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祖母への明治時代の残暑見舞い

8月17日付の松本こと子から祖母田中はる子に出された残暑見舞いである。立秋を過ぎ、暦の上では、まだ暑い日が続いていて、いわゆる残暑である。二人は日本橋田所町に生まれ育ち、共に書が好きだったようで、手紙のやりとりで、互いの様子を知らせ合っていた。SNSがない時代の少女たちの楽しみにも思える。

祖母からの手紙の返事(多分、暑中見舞い)だが、病の為、不在のことが多く、返事が遅くなり申し訳ないとある。病名は脳病とあるが、当時は神経症や精神病を言ったようである。こと子からの別の手紙(明治35年10月)では、病気療養の為に逗子に行っていたことが書かれている。

「御宿下りの節には誠に何の風情もこれなく大失礼」そんな理由で祖母の盆の宿下りには会えなかったのだろう。何年の手紙かは分からないが、明治35年8月なら、こと子は静養のため逗子に行った手紙につながる。

本文(仮訳)
残暑の候におわしまし候へ共御暑さ日にきびしく御座候處 御許様には何の御障りもこれなく候や御伺ひ申上候 次に私事はじめ皆々無事に暮し居候まま憚奉ながら御安心被下度願上候 さて日前は御手紙頂き早速御返事差上べく筈には候へ共いろいろ取込これあり それに又私事例の脳病の為不在勝にてついつい御無沙汰に打過ぎ何共申訳もこれなく次第御ゆるし下され度願上候 就ては御宿下りの節には誠に何の風情もこれなく大失礼致し何卒水に御流し被下度願上候 先は延引御詫びかたがた暑中御伺ひ迄申述奉候  あらかしこ

返す返すも御暑さきびしく候へば御身は大切においとひ遊すやう蔭ながら願上候いつもながららん筆前後ははんじてよみ被下度願上候 まだ申上度事山々御座候へ共後の便りと申し残候 先は御返事迄申上奉候

八月十七日  こと子拝

はる子様 御許え

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