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『コロナの現実とNext stepへのヒント』 夏野剛 x 中島聡 対談連載 1.アメリカでのコロナ禍の現実

2021年8月24日に開催された夏野剛と中島聡氏が共同発起人を務める「一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ」の設立3周年を迎えました。それを記念し発起人のお二人が、コロナ禍による想定外の社会の非連続な変化と、それの影響による社会や働き方の未来について議論しています。日本とは違うアメリカのロックダウンの現実やビジネスの変化。コロナ禍を経てこれからのKADOKAWAの”働き方・方針、社長のあるべき姿とは!”をトップ自らが語っています。

『コロナの現実とNextstepへのヒント』
  1.アメリカでのコロナ禍の現実
  2.KADOKAWAの大ヒットに依存しない経営
  3.努力を努力と思わない仕事をみつける!
  4.終身雇用の終わり!働き方をアップデートする
  5.日本の問題とこれからの会社のありかた

司会:お二人の対談は2年ぶりということですが、2年間であった変化、近況をお聞きします。中島さんは如何でしょうか。

中島:一番大きな変化は、最近働き始めました。mmhmm(ビデオ会議用映像スタジオソフト)のソフトウェア会社に入りました。シリコンバレーにある会社で100%リモートで働ける会社です。新しいライフスタイルを模索しているところです。

司会:この、いつまでも開発を貪欲にされている姿はかっこいいなと思います。夏野さんは2021年6月にKADOKAWAの代表取締役にご就任されたとお伺いしております。近況は如何でしょうか。

夏野:ネット番組で気を許すと炎上することがわかりましたので、これからはネット番組でも地上波モードで適切に、ポリティカル・コレクトネスに生きていかなければならないことを最近学びました。

司会:大事な学びですね(笑)。赤裸々に語って頂きありがとうございます。そんなお二方が今回、発起人となりまして、2018年8月8日に設立されたのが、デジタルネイティブな世代の若者を中心としたコミュニティ「シンギュラリティ・ソサエティ」です。本日は、設立3周年を記念した特別対談ということで、お二方から貴重なお話をお伺いしていきたいと思います。

アメリカでのコロナ禍の現実

夏野:シアトル在住の中島さんにお聞きします。アメリカの友人に話を聞いたり、メジャーリーグの試合をテレビで見ていたりすると、アメリカの方が先にWithコロナの状態になっている感じを受けます。マスクしないでメジャーリーグの試合を見ている人がたくさんいる。最近は、アメリカ政府に対して「無策だ!」とギャーギャー騒ぐよりは、現実的にワクチンを打って、少しフリーになりましょう。みたいな感じになってきている。一方で、日本はどうなっているのかと言うと、政府が無策だ、お医者さんが可哀そうだ。みたいに、感情論が先に立っている気がして、正確な議論がなされず、ワクチンに対するデマも流れている状況にある。現状で、日本と比較してアメリカの方が感染者と死亡者数が多いが、アメリカの方が日本より、Withコロナのモードになっている気がする。この状況はどうでしょうか。

中島:アメリカはWithコロナの状況から脱したモードになった感じがします。大きいのは、ワクチン接種が進んだことで接種したい方は既に接種完了できてる状態にある。アメリカ国内には十分なワクチンがある。
 全米のワクチン接種率は60%くらいだが、シアトルでは80%台。面白い傾向として、デモクラットの州が80%台で、リパブリカンの州が40%台のイメージで、アメリカ社会は2つに分断されている。
 今、病院に入っている方のほとんどは、ワクチン接種を受けていない方達。ワクチンができるまで、アメリカでは激しいロックダウンをしていました。アメリカでは日本と違い、政府がレストランに「閉じろ」、「5人以上集まってはいけない」と強い命令を出せるので、皆嫌がっていた。危機を脱し、ワクチン接種を受けた段階で、皆がロックダウンには耐えられない状況になっていった。
 政府がワクチン接種を受けられる状況を作っているので、ワクチン接種を受けない方が悪い状況になってきている。あまりはっきり言わないが、デモクラット側は、僕らは受けていて、アンチワクチンの人がリパブリカンに多いのはしょうがないと考えている。ただ、彼らに合わせてロックダウンはしていられない。ということで、ロックダウンを解除していった。
 デモクラットの人達は、自分はワクチン接種を受けているから、ロックダウンを解除して良いと考えている。リパブリカンの人達は、アンチワクチンどころか、コロナなんか怖くないと考えている人もいるので、結局両方ともロックダウンしないで良いと考えてロックダウンしない。
 2つのアメリカが混在している状況で、なぜか両陣営が一致してロックダウン解除として、アメリカではアフターコロナに突入している。

