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定九郎みたいだな

父が私の髪の毛を見て「定九郎みたいだな」と言ったことがあった。若い時は、剛毛だったので、髪を洗った翌日は髪の毛がピンと立ち上がっていた。それを見て言った言葉である。

定九郎というのは、きっと石川五右衛門のように髪の毛が逆立った侍なのだろうと漠然と考えていた。最近、柔らかくなった自分の髪を見て、何故か父から「定九郎みたいだな」と言われたことを思い出したので、調べてみた。

定九郎は、忠臣蔵の人気役柄だった。一幕だけ登場して、すぐ死んでしまうが、何故か観衆に強烈な印象を与える凄みがある役である。
おかるを祇園に売った与市兵衛は五十両を手にして山崎街道に向かう。おかるの夫の勘平をなんとか義士の仲間に戻そうと思案の挙句の五十両である。そこに定九郎が現れ、与市兵衛を殺し、五十両を奪う。そのときに見栄を切りながら、すごんだ声で「五十両」(ご・じゅう・りょう)と云うが、これが唯一のセリフ。定九郎は、月代が伸びた髪型と黒衣装姿が何とも凄みがある。その後すぐに早野勘平に猪と間違われて鉄砲に打たれて死んでしまう。股から血がたらたらと垂れ、死に際に見せる仕草も見事。

歌舞伎役者の写真を見ると、どうも五右衛門や日本駄右衛門の髪型とは違う。定九郎は、五右衛門程には髪の毛が多くはなく、月代が伸びた程度である。父から「五右衛門みたいだな」と言われずに「定九郎みたいだな」と言われた、ということは、それほどに髪の毛の立ち方がすさまじいかったのではなかったのだ、と知ることができた。

2023.1.2


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