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鍼灸小説「道案内のシンシン」〜その30:歯痛③

虫歯生活3日目

昨夜は結局明け方までセミナーの復習をしていた。4時くらいに痛みより眠気が勝ったのか、ようやく眠ることができた。

「比呂殿起きれるでござるか?」

「あ、おはようシンシン…」

外からゴミ収集の音楽が聴こえる。

僕はパッと時計を見た。

「やばい8時半過ぎてる!ゴミ出さなきゃ!」

と慌ててゴミ箱から袋を出そうとすると中身は空っぽになっていた。

「拙者が出しておいたでござるよ!」

なんとシンシンがゴミを集めて出してくれていたのだ。

「ありがとう!シンシン!」

「大したことでは無いでござるよ!さ、比呂殿まだゆっくり寝るでござる。身体に毒でござるよ!」

「え?なんのこと?」

「…、昨日無理したんでござるから、今日は身体を休めるでござる!」

(やべー病気のフリしてるんだった…)

「あ、あ、ありがとう。ちょっと横になるね…」

「比呂殿…」

シンシンは僕の顔をジーっと覗き込んだ。

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僕はシンシンの真っ直ぐな目を見ていられず布団の中に潜り込んだ。

(ヤバイ…あれは全てを見透かす眼だ…)

しばらくするとシンシンはキッチンほうに行って朝ご飯の支度を始めた。

僕はふぅっと溜息をつき布団から顔を出すと携帯で休日でも開院している歯医者さんを探した。

すると家から自転車で20分くらいの所に一件だけやっている所を見つけた。

(九時半開院か!よし!)

僕はシンシンが用意してくれた朝粥を一瞬で食べ終えると、急いで服を着替えて玄関に向かった。

何やら不穏な雰囲気を背中に感じたが、敢えて振り向かず

「行ってきまーす」

とだけ告げ家を出た。

外は良く晴れていて、朝の澄んだ空気で満たされていた。

普段だったら、こんな日は最高の自転車日和である。でも歯が痛いってだけで外の気持ち良さを全く感じられないことが不思議だった。

「ふぅ、やっと着いた」

痛みのせいか、寝不足のせいか、やたらとペダルが重たく感じた。

結局三十分かかって、お目当ての歯科医院に到着した。

「すみません。予約していないのですが診てもらえますか?」

「ちょっとお待ち頂きますが、大丈夫ですよ。保険証をお願いします」

僕は受付に保険証を出した。

「それでは、こちらに記入をお願いします」

僕がカルテを記入していると

隣りに座っていた小学校3年生くらいの子供が呼ばれ、不安そうに中へ入っていった。

キーーン

キュイーン

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

もう少し口開けてー

キュイイイーン

ぎゃぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

待合室にまで断末魔の叫びが聞こえる…

(おいおい大丈夫かココ…)

僕は不安になりながらも書いたカルテを受付に出して雑誌を読んで気を紛らわせた。

ガチャ

治療を終えて出てきた子供を見てギョッとした。

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髪の毛が全て逆立って、顔面蒼白、ボー然とした顔をして、へたりこむように席に座った。

(か、か、帰ろう)

そう思って立ち上がろうとした瞬間

「陶山さーん。お入りください」

と呼ばれてしまった。

つづく




シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂  (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)