夏野:日本ではワクチンを受けている、受けていないをそばに置いて、学校も休校すべきかもそばに置いて、政府がちゃんとやってくれないからこんな事になっているのだ、とメディアを含めて言っているばかり。アメリカでは、そういう状況ではないということですかね。

中島:そうですね。ロックダウンが激しかった頃は、厳しすぎると政府が批判されていましたが、その状況を脱して、ワクチンが進み始めたら文句は言わなくなった。たぶん、今の段階でロックダウンしようとしたら、政府は批判されると思います。

ロックダウンはベーシックインカムの予行練習!?

夏野:なるほど。今日本の2回目ワクチン接種率は35%で、1回目接種率は45%なのです。割と高くなってきているが、今日の世論調査では、65%の人がロックダウンしたほうが良いと言っているのです。日本では、法律が無いので、政府にロックダウンの権限が無いので、ロックダウンできないが、65%の人間がロックダウンしたほうが良いと言っていて、不思議なことが起こっている感じがします。

中島:不思議ですね。ロックダウンは本当に厳しい時にはしたほうが良いですけど。

夏野:本当のロックダウンを経験したことが無いので、感情論で言っているような気がしますよね。

中島:そうですね。アメリカのロックダウンは本当に厳しかったですよ。レストランとかはバタバタと潰れました。保証も一応出ましたが、日本と違って、レストランよりも従業員を守るような保証の仕方だったからです。今、歪んでいるのは、その保証が良すぎるので働かない方が良いと思っている連中が多くて、人が足らないところがでている。

夏野:これは、ベーシックインカム的な事が起きている。

中島:ベーシックインカムの実験をしているようなもの。息子もレストランを経営しているけど、全然人が採れないですよ。アメリカ・シアトルの最低賃金が15ドル(日本円で1,600円位)に上がりましたが、それでも採れないです。

夏野:だって誰も働きたくない。補償があるから。

中島:ちょっと保証し過ぎたのかなというのと、ある意味、いいベーシックインカムの予行演習になっているような気がします。

夏野:なるほど。ということでした。本題に入る前に今の状況を中島さんにお伺いしてみました。

ロックダウン中の飲食店の現状

司会:まさに一つ目のテーマが「コロナとビジネス」についてだったので、すごくタイムリーなお話でした。やはりコロナの影響により、世界規模であらゆるビジネスが変化を求められている中、飲食店への影響が大きいと思います。先程、話題にも上がりましたが、中島さんの息子さんが飲食店を経営されていて、今回のロックダウンで影響があったと思われるのですが、そのあたりどの様な感じだったのか、どういう影響を受けたのか、具体的にお話をお聞かせいただきたいです。

中島:一番身近な話で、うちの息子はもともと1つ「ADANA」というレストランを3年くらい経営していて、レストラン経営が厳しく、やっと黒字になって、2軒目の「TAKU」という店を開けた3日後にロックダウンが来ました。アメリカのロックダウンは、日本と違って、「お酒を出すな」の要請ではなく、完全に「閉じなさい」なので、いきなり閉じ、最初の段階では保証もなかったので、すごい厳しい状況に追い込まれました。ただ、すぐに政府がロックダウンの結果として、職を失った人には、通常の失業手当にプラスして、週600ドル出すと言ったんです。これはべらぼうなお金で、これを聞いた息子は、無理に雇って赤字を垂れ流すより、全員解雇した方が皆幸せになると考えたそうです。失業手当が出る上に、週プラス600ドル出るので、全員解雇としたそうです。すごい異常な状況でした。従業員の為にも、お店の為にも全員解雇しても良いという状況で、2つのレストランを合わせて26人程、従業員がいましたが、全員一斉解雇でした。ただ、レストランを経営していると、家賃があるので、2,3カ月経つ頃に耐えられなくなり、1件目の「ADANA」というレストランは閉じました。リース契約上、閉じれる方を閉じ、閉じられない方「TAKU」を残して、ひとまず、両方のレストランの従業員も解雇して、お店も閉じてはいるが、片方の「TAKU」のみリースを残している状況で、とりあえず耐え凌ぐ状況となりました。それでもその時点で赤字を垂れ流す状態でした。このような状況で、人は切ることができても、家賃は払わなければいけないので、潰れてしまった会社があった。、もしくは、経営者自身も収入が無いがいので、息子のように経営者は守られなかった、補償が出なかったのです。そこで耐えられなくて、別の仕事を探した人がいたので、レストランはバタバタ潰れました。数字としては出ていませんが、感覚として、レストラン全体の半分くらいは潰れた、自主的に閉じた感じです。という凄い話がありました。 今は、テレビのブラボーチャンネルの「トップ・シェフ」という番組(日本でいう料理の鉄人のようなイメージ)があり、それに出ることが決まり、ファンが増え、フードインフルエンサーとして生きていけるような気配が出てきました。そのような感じです。

