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たけのこの故郷

普通のたけのこ。

と言えば、
大きくて太く土に埋まっていて、
鎌を掘って、出でくるものだと思うだろう。

私もそうだった。

小学校等の給食に出でくる、
たけのこは、そのたけのこだった。

おおざっぱに言うと、
お菓子の、たけのこの里もそうだ。

小学校入ってから、
私の家事の一つに料理が追加された。

もちろん、
近所の人から、処理された、
たけのこをもらう事もあり、
それを、たけのこご飯や、
煮物に入れたりしていた。

かあちゃんも、
美味しいと食べてくれていた。

それから数年経ったある日。
たけのこの旬を過ぎ、もう6月に入った頃、

かあちゃんが、

たけのこ刈りしたい…。

とポツリと独り言を言った。

かあちゃんは耳が聞こえない。
私は手話で、かあちゃんに聞く。

えっ?たけのこ?刈りって?どうゆう事?

そう、かあちゃんに伝えても、

かあちゃんは、少し寂しげに

笑顔で手話で、何でもない…とあらわした。

たけのこと言えば掘り。
たけのこを刈るってなんだ?
しかも、旬はすぎて今時期に?

高校2年生になり、
かあちゃんの実家は北海道なのだと、
教えられた。

ふと、たけのこの事を思い出した。

もしかして…
北海道は北にある…。
たけのこの旬も、違うかもしれない。
北海道には、違うたけのこがあるのかも…。

そう思い、
高校の先生に、それとなく聞いてみたのだ。

そしたら、
それは「姫たけのこ」じゃないかと言う。

はい?姫たけのこですか?
どんな、たけのこなんですか?

と聞いたら、
普通のたけのことは違い、
小さく、細く、長い、たけのこの種類。
と言う情報を得る事が出来た。

私は、知らなかった…。

私は居ても立っても居られなく、
かあちゃんを喜ばせたい!
と思い必ずどこかにあるはずと、
動き始める。

だが、
近くのスーパーをはしごしても、
その、姫たけのこはなかった…。

隣町に大型スーパーがあり、
そこにはたくさんの種類の食材がある。

もしかしたら、
そこには、あるかもしれないと思い、
かあちゃんには内緒でそこに行ってみた。

…あった。

水煮になって、売り場に置いてあった。

本当だ…小さくて…細くて…長い。

初めてみた、姫たけのこは、
ホワイトアスパラの、
たけのこバージョンみたいな見た目。

しかも、北海道産と書いてある。

少し値は高かったが、
私も働いていたので、嬉しくて、
なんの迷いもなく姫たけのこを買って帰る。

その日、
その姫たけのこの煮物を作った。

かあちゃんはどんな反応するだろう…。

テーブルに煮物を置いて、
気づいてない、かあちゃんの、
肩をトントンと叩いて、
かあちゃん見て…と、手話で煮物を指さす。

かあちゃんは、
はじめは、なんだかわからない様だった。

だが、ポロポロと涙を流し、
これ…どうして…なんで…ここに…、
と言葉を失って、手話で伝えてくる。

手で顔をおおいながら泣いていた。

私はまた、
かあちゃんの肩を叩き、

手話で、
北海道のたけのこだよ。

かあちゃん食べたかったでしょ?

味は違うかもしれないけど…。
かあちゃん、食べてみて!

かあちゃんは、
そっと箸をのばし、
ぽりぽりと食べると、箸を置き、
泣きじゃくって私を抱きしめる。

かあちゃんは、手話で、

お前…どうしてわかったんだい?

この…たけのこ…どこにあったんだい? 

お前は…本当に優しい子だね…。

美味しいよ…懐かしい味がするよ。

かあちゃんの為に見つけてくれたのかい?

これだよ…これが…たけのこだよ…。

私はかあちゃんに、

高校の先生に聞いたんだ。

こんな、たけのこあるんだね。
隣町の大型スーパーに売ってたんだ。

かあちゃん食べたいかなって思って。

かあちゃん喜んでくれて、よかった。

そう手話で伝えると、
かあちゃんは、うん、うん、と頷き、
すごい嬉しいよ…ありがとうね。

昔よく、
お前のじいちゃんとばあちゃんと、
山菜採りに行ってね…。

あたいは迷子にならない様にと、
熊に襲われない様にと、鈴付けて、
このたけのこを取ってたんだ…。

懐かしいね…あーびっくりしたよ…。

かあちゃん…もう食べれないと思ってた。

だから…本当に…信じられなくて…、
ダメだね…涙が止まらないよ…。

と伝えると私をまたぎゅーと抱きしめる。

私の肩は、かあちゃんの涙で、
どんどんしみていく。

私は、
そんなかあちゃんの、背中をなでて、
かあちゃんの目を見て、

さっ!一緒に食べよう!
オレも、
かあちゃんの、懐かしい味を、
噛み締めたいよ!

かあちゃんは、そうだね。
と一緒に食べた。

かあちゃんの故郷の味。

おじいちゃんとおばあちゃんとの、
思い出の味。

かあちゃんが泣くから…
もらい泣きしてしまう…。

二人で泣いて、
美味しいね…と味わった。

それから、
毎年このぐらいの時期になると、
姫たけのこを買っているのだ。

最近は、
便利になり、近くのスーパーでも買える。

姫たけのこは、
どんな風に生えてるんだろうか…。

かあちゃんは、刈り取ると言っていた。

って事は…鎌で掘らない?

あんな小さく細長いから、
鎌なんて使わなくてもいいのかな?

今年は無理そうだから、

来年になったら、
生息地を調べて取りに行ってみよう。

アク抜きとか大変なイメージなのだが、
もし、刈り取ったとして、どうなんだろう。

まぁ、その時に考えればいいではないか。


かあちゃん、
たくさん取って、お供えしてあげるな。

本当は、かあちゃんと一緒に行きたかった。

でも、かあちゃんはまともに歩けないし、
迷子になるのが、どうしても怖くて…。

今さら、鈴をかあちゃんにつけるのも、
かあちゃん嫌がるだろう。

耳の聞こえない、方向感覚もない、
かあちゃんを、見つけるのは至難の業。
かあちゃんを呼んだ所で聞こえないからだ。

だから…かあちゃん…ごめんな。

オレが行く時に、
かあちゃんこっちに、降りてきてよ。

それで、オレにたけのこの場所教えて。

かあちゃんと一緒なら楽しいだろうな。

かあちゃんも懐かしいだろ? 


今年は…ごめん。
お供え出来るかわからない。

一年待ってくれよ。
体力もつけないといけないし、
オレも万全な状態じゃないと行けないんだ。

来年は、一緒に行こうな。
逆に、迷子になったら、教えてね。


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