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Lover or Guardian God。

 どもども。
 冬の間は暖かい季節が恋しくなりますが、暖かくなったらなったで「またあの憂鬱な日々がやって来る」と感じることもあります。

 札幌に出てきて以降、初対面の人に出身地を聞かれて答えると「え〜!一回行ってみたいなあ!!」と言われることが多いので、「行くなら夏がいいですよ、冬は美味しいものもあまりないし寒いだけなので」とアドバイスしています。もちろん夏以外でも季節ごとの良さはあるし、そもそもいつ行こうが行く人の勝手だし、社交辞令だろ絶対行かないだろお前、と思うこともありますが、行くからにはやはり良い思い出ができる旅になってほしい。そのためには夏が最も無難ですよ、という愛のこもったアドバイスなのです。

 私も夏の利尻が一番好きです。暖かくなると、陸ではリシリヒナゲシが美しく咲き誇り、海ではリシリコンブやウニといった美味しい海産物が水揚げされ、山では天然記念物のクマゲラや「町の鳥」であるコマドリの姿を見ることが出来ます。豊かな自然に囲まれた土地ならではの生態系の中で、今挙げた以外にも数多くの生き物たちが一斉に活動を始めます。

 小さい頃は日が暮れるまで、通っていた保育園の横の草むらで、友達と一緒にバッタを捕まえたり、小学校の裏山でセミの抜け殻を探したりして遊んでいました。友達と一緒にいる以外の日常についても以前書きました。

 今でもお盆にはほぼ毎年帰省して、澄んだ空気を吸い、美味しいモノを死ぬほど食らって一年分の鋭気を養うのですが、今回はこの帰省中、私が常に気を張っておかねばならない2種類の「天敵」について考えていきます。

 実はnoteを始めた時点で思い付いていたテーマなのですが、

・書くと嫌でも想像してしまう
・読まれる方に利尻を誤解させてしまう恐れがある
・キモい

などの理由から、なかなか書き出せずにいました。
 ただ原点に立ち返ると、こうしてnoteに故郷のことを書くのは、決して「利尻のここが素晴らしい!」とか「ぜひこれを見に来てけれ!」という高尚な気持ちからではなく、私のごく身近にある(あった)利尻のリアルを、私自身が最大限楽しく書きたいという欲求ゆえなのです。利尻の魅力の発信についてはひとまず別の誰かに委ねるとして、ここでは誤解を恐れずに「キモ楽しい」現実を書いていこうと思います。


 鬼脇市街を中間として、私が暮らしていた二ツ石とちょうど反対の位置に、沼浦という集落があります。利尻ではお馴染みの絶景スポット、オタドマリ沼がある場所です。一番上の写真がそうですね。そこに父の実家があり、父方のじじばばが住んでいました。
 沼浦にはオタドマリ沼の他、展望台(通称「白い恋人の丘」。誰もが知るあの北海道銘菓のパッケージに描かれているのは、ここから見た利尻山だと言われています)、島内唯一の砂浜海岸(3年ほど前にここでクマの足跡が見つかり大騒ぎになりました)など、そこそこ見ごたえのあるスポットが存在するのですよ。

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 ちなみに初回の投稿で、母方のじじのウニ割りを手伝っていたある天才少年の話をしましたが、父や父方のじじは、実家があるこの沼浦から出漁していました。学校がない日は母方のじじが採ってくる微々たる量のウニを速攻で割り終え、母の車で沼浦へ直行し、量が多い父の方を手伝うという最強助っ人ぶりを惜しげもなく披露していたのです。

 沼浦へは手伝い以外にも、休日にじじばばに会いがてらオタドマリ沼でソフトクリームを食べたり、砂浜でひとりで遊んだりしていたのですが、この砂浜で「生涯の天敵①」と遭遇します。