日本のリアル 

司会:すごいですね。大きく変わった感じですね。
夏野さんは如何ですか、身の回りを見ていて、「ビジネスに対してコロナが与えている影響」についてお聞かせください。

夏野:飲食、観光、特にインバウンドが全く無くなってしまったので、この辺りの産業の方々は本当に大変なことになってしまいましたね。日本の場合は、色々な形で政府より補助金が出ていて、特に飲食に関しては、緊急事態宣言が出ていると、一日6万円、蔓延防止処置では、一日4万円が給付され、変な話ですが、レストランの規模に関わらず出ているので、パパ・ママ+アルバイト従業員でやっているようなお店では、十分にやっていけるようなお金が保障されているのですが、逆に居酒屋、チェーン店はもの凄く大変なことになっていて、非常に厳しい事になっている業界がある。一方で、金融、通販、コンテンツ業界等は、過去最高益を更新している所がたくさんある状況で、二極分化が激しく起きているのが、今の日本の現状だと思います。

司会:今の内容についてもう少し深堀りしてお聞きしたいと思うのですが、伸びた業界(金融、通販、コンテンツ)があると思いますが、中島さん、夏野さんから見て、今まさにコロナ禍によって盛り上がっている事業等を具体的に上げて頂けないでしょうか。

夏野:コロナだから盛り上がる事業というのは、あまり無いと思いますが、家での消費という部分で外に出られない状況では、Netflixに代表されるようなサブスクリクション、ビデオオンデマンド系は強いと思います。
これは、アメリカでも一緒なのでしょうか?

中島:そうですね。うちの会社「mmhmm」もリモートワークが増えている中でzoomが伸び、ビデオ用プラグインツールのmmhmmも新規の会社としてはお金が集まった。

夏野:東京だとUber Eatsのようなデリバリー系は凄いことになっていますね。Uber Eatsだけではなく、ウォルトやネコ等、あらゆる国のあらゆるデリバリー系のサービスが東京に参入していて、何でも頼める状態になっていますね。

中島:ある意味で加速したんですよね。色々なものが。

夏野:そうですね。雨が降ると、配達員が足りない状態になっていますよね。今回僕は、規制改革をやっているのですが、実はこれまでの日本では飲食店が既存の許可ではお弁当を出すのが許されていなかったのです。今回のコロナ対策では、お弁当を売る許可を全部の飲食店に認めるのと、酒販免許が無くても、レストランがお酒を売ることを認めている。この2つを認めたことで、飲食店がデリバリーやテイクアウト、お酒の販売ができるようになって、これはコロナ後もずっとやりたいなと思っています。なぜ逆に今まで認められていなかったのかと感じています。

契約がオンラインで完結!

中島;アメリカで、日本との対比で面白いかもしれないのが、コロナ禍の前から、すこしずつドキュサインを使い始めていて、契約をオンラインでサインどころか、クリックするとサインのかわりになるものが、、コロナ禍になって一気に加速しました。色々な業種がドキュサインを導入していて、不動産の売買等の殆ど全てのことがオンラインで出来るようになった。実際に私もコロナ禍になってから不動産購入していますが、物理的な書類へのサインは一切行わず、振り込み含めてパソコン操作のみの全部オンラインで不動産取引ができるようになりました
 最近では、人を雇って何かする、例えば家のリモデル等もオンラインで契約できるようになったので、私としてはとても便利になりました。

夏野:これは、アメリカでもコロナ禍で一気に進んだ感じになるのでしょうか。

中島:コロナ禍前から一部の業者で導入されていたが、コロナ禍以降は一気に他の業者に広がりました。


2. に続く




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