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動物たちがくれるもの。

ここ最近、どうも不調が激しい。
今までやって来たことの行き詰まりを、とても強く感じている。
季節のせいだろうか、気分が不安定で、
思考の指針が、プラスとマイナスを激しく行き来して暴れまわっている。

仕事のことも考えた。
家族のことも考えた。

家族の頑張りは、それはもう筆舌に尽くしがたいほどで
僕には感謝しかない。
家族はそのままに、きっとより良い新しい未来が開けている。
問題は自分自身だ。

何をしたいのか。これまで何をしたくて生きてきたのか。
何をこれまでに成してきたのか。

結論から言うと、捕まえるべき機会を逃し続けてきたように思う。
チャンスは確かに何度も僕の人生のそばを通り過ぎて行った。
掴めなかった理由は、力不足ももちろんある。
でも本当にそれだけだろうか。

とにかく、手に入れておかねばならなかったものが
今まだ、この手にないままだ。
ここ数年で、僕を取り巻く環境は変わった。
もう悠長に構えている時間など、これっぽっちも残されていない。

何かできるのか。
それは目の前に、まだある。嬉しいチャンスも頂いている。
これが最後だと思って取り組むべきものだ。

しかし、前に踏み出せない。
これまでできなかったことばかり思い出しては悔やんでいる。
部屋に座っていても、車を運転していても
焦りを感じて、動悸がする。

身体を動かすべきだと思った。
僕にとってそれは森を歩くことだった。
本州に戻ってから、おそらく最も通ってきた山域に
自然と足が向いていた。

林道に工事が入っていた。
落ちた橋はやがて架かり、また入ってくる人が増えるだろう。
フィールドの様子も、どんどんと変わっていく。
今の自分の目には、その変化はネガティブなものとして映った。

静かに歩いていると、小鳥が目の前を飛んだ。
一台だけ持ってきたカメラを取り出し、レンズを向けると、
小鳥の向こうを何かが跳ねた。
それは、角の立派な一頭の牡鹿だった。

僕が気付く前に彼は地面を蹴って林道わきの沢筋に降り
素早く流れを渡って、対岸へと登った。
梢の合間をすり抜けて急斜面を上り、
林道に立つ僕と同じほどの高さで開けた場所に出た。
彼の姿が露になった。
そして突然、その肢体を誇示するように正面に向かい、鼻先を挙げた。
美しい姿だったが、そんな時に僕の頭には
「あ、今俺が狩猟する人だったら撃てるな…」などといった
脈絡のない考えがよぎっていた。

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数枚シャッターを切った後、ファインダーを除けて、
あらためて彼の姿を自分の目で見つめた。
「ありがとう」と、いつものように声をかけ、背を向けて歩を進める。
少し進んで腕時計を見ると16時になるところだった。
そろそろ帰ろう。

帰路につくと、どうも足が軽い。帰ったら旨いものを食べようと思った。
噓のように前向きになっている自分がいた。

野生動物動物の出現とは、目撃とは、何だろう。
特に自分の心が弱っている時、それは大きな力をくれる。
どういう作用なのだろう。どんな意味を届けてくれているのだろう。
この感覚を、どうにか大勢の、いや少数でもいいんだけど、
人々に伝えることはできないだろうか。

そんなことを思いながら帰路を歩いた。


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