 小学校低学年当時のある日、砂浜を目的もなくブラブラ歩いていると、地面に小さな穴が空いているのを見つけました。
 「スナガニ」という生き物をご存知でしょうか。きれいな砂浜の波打ち際に直径2−3cm、深さ数十cmほどの巣穴を掘って暮らす小さなカニです。警戒心が強く、危険を感じるとカニ類トップクラスの速さで逃げてしまうそうです。
 幼い私は詳しい生態を知りませんでしたが、なぜか「砂浜にある穴をほじくったらカニが出てくる」という話は知っていました。誰に聞いたのか記憶に無いのですが、私はその人物を今でも恨んでいます。
 波打ち際の小さな石をひっくり返すと、たまに小さくてかわいいカニが出てきて、暇な時はよく捕まえて遊んでいました。それと同じように、穴を見つけて喜び勇んだ私は、「カニさん出ておいで」とほじくりました。
 今でも鮮明に覚えています。出てきたのはカニではありませんでした。足は10本より多く、体は平べったく、色は黒い。カニとの共通点は、尋常ではないスピードだけでした。私はおそらく生まれて初めて、

ぎゃあっ!

と叫びました。そして、出てきたモノと同じくらい尋常ではないスピードで逃げました。

 出てきたのは、「ウミワラジ」でした。一般的には「フナムシ」と呼ばれ、日本中の海岸にいる大して珍しくもない虫です。海辺の石に張り付き、近づくとさーっと隠れるので、普段あまりアップで観察することはありません。ただこの時は、砂浜で四つん這いになり、カニが出てくると信じていた純朴な少年に、自らのフォルムをどアップで見せつけたのです、アイツは。期待が大きければ大きいほど、裏切られた時のショックも大きいものです。
 その時の光景が忘れられず、それまでは気にもしていなかったウミワラジを強烈に意識し始め、避けるようになってしまいました。今でも夏に帰省すると海沿いを歩いたり泳いだりしますが、波打ち際でさーっと動く物体を目の端で捉えた時は、とにかく何も見なかったことにしています。
 いつか自分に子ができたとして、その子と一緒に砂浜を散歩するという夢のような機会に恵まれたとして、子どもが小さな穴を見つけたとして、掘ろうとしたら、私はひとりで逃げます。


 続いて「生涯の天敵②」のお話です。読まれている方は付いて来れているでしょうか。興味のある方は調べたらいいと思います。あくまで私が苦手な虫の話なので、他の人にとってみれは拍子抜けするようなくだらないものかも知れません。ただ、調べてショックを受けた場合、私のことは嫌いになっても利尻のことは嫌いにならないでください。

 天敵2号、またの名を「ベンコロ」と言います。なんだかチャーミングですね。略さずに言うと「ベンジョコオロギ」。なんだか一気に不穏な感じになりましたね。一般的には「カマドウマ」と呼ばれる昆虫。なんだか聞いたことありますね。写真をガン見しないよう細心の注意を払いつつネットで調べたら、バッタやキリギリスの仲間なんですね、コイツは。今、「カマドウマ」の検索結果をスクロールしていたら、

Yahoo!ショッピング
カマドウマをすべて見る(102件)

という表示が出てきましたが、一ミリも笑えませんでした。Wikipediaで調べると、

成虫でも翅をもたず専ら長い後脚で跳躍する。
その跳躍力は非常に強く、
飼育機の壁などに自ら激突死してしまうほどである。

と記載されており、少しだけ口元が緩みました。そう、この跳躍力こそがコイツの脅威なのですよ。
 この「ベンコロ」も日本中に分布するようなのですが、私調べでは、

・私の実家
・近くにある二ツ石自治会館(会合に使う場所で普段はほとんど人の出入りがない)


にしか生息しません。友達の家などでは一切見たことが無いのです。その点においてWikipediaはあまり信用できないのですが、一応見ていくと、

主に身を隠せる閉所や狭所、暗所、あるいは湿度の高い場所などを好むため、木のウロ、
根の間、洞穴などに生息し、しばしば人家
その他の建物内にも入る。 

とあります。
 幼い頃から家の中には夏の風物詩のように存在していたため、これも私がある程度大きくなるまで気に留めることはありませんでした。
 きっかけは中学2年生の夏のことです。兄が当時札幌の高校の3年生で、野球部を引退した直後の夏休みに、部の同級生10人程を率いて利尻へ遊びに来ました。自宅には泊めきれませんから、全員が自治会館に布団を運んで寝ることになりました。わりと社交的な少年だった私も兄や先輩たちと一緒に会館で夜を過ごしたのですが、そこで先輩の一人がベンコロを見つけます。札幌在住の先輩たちは当初、この見慣れない昆虫をひどく気味悪がっていましたが、そのうち誰かが面白おかしく、

