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万葉の歌 玉津島

和歌の浦では高津子山から眺めた玉津島の景色が美しい。かつて海の中に玉のような形の島々が浮かんでいたので玉津島という。今は隆起した複数の山々が点在し往古の風景を残している。

その日、高津子山から玉津島を眺めた。いつまで見ていても見飽きることがない風景が私の眼前にあった。砂州が伸びて、そこに片男波という名の海水浴場がある。片男波というと大相撲の親方名を連想する人が多いだろうが、もとは山部赤人の短歌から来ている。

和歌の浦に 潮満ちくれば 潟を無み 葦辺を指して 鶴鳴き渡る (万919)

この「潟を無み」に「片男波」の字を充てたと考えられている。「潟を無み」は、「干潟が無くなったので」の意味である。和歌の浦に潮が満ちてきて干潟がなくなったので、葦辺を指して鶴が鳴きながら飛んでいくよ。

「み」の例としては、「若狭なる三方の海の浜清み い往き返らひ見れど飽かぬかも」(万1177) がある。若狭の三方の海の浜がきれいなので、行ったり来たりしても見飽きることがない。この三方の海は三方五湖なのだろう。かつて訪れた三方五湖の景色も素晴らしかった。

玉津島 見れども飽かず いかにして 包み持ちゆかむ 見ぬ人の為 (万1222)

美しい玉津島の景色を家で待っている人に見せてあげたい。今なら写真に撮って見せることができるだろうが、カメラのない時代の万葉人は、どうしたらこのいい景色を見せてあげられるだろうと歌った。やはり、万葉の歌は「たまーあ つしまあー」とのびやかに歌いたい。

2022.10.9

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