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リンゴの話

「このリンゴは味が薄いね」と剥いてあげたリンゴを食べた妻が言った。食べてみると確かに薄味でスカスカしている。結構高かったのになあ、と思ったが、リンゴそのものが高級化しているから、買ったリンゴは普通の価格帯にあった。でも自分の経済力から見れば決して安くはない。

昔はもっと普通のリンゴが安かったのに、品種改良されて、味が美味しくなった分、高級品が増えている。アジアのデパートでは、宝石売り場のように日本の高級果実が飾られて売られているということを数年前に聞いたが、コロナ禍からはどうなったのだろう。輸出向けに改良された高級品種が国内で一般に流通されるようになったようだ。

今度は思い切って、財布の紐を緩めて、大きなシナノスイートを買ってみた。果実はたくさん買っても、痛みが激しい。すぐにスカスカしてくる。2、3個がちょうどよいようだ。これは甘みとちょうどよい酸味があり、とても美味しかった。

私にはシナノと名がつくリンゴは美味しいという思い込みがある。以前に信州で試食したシナノスイートが美味しかった思い出がある。観光客へのすりこみ効果が長期間続いて、今の私の消費行動につながっているようだ。旅には「旅の恥は掃き捨て」とは違う、その場限りでは終わらない継続的な効果がある。

リンゴでは、黄色いトキも好きだ。固めのリンゴだが、咬むと甘酸っぱい味がして、好みである。食べたことのないリンゴを買うのには勇気がいる。どうも味の思い出に縛られて、外れることが怖い。だから、ついつい自分の味の記憶を基準にリンゴを買っている。

高級品化した日本の果実だが、これとは真逆の経験をしたことがある。2、3年前にローソン100でアンビーというやや小粒のリンゴが数個入って売られていた。100円である。つい手が出て買った。食べたら、甘み、酸味、フルーティな香りがあり、今まで食べたことのない美味しい味だった。調べてみるとニュージーランド原産らしい。何度か買った。行く度に話しやすい中国系の店長さんに美味しいよと言った。アンビーがあったのはその年だけ、味も奇跡的、価格も奇跡的、まさに奇跡的な出会いだった。



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