さんに
「え〜、それじゃマフィアじゃん!」
と僕は笑いながらツッコミを入れた。
「今日のお代は開業祝いってことで俺の奢りだ!浮いたお金でデザートでも買って帰んな!家で待ってる恋人の1人や2人いるんだろ?」
と言って鳥とカシューナッツの炒め定食を出す叔父さん。
「そんな人いないよ〜」と言いながら僕は鳥カシューをガツガツ食べた。
(恋人じゃなくて猿なら首を長くして待ってるけど…帰りに丸ごとバナナ買って帰ろう…)
そんなことを考えながら、あっという間に食べ終えた僕は
「ご馳走様!」
と元気に伝えて店を出た。
つづく
シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂 (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)