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おでんの具。

かあちゃんは、
家事一般が苦手である。

それは、もちろん料理も苦手である。

かあちゃんがごくたまに料理を
すると、
カレーかおでんなのだ。

あとは、
パン。
カップラーメン。
インスタントラーメン。

たまにキャベツやレタス、大根等の野菜を、
そのままカジれ!
とドンっとテーブルに置くだけ。

その時は、
かあちゃんの全てが限界な時。

何もかもがうまくいってない時なのだ。

お金が底についた時は、
もやしを袋ごと渡してくる。
それを、そのままボリボリと食べるのだ。


唯一、月に一回だけ
半額シールのついた
お惣菜を食べれた。

それは、いつも通る、
どこかしらの食べ物屋さんの匂い。

ご馳走が食べれる!と
特別な気持ちになって、
背筋を伸ばして、すまして、
少しづつ食べ、味を噛みしめていた。

そんなかあちゃんの
作るおでんは、
市販の練り物、
こんにゃくは手でちぎる。
ここまでは普通なのかな…。

だが、かあちゃんは、
キャベツそのまま、
ジャガイモもそのまま、
にんじんをなんの迷いもなく
半分に切って入れ、
安物のウインナーを入れるのだ。

そして…コンソメとたじの素を
ドバッと入れて、煮込む。

そして完成されたのが、
我が家のおでん。
ジャガイモもニンジンも
大きくて硬くて…アゴが痛かった。

大人になり、
ポトフとやらを
食べてあれ?
懐かしい感じがする…。
何でだ?

あっ!おでん。

かあちゃんのおでんだ。

あれ?
かあちゃんのおでん。
ポトフなのか?

でも、おでんの具あったよな…。

オリジナルすぎるだろ…。

ハイカラなかあちゃんだな。

しかし、なぜそうなったのか…。

いつもの食事で、
インスタントラーメンにも、
安物ウインナーを入れてあったっけ。

かあちゃんは、
何でも安物ウインナーだ。

カレーは、
玉ねぎは皮は剥くが、そのまま。
ジャガイモなんて、皮付き芽付きそのまま。
ニンジンも皮付き真っ二つに切るだけ。
肉は安物ウインナー。
たまに魚肉ソーセージそのまま。
にカレーのルーを入れて煮込む。

かあちゃんはいつもカレーを焦がす。

なのに、
もちろん全部の野菜は、
硬くシャリシャリしている。

そして、焦げで少し苦いのだ。

それがカレーと言う物だと、
信じていた。

だからかあちゃんに、
嬉しそうに手話で、

オイラのために、作ってくれたの?
わーい!うれしいなぁ。
かあちゃん、すっごく、おいしいよ!
かあちゃん、ありがとう。
だいすきだよ。

と笑顔で喜んでたべるのである。


そして…
小学校に入り、
給食は、初めて食べる物が
たくさんあった。

いつも、こんな食べ物あるんだ!
と驚いて食べてた。

まわりの同級生は、
給食がまずいと文句を言ってるのが、
なんて事を言うんだと信じられなかった。

給食のカレーを食べて、
衝撃を受けるのだ。
や、やわらかい…。
シャリシャリ…してない…。
ホクホクして…る。
あまい?苦くない…。

なんだこのカレーは!

いつも給食の美味しさに
泣きながら食べるのだ。

そして、かあちゃんの、
頭の中の固定概念を疑い、
かあちゃんの
不器用さ加減を知る。

それから、小学校に入ってから、
私の家事の一つにご飯作りがはいる。

早く給食を食べて、
先生には、トイレと言う。

だが、行き先は、
給食のおばちゃん達の所。

作り方を教えてもらっていた。

次第に、
給食のおばちゃん達は、
私の為に材料や料理手順を、
書いたレシピをいくつか、
わざわざ書いてくれていた。

おばちゃん忙しいのにありがとう。
おばちゃん達の給食がおいしくて、
かあちゃんに食べさせたいんだ!

そう言うと、おばちゃん達は
いろんな料理の作り方書くから、
またおいでよ。

かあちゃん喜ぶといいね。

と私を応援してくれた。

初めて作ったのは、
チャーハンだった。
もちろん安物ウインナー入り。

かあちゃんは、
はじめ、私が作ったのを驚いていた。
信じられないような顔をして、

お前が作ったのかい?
ホントかい?
と顔を歪めながら手話で、
ウソ、ウソと示していた。

だが、
私が作ったご飯を、
やれやれと食べてくれた。

そして、
こんなに美味しいの…
食べた事ないよ…。
おまえは、すごいね…。
かあちゃんは本当にダメだね…。
本当に…おいしいよ…。

おいしくて…泣けてくるよ…。

と泣きながら食べてくれた。

そんな、かあちゃんに、
オーバーリアクションの手話で、

これから、オイラがご飯作るからね!
かあちゃんの為にいーっぱいつくるよ!
でもね…
かあちゃんの作るご飯のほうが、
もっと、もーと、おいしいよ。
オイラすごーくだーい好きだもん。

こんど、
かあちゃんの作るご飯、
食べたいなぁ…
ねぇ、かあちゃん作ってくれる?

と手話でお願いと示した。

かあちゃんは泣きながらうなずく。


うれしいなー。
そうだ、こんど一緒に作ろう。
かあちゃん料理教えてね。
オイラがんばるね。

とかあちゃんに優しく伝える。


かあちゃんは大好きな笑顔で、
私の頭を撫でてくれるのであった。

なので、
おでんの具の中で、
何が好き?

と聞かれたら迷わず、

かあちゃんのおでん。

と答える。

すると、
え?いやいや…
そのおでんの中で、
好きな具は何なの?
と聞かれるので、

安物ウインナー!

となんの迷いもなく即答するのだ。

そして…苦笑いされ、
頭いかれていると思われる。

だから、人付き合いは苦手だ。

ひねくれ者の私は、もう二度と、
私生活の質問は答えないと誓うのだ。

ごめんよ、かあちゃん…。
でもまた食べたいな…。
かあちゃんのおでんとカレー。

かあちゃんの愛情がたくさん
入ってて、すごく美味しくて、
大好きだったんだ。

たまにお腹壊すけどね…。






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