見出し画像

健在なり、きゅうりの糠漬け

上司のNさんは、職場内の食堂で、いつも、お新香とみそ汁とご飯を注文して食べていた。「お新香とみそ汁で食べるのが一番うまいよ」というのが口癖だった。みなは、Nさんのお新香定食と冗談を言って笑った。

子どものころに食べた宮川という鰻屋のお新香が美味しかった。鰻重には、カブときゅうりの糠漬けと奈良漬けがついていた。のちのちまでも、あの鰻屋のお新香が美味しかったと言ったら、母が「少ししかないから美味しんだよ」とさりげなく言った。

そんな糠漬けに代表されるお新香も、気がついたときに飲食店から少なくっていた。多くが工場で生産された日持ちのする壺漬けや河童漬けのような漬物になっていた。今ではスーバーでは糠漬けは高級品である。和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食文化がもてはやされているが、お新香文化は衰退しているようだ。

そのように思っていたが、決してそうではないということに出会った。先日Kさん宅で、ある婦人がきゅうりの糠漬けをお皿いっぱい持ってきてくれた。前日に漬けたという。頂いたら酸味が強くなくてすごく美味しかった。子どもの頃に食べた鰻屋のお新香以来の美味しさだった。そう伝えたらとても嬉しそうな顔をした。日本のお新香文化も家庭内でまだまだ健在だと知った。

2022.12.21



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?