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まちカドまぞくについての雑感。あと祈り。

 あまり日頃、いわゆる「日常モノ」を観ない。いや、訂正する。観る。最後まで観れないだけだ。

 「日常モノ」とは、多くが「変化のない世界の中での、小さな変化」を取り扱うものだ。古くは『サザエさん』などから続く、日本有数の巨大作品文化だが、基本的に変化を求めて作品を読んでいる僕とはどうしても相性が悪い。録画や配信の今週分が存在しているという事実だけ確認して、「まぁ前回と同じような話で、特に変化はないだろう」と流してしまうのだ。これをもう何度もやっている。しかし学習しないので、また懲りずにそれなりに面白そうな作品の視聴を初め、そして止める……。

 そんな個人的なループの輪から、『まちカドまぞく』は僕を解き放ってくれた。そういった意味では、『まちカドまぞく』という作品は「不変化」と対照的な立ち位置に存在しているのかもしれない。

 『まちカドまぞく』のおおまかなあらすじを書いておこう。ある日突然まぞくの血に目覚め、角と尻尾が生えた吉田優子(多魔市のボロアパート在住)という主人公が、お母さんにシャドウミストレス優子という活動名を本人の了承なしに登録されたり、邪神像に魔法少女の生き血をまぶすために自分なりに努力したり、等の魔法少女から餌付けされたり、果てには魔法少女のために米を炊かされたりする物語だ。

 吉田優子、もといシャドウミストレス優子、もといシャミ子は、まぞくの血に目覚めており、彼女は彼女なりにまぞくっぽい行動や口調を心がけているが、その実力は割とたかが知れている。

 ギャップとかではなく根本的に人がよく、故に異常に他人に丸め込まれやすく、割り箸鉄砲を対魔法少女の飛び道具として採用しそうになるほど多少知能指数にも問題があり、腕力も魔力も人間に毛が生えた程度(腕力に関してはおそらく常人より遥かに低い)というなんともお粗末なスペックをお持ちだ。そもそも角が生える前は学校で遭難するレベルで病弱であり、角が生えてからも重心バランスが変わって若干猫背気味になっている。

 しかし、そんな逆境にも負けず、シャミ子は立派な魔族として成長しなければいけない。それは光の一族によって吉田家にかけられた月4万円(母シャミ妹の3人家族)の呪いを解くためであったり、母と妹、それに大切な宿敵の魔法少女、千代田桃が住む「せいいき桜ヶ丘」の平穏を守るためだったりする。そして、彼女の命を救いあげた、ひとつの光のために。まんがタイムきららフォワードで連載されているだけあって、バックボーンや登場人物の設定は『従来の日常モノ』っぽいのだが、舞台設定は完全に成長譚のそれだ。

 じゃあ『まちカドまぞく』はシャミ子の成長譚なのか? と思われると思うが、それもまた違う。確かにシャミ子は少しづつ成長しているが、それは物語の骨子たりえない。シャミ子がまぞくとして少しづつ力をつけていくということは、あくまで彼女の選択肢を増やすというだけである。

 本当に物語の骨子になっているのは、シャミ子の善意に他ならない。

 前述した通り彼女はとても人がよく、困っている人がいると放って置けない。この作品における「困っている人」は多くの場合、それぞれの過去に囚われている。そしてシャミ子はその人達が前に進めるよう、いつだって手を差し伸べている。

 その対象は家族を失くした孤独で不器用な魔法少女だったり、過去の呪いに他人を巻き込むことが耐えられない魔法少女だったり、はたまた何百年も生きる妖狐であったり。そして彼女の精一杯の善意に当てられた人たちは、シャミ子に対する「恩」を胸の内に抱えるようになる。

 その「恩」が繋いだ絆が、また次の誰かに手を伸ばすための力になる。それが街に隠された謎や、過去をあきらかにするための月明かりになる。そうして窓枠の形に切り取られた光の中を、ふたりの少女が一歩、一歩歩いていき、いつかはきっと結末に辿り着く。『まちカドまぞく』とは、そういう物語なのだ。

 誰もがその場で立ち止まってなんていられない。孤独の暗闇で立ち止まるようなことをシャミ子は許しはしない。何故なら彼女は永劫の闇を司る魔女リリスの正統な祖先であり、ニュータウンの闇の女帝として君臨する偉大なる魔族、シャドウミストレス優子だからだ。誰もが変わっていく、流れていく物語の中で、シャミ子や、その隣に立つ桃が、過去や真実だけじゃなくて、彼女たちだけの大事な宝物を見つけていく物語、それが『まちカドまぞく』という物語だ。

 この物語にはきっと終わりがある。なら、善意で転がるこの物語はどこへ辿り着くだろう? 叶うなら、悪意や不幸な偶然によって、彼女の道が絶たれないことを祈る。小さな身体に生まれながら、様々なものをとりこぼしながらも、15歳まで頑張って生きてきた女の子が、まぞくらしく欲張りに生きられるいつかを、まぶたの裏に浮かべて今日も眠る。いつかそんな日々が、彼女にとって日常と呼べるようになるだろうか?

(三楼丸)

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