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冷凍そば。

高校に入ってすぐの頃、製麺会社で働いていた。

主に色んな麺の製造なのだが、
まだ高校生になったばかりの私は、
上手い事、社員に使われていた。

毎日、色んなフロアに行き、
そこで作業させられていたのだ。

その中でおばさんパートだらけの、
あるフロアがあった。

そこでは、
コンビニのお弁当コーナーに、
売られている麺類の、
製造をおこなっていた。

パスタにそば、うどん、そうめん、
ラーメン、冷やし中華等の
製造をしていた。

ベルトコンベアに流れてくる、
容器に入った麺類に、
具材やつゆや薬味等を、
役割の人が詰めていく作業だ。

夏場になれば永遠に終わらない作業。
冷やし中華に、そば、そうめんと売れるからだ。

麺製造機からの熱い風がこもっており、
そこは、サウナ状態である。
しかも髪の毛が入らない様に白いほっかぶりをし、
マスクをし、厚手の白い長袖の制服を着て、
手にはゴム手袋をしなければいけない。

汗が滝の様に流れると言う意味を知る。
指や体のサイズが変わるぐらい、
体の水分が汗で失っていた。

ほんの少しのあいまに水分補給するのだ。

それでも、かってがわからない私は、
なかなか水分補給出来ず、脱水症状になり、
倒れ、運ばれた。

それから私は、ついていけないので、
別のテーブルに、あらかじめ、
用意されている、パスタ系や焼きそばの
麺や具材を写真を見ながら、
完成させる作業をしていた。

秤に容器を乗せて麺を一定の量を入れ、
秤から下ろして、

あとは具材があればのせて、
蓋をして、
自動でフィルムとシールが
機械に通すと貼られて出来ている。

それを冷蔵室に持っていく作業をしていた。

おばちゃん達のくだらない話を、
聞きながらひたすら作業していた。

年末近くになれば、おばちゃん達は、
旦那の扶養控除の為に
それぞれ休みはじめる。

なので、人手が足りなくなる。
夏場は麺は良く売れた。
だが、それを過ぎれば忙しさも、
ほとんどなくなっていたと思っていたのだ。

だが、
年末と言えば年越しそば。
あと、鍋焼きうどん…。

甘くみていた。
ベルトコンベアの流れてくる中、
私はつゆの入った袋をひたすら、
麺の上に乗せまくる。
他のパートさんは、2つ3つ、
掛け持ちで入れてる…すごい。
待てども終わらない。
いつまで続くのだと弱音を吐いていた。

だが、麺製造機は冬は暖かくて助かった。

そんな作業にも慣れた頃。

昼間の製麺会社だけの時間、
以外にも働きたくなる。

夜間学校が終わって、
急いで22時から朝の6時までの
コンビニのバイトを増やした。

コンビニのバイトが終わったら、
また製麺工場で働いて夕方には、
夜間高校に駆け込む。
その繰り返しの日々を過ごす。

休みの日に一日中寝てそれ以外は、
ほとんど寝ないで仕事した。
訳あって、何も考えたくなく、
仕事に没頭したかったからだ。

コンビニには、数時間前に、
自分が作ったであろう麺類が置いてあった。

自分でつくって、自分で販売までしてる。

なんか変な感じなのだ。

お客さんに買ってくれると嬉しくなるものだ。

だが、悲しみも味わう。

ゴミ箱に、廃棄処分された、
私が作ったであろう麺類が捨てられている。

あんだけ、苦労して作ったのに…
お前達よ、ごめんな。

コンビニのオーナーに、
無理を言って、

廃棄処分になった麺類を僕に下さいっ!

