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23鍼灸小説「道案内のシンシン」:ネギを背負った鍼灸師

「あ、結構です」

「間に合ってます」

「興味ないです」

僕は溜め息をついて電話を切った。

今日は朝から営業の電話が鳴りっぱなしだ。

さるさるネット解約事件から僕はSEOについて勉強をし、ネット検索で上位に表示されるようホームページを改良した。

その効果もあってか少しずつ患者さんからの問い合わせが増えてきた。

しかし

営業の電話も数多くかかってくる。

多くはSEO対策やホームページ作成の営業だ。

先日は雑誌社から

「腕の良い治療家を雑誌で特集することとなりまして鍼灸院比呂様の噂を耳にしました。是非掲載させて頂きたく…」

と言われ喜んで詳しく話を聞くと

掲載するのに六万円かかると言われ断った。

この前はウェブマガジンをやっているという会社から

「当社と懇意にさせてもらっている芸能人の方が鍼灸院比呂様の治療に大変興味があると言っておりまして取材させてもらえませんか?」

と言われ喜んで話を聞くと

「取材後に芸能人の方に謝礼を払わなければいけないので半分を比呂様のほうで用立てて頂きたいのです。五万円ほど…」

(取材された側がお金払うって何だよ…)

もちろん断った。

ちょっと考えれば解ることだが、新しく始めたばかりの鍼灸院が噂になったり、誰かが興味を持つなんてことは無い。ましてや芸能人が興味を持つなんてことは100%無いのだ。

しかし

この『ちょっと考える』ことをさせないテクニックが営業トークなのだ。


興味本位や暇つぶしで話を聞いたり、ましてや営業マンと仲良くなって患者さんになってもらおうなどと浅はかな考えで営業トークを聞いてしまうと、気がつけば契約書に印鑑を押している自分がいる。

プロの営業は、もはや催眠術と言っても過言では無い。

鍼灸師は営業されることに全く慣れていない。

新規参入の鍼灸師は営業マンから見ればネギを背負った鴨そのものだ。

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他にも

予約管理はどうですか?

電子カルテ導入しませんか?

セミナーに来ませんか?

数え上げたらキリがない。

営業電話に疲れた僕は、3秒以内に電話を切るというルールを設けた。

例えば

「もしもし〜ワタクシ」

という言葉で9割以上が営業なので切る準備に入る。そして会社名を名乗ったら。

「結構です」と言って電話を切る。

これで、2〜3秒で対応が可能だ。

このルールで対応していたら、ある日

「結構です」ガチャ!

と電話を切ったらすぐに電話が鳴った。

「はい鍼灸院比呂です」

「………」

「もしもし〜鍼灸院比呂です〜」

「………」

「もしもし〜」

「………」

無言電話だった。

電話を切ると、もう一度電話が鳴った。

「はい鍼灸院比呂です」

「………」

無言電話…

しかし後ろで営業電話らしい声と、さっきかけてきた会社名が薄らと聞こえた。

つまり営業電話をかけてきた人間が、僕に電話を切られたことで腹を立てて無言電話をかけてきたのだ。

僕は怒りよりも怖さを感じた。

(こういう人がストーカーとかになるのかな…)

僕は小さな声で「失礼しまーす」と言って電話を切った。

3秒以内ルールは危険と感じ5秒以内に変更した。

加えて

「結構です」とぶっきらぼうに対応するのをやめ、「すみません。結構です」と柔らかく伝えて電話を切ることにした。

つづく

シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂  (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)