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映画感想:ミッドサマー

ネタバレ🐜

伝説のB級カルト映画と聞いて、貴方は何を思い浮かべるだろうか。悪魔のいけにえ、死霊のはらわた、ロッキーホラーショー、ピンクフラミンゴ・・・

この映画から真面目にメッセージ性を読み取ろうと思えば、できないこともない。主役の女の子は依存症気味で、追い打ちをかけるように実の妹が両親を巻き込んで無理心中してしまう。そして夏がやってきて、彼氏や友人と連れ立って、怪しさ満載の異国の「祝祭」へと、迷い込んでいく・・・いかにも、現代の闇を切り取った芸術映画のような、魅惑的な導入部だ。

しかし、勘違いしてはいけない。ミッドサマーは、確かに芸術映画の側面もあるが、その本質は、B級カルト映画なのだ。ここを勘違いして映画館に行くと痛い目にあう。ミッドサマーの構成の8割はB級ホラー映画あるあるで成り立っており、結末まで、ほぼ一本道のストーリーで突き進んでいく。

しかし、ミッドサマーが凡百のホラー映画やカルト映画と一線を画すのは、使い古された展開を、驚くほどに丁寧で芸術的な画作りで撮っているところだ。

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この清々しいまでの”スウェーデン感”。

Twitterの書き込みで「スウェーデン人の教授がミッドサマーのパンフをひと目みて『うん、スウェーデンじゃないね』と言った」というのを見たが、おそらく日本人がラストサムライの終盤のハラキリシーンに『どうでもいいけどこの森、亜熱帯じゃね?』と感じるくらいか、それ以上の違和感を抱いたのかもしれない。

しかしである。整合性はさておき上の画像は公式ニュースからお借りしてきたものだが、画がキマっている。ここが、ミッドサマーの素晴らしい点であり、罪作りな点だ。顔が熟しすぎたトマトのように潰れるシーンでさえも美しい。

美しさあってこそ、”伝説の”B級カルト映画たりえるのだ。

更に、何の前触れも無く画面が急にグロ映像に切り替わる凶悪さ。そりゃ「ミッドサマー被害者の会」なんてタイトルのnoteが書かれてしまうのもムリもない。(勝手にリンクすみません)私も何度目を覆ったかわからない。アオキさんみたいにグロ映画への耐性や嗜好なんて持ち合わせていない。なぜ顔面をハンマーで破壊するのか。ナイフとかでサクッとやれば良いではないか。やりたいだけだろ、それ!ばか!と心の声で叫んでいたが、ふと「顔を潰すというのはその人の個性を破壊し尽くすことだから、処刑方法としては合ってる・・・」とグロさの意味に思いを馳せてしまう。ちなみに途中から自衛のためにメガネを外した。

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細かい伏線や解釈については、みなさんがもうやられているので特に言及しない。
それに、この映画にそこまで深い考察をする意義をあまり感じない。

例えば村人の踊りや歌。ケルトっぽい音楽を、ケルトっぽく歌う。そしてあまり意味のなさそうな振り付けで踊る。例えば日曜日に大きな教会のミサに参加すると、聖歌が歌われているのを聞くことができるが、ああいった歌声には、なんとも形容しがたい不思議な敬虔さとか、荘厳さがある。それは東京の教会であるからといった地域性や、聖歌隊の上手さとかいった技術的な問題はあまり関係なくて、シンプルに信心深さがそのまま歌声にのっているような感覚なのだ。これは、一度聞いたことのある人なら、わかってもらえると思う。この映画は、そういったリアリティについては、それほど気にして作られていないように思った。歌声に抑制がなく、微妙に押し付けがましい。仕草も同様だ。

長年続く祭りなら、年長者の動きに省略が起きたり、若い人は動きに無駄があったりと、何かしら違いがあるはずで、そのわずかな仕草の違いに、人はその踊りや歌の歴史の深さを敏感に感じ取るものだ。本気で「伝統儀式」を作る気はなく、あくまで、ホラー映画の伝統に則った「それらしき怪しい集落」を表現することに注力したように見えた。

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観る人によっては、そんなところに不誠実さを嗅ぎ取るかもしれない。

(だから感想で、微妙に怒っている人がいるのではないかと思う)

作品のリアリティを捨ててまで、趣味に走るなんて暴挙だと思うが、このバランスは難しいところで、本人がやってて面白くなければ、作る意味はないだろう。タランティーノ監督みたいだ。

しかし私は、最後の女の子の精神崩壊でぎゃーっとなるシーンに、ちょっと興ざめしまった口なので、あまり監督とは趣味は合わないかもしれない。実際、自分がウワーンってなってるときに、周りにウワーンってされると、一周回って冷めてしまう気がする。怖さの系統ではクトゥルフ神話が好きなタイプの人向けではないかと思う。

なんやかんや言ったが、この種の映画が全国ロードショーされて、あまつさえ大手のシネコンで観られるということは、表現の自由は守られているなと感じた。本来は、路地裏のミニシアターで同好の士がコソコソ観る類の映画だと思うのでした。

(K)

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