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人の評価

私が高校時代の頃の話。

私は夜間高校に通っていた。

席替えで、いつも
ポマードでがっちり髪型がきまってる、
じいちゃんが私の前になった。

しばらく、あの独特の匂いを嗅いで、
授業を受けるのかよ…と嫌になった。

だが、そのじいちゃんはとても、
いい人でよく後ろの私に話しかけてくる。

だいたい、授業内容が追いついてない、
じいちゃんにあーだこーだと説明してた。

じいちゃんは、真剣に私の説明を聞いて、
こんな私に色々と質問してくれるのだ。

だから、私もじいちゃんの為に、
授業を真面目に受けるようになった。
間違った事は教えられないからだ。

授業が終わったら、じいちゃんと、
復習をするのが、習慣になっていった。

そして、
テストの時の出来事。

私は、じいちゃんのおかげで、
スラスラと問題を解く事が出来ていた。

驚いた…。

じいちゃんに教えていたつもりが、
自分で勉強していた事になっていたのだ。

目の前のじいちゃんは、
ポマードの頭を抱えていた…。

オレの説明が悪かったから、
じいちゃんに理解させてあげれなかったんだ…。
じいちゃんに悪い事したな…。

ふと、そんなじいちゃんの後ろ姿を、
見てると、いつもきれいに整ってる髪が、
私には、素晴らしい芸術に見えてきた。

もうとっくに問題を解いていたから、
ヒマを持て余していた…。

きづいたら、
そのテスト用紙の裏に、
おじいちゃんの後ろ姿を描いていた。

自画自賛の後ろ姿、
チャイムが鳴って、テスト用紙を回収し、
おじいちゃんにその描いた後ろ姿を見せた。

おじいちゃんはとても喜んでくれた。

その後、
先生が不機嫌でテストを返していく。

すると、私の点数はゼロ点になっていた。

みんなの前で、先生は言う。

今回のテストで誠に遺憾な事がありました。
それは、人をバカにしたような、
いたずら描きをしているヤツがいた。

先生は、この様な事をする人間は大嫌いだ。

わかってるヤツはいるだろう。

だから、人としての評価として点数は、
あげませんでした。0点です。

人の心のわからないヤツは、許せません。

なので、これからはこの様な事はするな!

以上!じゃぁ、答え合わせするぞ!

…はい。私の事ですよね…。
…別にバカにはしていない。
…いたずら描きのつもりもない。
…目の前の芸術を書いただけである。
じゃぁ…その前にオレに直接言ってこいや!

こんな、だましうちしやがって。 

なんなんだよ…
先生の方が人として、どうなんですか?

私は納得出来なかった。

でも、そこで先生に反論した所で、
何にもならないとわかっていた。

ふてくされていると、じいちゃんが、

あの時の絵の事だろ?
わしの後ろ姿の…あれ…すまんな。
わしは、すごく嬉しかったぞ。
でも、そのせいで0点にされたのか?
わしから、言ってこようか?

じいちゃんの優しさに少し助けられ、

いいんだよ、オレがテスト用紙に、
書いたのが悪いんだからよ。

それより、オレの説明だけじゃ、
テスト難しかったんだろ?
こっちこそ、ごめんな、ちゃんと出来なくて。

じいちゃんは、大げさに、違う違う!
と騒ぎ、わしの記憶力がないせいだ。
でも、あの復習を思い出してわかったんだ!
お前のおかげでほら見ろ!

と80点のテスト用紙を見せてきた。

お前のおかげて、こんな点数初めてだ。
それにな、勉強が楽しいと思えたんだ。
だから、お前は何も悪くないんだ。

じいちゃんは、私を励ましてくれている。

ありがとうな、じいちゃん。
オレもいつのまにか、
勉強を教えるの楽しくなっていたんだ。
じいちゃんのおかげだよ。

それに、じいちゃんにわかって欲しかった。
勉強もそうだけど…後ろ姿が素敵だって事。

だから、無我夢中でテスト用紙に、
じいちゃんの後ろ姿描いていたんだ。

じいちゃんが喜んでくれて、嬉しかった。

ありがとな。

テスト用紙はゼロ点かもしれないが、
わしの後ろ姿の絵は100点満点だぞ!

と、なおも、じいちゃんは言う。

本当に、じいちゃんは優しいな、
いいんだよ、そんな事言ってくれなくて。
オレの自己満足でしかなかったんだ。

オレ、歳とったら、じいちゃんみたいな、
ポマードで髪の毛整えてみようかな。
すげーかっこいいもんな。

その独特の匂いもなんだか好きになったわ。

そう言って、しばらくまた、
授業が終わったら復習をじいちゃんとした。

次の席替えで、おじいちゃんとは離れた。

それでも、授業が終わったら、
私の所に来て、教えてくれと言う。

しばらくして、
またテストの時が来た。
あの先生にぎゃふんと言わしたくて家でも勉強した。

人としての評価をゼロ点にした先生にだ。

テストを返す時、先生から頑張ったな…と
テスト用紙を返してもらった。

そこには、100点と書いてあった。

私は、じいちゃんに見せた。

じいちゃんは自分の事の様に喜んでくれた。

私は、ひねくれ者である。
時に、訳のわからない事をしてしまう。

だか、人として悪い事はしてないつもりだ。

先生に人の評価を決めつけられたくない。

頑張って勉強してきた事を踏みにじり、
ゼロ点をつける神経の方がどうかしてる。

そんな成績が全てじゃない。

成績で、人を評価としているのなら、
私はそれには、従えない。

あの、じいちゃんの後ろ姿には、
そんな成績で得たものではない、
素晴らしい、人として尊敬できる後ろ姿だった。

私は、先生より、じいちゃんの方が、
人として評価されていいと思う。

色んな人生を経験したであろう、
じいちゃんの後ろ姿はそれを物語っている。

私の後ろ姿はどうだろう…。

いつかポマード買って、
髪の毛整えてみようかな…。

はじめは、嫌がっていたはずなのに、
独特のあの匂いが今は嗅ぎたくて仕方ない。

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