19鍼灸小説「道案内のシンシン」: OZOZタウン
ガチャ…
「比呂殿…」
玄関で前のめりで倒れるシンシン。
「え?ちょっと大丈夫?ボロボロじゃないか!」
玄関で倒れたこんだシンシンを揺さぶる僕。
「うお〜ん」
シンシンは急に泣き出した。
話を遡ること三時間前…
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ある日、三時に食べようと思っていたオヤツが無くなっていた。シンシンが隠れて食べてしまったのだ。
「拙者知らないでござるよ…」
ちょんまげが揺れている。嘘をついている時シンシンのちょんまげは必ず揺れるのだ。本人(猿)はこの癖を知らないが…
「いや!絶対シンシンが食べたんでしょ!」
僕は問い詰めた。
「あぁー拙者が食べたでござる!たかだかオヤツくらいでお主も器が小さいでござる!一国一城の主となったくせに人間が小さければ人も集まらないでござるよ!」
とシンシンは逆切れした。
治療院が暇なのと空腹も合間って僕の苛立ちはピークを迎えていた。
「だいたいシンシンは毎日食べて飲んでばっかりで!全然僕の道案内なんかしてないじゃないか!
道案内の神っていうくらいなんだから、ちょっとは助けてよ!
そもそも、誰かシンシンのお陰で成功したって人いるの?」
僕はシンシンに吐き捨てるように言った。
「フン!拙者のお陰で成功した人間なんて
山ほどいるでござる!」
「だったら誰か名前を出してみなよ!どうせいないんでしょ!いても大したことないに決まってる!」
するとシンシンは手をポンと叩き
「この前『お年玉』とか言って100万円配ってた奴がおったでござろう、えーっとゾゾ…」
「え!OZOZタウンの澤前社長?」
あまりのビックネームに僕は驚きを隠せなかった。
(OZOZタウンの澤前社長っていったら資産何千億円っていう大金持ちじゃないか…)
驚きたじろく僕を見て、シンシンは優越感に浸ってるようだった。
「そうそう、それでござるよ。OZOZ…
あれは拙者に感謝してる二回の土下座のマークで『OZOZ』と言ってたでござる!」
(本当かよ…)
僕は偉そうに語るシンシンにイラッとして
「だったら僕みたいな貧乏人の所で丸ごとバナナなんかせがんでないで、澤前社長のところで贅沢三昧して暮らせばいいだろ!」
と勢いに任せて言ってしまった。
「あー!そうでござるか!お主がそういう態度なら拙者はもう知らんでござる!」
シンシンは腕を組み頬を膨らませた。
「こっちだって知らないよ!」
「出て行くでござる!本当に出て行くでござるよ!」
「もう知らないってば!」
「いいのでござるか?ファイナルアンサーでござるか?」
「もう、うるさい!出てけ!」
するとシンシンは、とぼとぼと出て行ってしまった。
僕は布団に包まって小さな声で呟いた。
「どうせ澤前社長の道案内をしたなんて嘘に決まってら…」
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そして3時間後
ボロボロになったシンシンが帰ってきた。
「どうしたんだよ、澤前社長に会いに行ったんでしょ?」
「会えたは会えたでござる。でも酷いんでござる!
砂糖マンゴーとか言う紫のジュースを出してきて一緒に飲もう!なんて言うから喜んで飛びついたら全然甘くもない、マンゴーの匂いもしないジュースを飲まされたでござる!拙者を騙すなんて澤前は悪人でござる!」
(それってシャトーマルゴーなんじゃ…あれって1本20万くらいしたような…)
しかも、拙者の丸ごとバナナ巨大化計画を鼻で笑って、これから女優さんとデートに出かけるから帰ってくれと言われたんでござる!
拙者より、あんな厳つい名前の女優を取るだなんて許せないでござる〜
うおーん、あんな奴道案内するんじゃなかった!うおーん」
(厳ついって…彩芽さんのことかな?)
「それで何でボロボロになっちゃったんだよ?」
「これは帰り道犬に吠えられビックリして飛び退いたら道路の溝に落っこちたんでござるよ…」
(道案内の神が道の側溝に落ちるなんてことがあるのか…)
僕は笑うのを必死に堪え
うおんうおん泣くシンシンの背中を摩った。
つづく
シンシン 「サポートが加われば鬼に金棒 拙者に丸ごとバナナでござるよ!」 比呂 (そこは愛刀とうがらしじゃないんだ…)