とまわりには内緒で持って帰ってた。

かあちゃんは特に喜んでくれ、

お前が、これ作ったのかい?
すごく美味しいよ。

こんなの捨てるなんて…
もったいないね…。

とかあちゃんはぼやいていた。

残りの麺類は、冷蔵庫か、
冷凍庫に入れておいて、
かあちゃんの主食になっていた。

時はかなり進み、
私が社会人になって頑張って
働いていた時である。

人間否定の好きな同僚に、
ターゲットされ、こんこんと、
人格否定をされ続けた。

何をしても、こんこんと嫌みを言われ続けられ、

昨日やっていた事を否定され、
今日否定されたから違う事すると、
また、昨日のやり方が正しいと否定する。

悪い意味で我慢強い性格な為、
ひたすら耐えていた。

心はもうズタボロになっているのにだ。

ある日の朝のこと、
体が動かなくなっていた。

あーとうとう限界超えてしまった…。
もうごまかしは通じなくなったな…。

ずいぶんと自分を
痛めつけてしまっていたのだな…。
やれやれどうすればいいのだ…。

とりあえず会社には、
体調不良を理由に休んだ。

気がつくと、
もう生きるのが疲れた、とぼやいていた。
ヤバいと思って、このままだと、心に支配され、
私は死を迎えてしまうかもしれない。

怖くなり、
実家のかあちゃんに会いにいく。

かあちゃんは、
私が何も言わなくても、
私の姿を見て、
目を細め何かを悟る。

かあちゃんは、
すぐになんでも見通してしまう。

かあちゃんは、
やれやれと、
おもむろに冷凍庫の奥にあった、
そばを出してきた。

それは私が高校時代にコンビニから持ち帰った、
あの時の製麺会社のそばで霜でおおわれていた。

かあちゃんは、

これは、いつかの為に取っておいたんだ。
絶対にお前がやってくると思ったよ。

お前、自分を見失っているだろ。

お前が麺工場で働いていた時、
大変だったかもしれないが、
こんな立派な物を作り上げていただろ?

かあちゃんは嬉しかったよ。
誇らしかったよ。

あの時のお前は、
自分の為に、時に何かの為にと、
がむしゃらに働いていただろ?

今、お前は何の為に働いてるんだ?

かあちゃんの為なら、やめておくれ。

ただ、意地張ってるんじゃないか?

自分にウソついてまで、
そこにしがみつく理由はなんだい?

お前が、
自分をごまかしてまで、
その会社に働いてるいる
意味が、かあちゃんにはわからない。

かあちゃんだってたくさん苦労したさ。
耳が聞こえないからって、
すごくまわりにバカにされたよ。

仕事してても、
誰も教えてなんかくれない。

目で覚えてやるしかなかったんだ。

だから、仕事なんて、
なかなかうまくいかなかったさ。


だけど、仕事で何かあれば誰にだって、
楯突いて怒鳴り散らして辞めてたよ。

それは、
自分に嘘はつきたくはなかったからね。

耳が聞こえないからって、弱者じゃない!

あたいは、胸を張って言えるよ。

そんな姿をお前には、
見せたくなかったからだ。

あたいだって、プライドはあるんだよ。

ずっと冷凍庫にあったこのそば、
お前には、どう見える?

お前には、誇りを持って生きて欲しい。
人は成長していくものなんだ。

どこのバカか知らないが、
そんなヤツの言いなりになんか、
なるんじゃないよ。

お前は、お前らしく自分をしっかり持て!

このそばは、お前にやるよ。
もう一度、自分と向き合ってみな。


お前が選んだ道なら、
何も言わない。

反対も賛成もしないよ。

お前がここに来たって事は、
迷ってるんだろ? 

かあちゃんはお前の為なら、
全力で応援するし、
力になりたいと思うさ。

だけど、
お前が動かないと意味がないんだ。

今は少し休みな。

自分に優しくなれないと、
人には優しくなれないよ。

ほれ、このそば持って帰りな。

かあちゃんには、敵わない。

かあちゃんに追い出された。


霜が取れた、冷凍そば。
消費期限の日付が過去の自分の姿が見えてくる。

あの時は、本当にがむしゃらだった。

でも気づかなかった…。

あん時は辛かったけど、自分が成長できたと思える。


自分の家に帰る頃には、
そばは解凍されてて、ちようど食べ頃になっていた。

そばを泣きながら食べた。
うまい…味覚がそう私に伝えてる。
高校時代の味だ…そう頭が言っている。
だんだん泣いて食べて心が満たされていた。

しばらく会社を休み、自分と向き合い、
その会社を辞める事にした。

退職願を出して、引き継ぎをして、
残った有給を使って、次の仕事を探そう。

帰りに久しぶりにコンビニの麺類を、目にしてみる。
あの製麺会社の名前を見つける。

普段は食に関しては、全然興味がない。
食べなくても、全然いいのだ。

だが、コンビニに並んだ麺類を眺めて、
手を伸ばした。

もう…そばの時代は終わった。

次からは、冷やし中華の時代に行くんだ。

工場が暑苦しいくて、もがいていたあの頃。

これから、もがきながら、就活しないとなぁ…。

と思いながら、冷やし中華が入った、
袋をゆらしながら、持って帰った。

それから、自分の意思を大切にし、
楽しく思える職場に転職できた。

たまに自分がわからなくなった時、

コンビニにむかい、麺類を見るのだ。

だんだんと麺類も進化してきている。

私も進化していかなければ…

うむ…今度はどの麺類が自分は求めてるのかな…。

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