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ひげそりの思い出

ひげそり、この単なる日常的な行為に過ぎないひげそりにいろいろな思い出がある。

検見川の祖母の家に行ったとき、うっすらとヒゲが生えだした私に、祖母はヒゲを剃らないかと小さなカミソリを渡してくれた。安全カミソリではなかったが床屋でカミソリの仕草を見て知っていたので、恐る恐る顔にカミソリをあててまだ柔らかなヒゲを剃った。終わると私を見て祖母は、ああキレイになったと微笑んでいた。

職場の旅行で朝方、座敷で電気ヒゲソリを使っていると、先輩がちょっと貸してくれとヒゲソリを頬にあてたが、突然ヒゲソリのフタが外れて飛んだ。それを見ていた同僚が面白がって笑っていた。フタをしっかり締めていなかったようだ。

朝ヒゲを剃っていたら安全剃刀の刃が少し横に滑り、出血した。なかなか止まらない。午前中会議が予定されていたが、止まらないので仕方なく、会議に代わりに出てもらうべく、職場に電話したこともあった。

職場に勤め始めたとき、朝の勤務時間前に同僚が電気ヒゲソリでヒゲを剃っていた。それ見ていた年下の同僚が「わたし、男の人がヒゲを剃るのを初めて見ました」と言った。その声が感嘆をともなっていたため少し大きかった。そばにいた先輩が「あれ?お父さんのヒゲを剃るのは見たことないの?」と聞いた。するとその年下の同僚は「わたしは、父がいないのです」と言ったが、その口調ははっきりとしていた。しばしの静寂。

ヒゲソリにこんないろいろな思い出がある。たかがヒゲソリ、されどヒゲソリである。


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