ベンコロ見つけたら、このボウルに閉じ込めようぜ。

と提案したのです。誰が言ったかは記憶にありませんが、私はその人物を今でも恨んでいます。
 見つけた5匹程のベンコロを、逆さにした丸い半透明のボウルに閉じ込め(通称ベンコロドーム)、皆眠りにつきました。
 朝目覚めてから様子をうかがうと、ベンコロドームは空になっていました。

昨夜確かに閉じ込めたはずだ。脱出できるはずがない。いや、あの跳躍力ならあるいは…

考えているうちに少しずつ怖くなってきて、最終的にはめちゃめちゃ怖くなりました。そしてそれ以来、普段意識していなかったコイツのことも強烈に意識し始めるようになってしまうのです。今では実家の壁にアイツの姿を捉えた時には、無の状態になってじーーっとその姿を追い、近付いてきたら速攻で逃げるようにしています。

 以上、故郷における唯一、いや唯二の天敵について話をしてきた訳ですが、この投稿の目的は単にトラウマを語ることではありません。幼い頃は気にも留めず共存してきたアイツらと、(勝手ながら)和解するにはどういう心持ちで生きていけばいいのだろう。それを考えたかったのです。だってそれさえできれば、利尻には本当に魅力しかなくなりますから。

 つらつらと書いてきた結果、ひとまず2つの解決策を見出しました。

①恋だと思うことにする
②守り神だと思うことにする


断っておきますが、これは大真面目に考えた結果です。そして今、今回のタイトルが決まりました。

 まず①ですが、例えば、「今まで全然気にしてなかったけどぉ、最近こういうことがあってぇ、それから急にあの子のこと意識するようになったんだよねぇ」は、恋の始まりあるあるですね。そして一度意識してしまうとなんとなく距離を置いたり、話しかけられてもそっけなくしたり、意地悪したり、というのもよくある話です。それと同じことだと考えるのです。好きか嫌いかはまだはっきりと分からない。でも私は密かにあなたに興味があるのですよ、という心持ちでいく。

あ、いや、無理です。この線は。

②に行きます。

Wikipedia、ウミワラジ(フナムシ)
食性は雑食性で、藻類や生物の死骸などさまざまなものを食し、海岸の「掃除役」をこなしている。

ほうほう。いいじゃないですか。役に立ってますよ。

Wikipedia、ベンコロ(カマドウマ)
竈馬は古くから存在を知られた昆虫であり、
古名である「いとど」は秋の季語とされる。

いいですね!風流な感じが出てます。
しかもベンコロは自分ちと会館でしか見たことがないので、家や二ツ石を守ってくれる存在だと考えることもできる。いいじゃないですか!!

再びWikipedia、ウミワラジ(フナムシ)
人間も例外ではなく、岩礁海岸に寝転がっていると噛まれてチクリと痛みを感じることがある。

おい!

再びWikipedia、ベンコロ(カマドウマ)
1980年に長野県軽井沢で文化財の掛軸(上部と下部の糊付けされた布地部分)が
食害された例がある。

危害加えてるぞ!!

 うーむ。やはりWikipediaに頼りすぎているのが良くないのでしょうか。おそらくそうなのでしょう。そうに違いない。

 ただ一方で、こうやって色々調べていくと新たな発見があります。人と人との関係も同じですね。どうしても受け入れられない部分がある人でも、尊敬できる点はあるかも知れない。苦手な人にあえて近づく必要は無いのだけれど、学校や会社など、やむなく最低限の関わりを持つことが求められる場所であるならば、相手のプラスな面も理解した上で、付かず離れず、バランスを取りながら付き合っていけばいい訳です。私の場合は完全に一方通行で、相手は虫ですが。

 ともかく、アイツらとの和解はまだ先の話になりそうです。でも今年の夏は、なんとなくいつもと違う心持ちで帰れる予感がしています。予感でしかないですが。

それではまた!

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