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万葉はわかるので事足れり(良寛)

万葉集を下手の横好きで親しんでいるが、随分と勝手な解釈をしてきた。

磯城島の大和の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ (万3249)

いろいろとユニークな解釈ができる歌として有名で、この国には天皇陛下と皇后陛下がおられるのだからと解釈した例もあるそうだが、私も、この大和の国に愛しあう二人がいるのだから何を嘆き悲しむことがあろうか、と解釈したことがあった。

正しくは、この国に私が恋する人が二人いるのなら何を嘆くことがありましょう、あなた一人を恋しているからこそ、こんなに心苦しいのです、といった意味と知ったのは、その後のことだ。人二人が、自分が恋する人が二人の意味だった。

文法的にも「思はば」は未然形、仮定を表す語で、愛しあう二人が歴然としてここにいるのなら、「思へば」(已然形、確定表現)となるらしい。

加えて、万葉集は時代特有の風習や思想を背景にして歌われているから、それを知らない現代人には、わかりにくいと思う。

江戸時代になって、解良栄重(けらよししげ)が良寛に歌を学ぶには何を読めば良いかと問うたところ、万葉集を読むべしとのこと、栄重は、万葉は解らないと言うと、自分が解るところだけで事足れりと諭した。

余問う。歌を学ぶ。何の書を読むべしや。
師曰く。万葉を読むべし。
余曰く。万葉は我輩、解すべからず。
師曰く。わかるだけにて事足れり。

『良寛禅師奇話』で、これを知ってから、万葉集は、わかるところだけで良いのだと勇気づけられている。人間を救う言葉とはこういう言葉なのだと思う。

良寛

2022.9.25


        

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