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南十字星とニセ十字

今日は12月15日、船上で星空観察会が開かれた。星を眺めようと大勢の船客がデッキで集まっている。私たちの船は今、南大西洋上にいる。北半球に住むわれわれにとってあこがれの南十字星がみられるはずである。各人それぞれ目を凝らして夜空を見上げた。

十字らしい形の星を探した。しばらくして南の方角に比較的大きな十字の形の星が見つかった。こうも簡単に南十字星が見つかるとは何という幸運かと思っていると、あれはニセ十字だと聞かされる。肝心の南十字星がなかなか見つからない。 あいにく雲が多く、満天の星ではなかったためか。

東の空にはオリオン座が横たわっていた。冬の大三角の近くに木星が観られた。北東には満月が出ている。流れ星がオリオン座の方からキラッと光って月の下方へと消えた。

南十字星はどこだ?

南十字座ともいわれる南十字星、『銀河鉄道の夜』では、南十字星は、天上へ行く下車駅として描かれている。ジョバンニとカンパネルラを乗せた『銀河鉄道』は、北の十字のある白鳥ステーションからサウザンクロスを目指して走る。サウザンクロスに着くと天上に旅立つために乗客はみんな降りてしまう。ハレルヤの曲が流れ、白いきものの人が人々を手招いている。後にはジョバンニとカンパネルラだけが残されていた。「カンパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう」ジョバンニは言う。サウザンクロスを過ぎると石炭袋が暗黒の世界への口を開いている。カンパネルラは、お母さんがいるところに行ってしまったのか、姿はない。ジョバンニは叫び泣き出した。

天球での南十字星の位置は、赤経12h20m、赤緯−60°、赤緯−90°が天の南極だが、それより30度も離れている。北極星が赤経2h31m、赤緯89°15’とほぼ天の北極にあるのに比べて、南十字星の位置は意外だった。

南十字星を構成するアルファ星(赤経12h27m 赤緯-63°06’)とガンマ星(赤経12h31m 赤緯-57°7’)とを結ぶ線をアルファ星の方向に4.5倍延ばすとほぼ天の南極になる。そこには、はちぶんぎ座のシグマ星があるのだが小さくて肉眼では見えない。南十字星が明るく分かりやすいために長く航海者の道標になってきた。

翌年1月2日、早朝5時に起きて星空を見に行った。南の方角に2つの星が並んでいて、その延長線上に明るい3つの星とやや光度が落ちる星とで十字を形作っているのが見られた。南十字星だ。さらに右の方に眼をやると数日前に見たニセ十字があった。南十字星は2個の1等星と2等星、3等星から形づくられていて、星の明るさは均等でなく、形も完全な十字形ではなく、少し歪んでいる。そんなわけで出来損ないの十字星と悪口を言う人もいる。近くのニセ十字の方が星の明るさがそろっていて大きくて立派である。こちらの方を南十字星にしたくなるが、残念ながらそうはいかないようだ。南十字星は南極軸により近い星座で、航海の助けになる重要な目印だ。たとえ不完全でも天の南極軸に近いという絶対条件を南十字星は満たしている。ニセ十字はどんなに立派でも残念なことに南の方角から外れている。だが星空を見に何度かデッキに上り、ニセ十字は何度も見た。南十字より見つけやすいことは確かだ。そんなわけで、南十字星とともにニセ十字にも愛着を感じている。

次第に朝焼けが洋上に広がってきた。6時20分に日の出、船尾の左舷方向から太陽が頭を出した。またたくまに上昇していく。日の出の勢いとはよく言ったものだ。あっという間に全身を表したかと思うと水平線上に昇っていた。数分の出来事。今日は晴れ、風は涼しい。船はリオデジャネイロに向かっている。

早朝、右上にうっすらと南十字星
下の2つの星を上にたどると南十字星の左3つの星が見えた。残り一つはうっすらしている。

2023.3.4

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