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【そうだ『少女ファイト』、読もう。】誰かに期待する・されることで多幸感が倍増する最ッ高のドラマ

個人的に大ファンであると共に絶大な信頼を置いている漫画家のひとりに、日本橋ヨヲコ先生がいらっしゃる。なぜなら先生の作品は、「興奮し感動し心温まって人生のモチベーションを上げたい!」という、読者が漫画に期待している多くの要素を必ず届けてくださるからだ。

タイトルを口にするだけで思わず声高になり目頭も熱くなる、“漫画家マンガ”の金字塔にして大傑作『G戦場ヘヴンズドア』をはじめ、『プラスチック解体高校』『極東学園天国』、短編集『バシズム』『粋奥』(電子書籍のみ)と、刊行されている作品はどれもヨヲコ先生からのかけがえのないギフトであり、バイブルでもある。(本当は全作語りたい…けれど長くなり過ぎちゃうので今回は泣く泣く割愛…!)

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そんなヨヲコ先生が現在連載中の作品が、バレーに心血を注ぐ高校生を主人公にした特濃人間ドラマ『少女ファイト』だ。

7月に最新17巻が発売されたばかりだが、漫画ファンの恒例イベント「最新巻発売の折には1巻から読み返す」を実施したところ、完全に『少女ファイト』ブームが再燃。その勢いで、あらためて本作の魅力を共有したい!特に未読の方にぜひ触れていただきたい!という気持ちが冷めやらぬため、noteで思いを発信しております。

まだ17巻だから、追いつくなら今、完全に今!!

よろしければ、しばしお付き合いいただけましたら幸いです。

※以下、ストーリー上のネタバレを多少含みますので、閲覧の際はご留意の上ご覧いただけますと幸いです。

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◆ずばり私が『少女ファイト』にどうしようもなく惹かれる理由

作者の日本橋ヨヲコ先生といえば、作品から感じられる圧倒的熱量や、心に刺さる名台詞の数々で、読者に生きる活力を与えてくださる漫画家さん。私ももれなく心揺さぶられ、ヨヲコ先生作品なしではもう生きてはいけない体になって久しい。連載中の『少女ファイト』も魂を込めて描かれたエナジーほとばしる超名作に違いないのだが、あらためて読み返してみると、個人的には熱量云々よりも、シンプルに「人に期待すること」について思いを馳せざるを得なくなった。

「私はこうしたい、だからあなたにはこうしてほしい、だけどそんなこと言ったら嫌われるかもしれない、それでもやっぱり期待してしまう─。」

劇中で主人公の練が、学が、鏡子が、サラが、シゲルが、みんなが、幾度となく衝突するテーマ。それが、誰もが当たり前に、多少の葛藤と共に日々繰り返す「期待」ではないだろうか。人は人と関わる限り期待をせずにはいられないし、反対に誰かに期待されることもある。それはお互いにとって、ただのプレッシャーにも誉れにも成り得るが、期待に応えられた時に獲得できる、このただひたすらに素晴らしい感情と目の前に広がる景色は、いったいなんなんだ……!?

そうした「期待」がもたらす戸惑いと喜びを、「一人では成立しないスポーツ:バレー」を通して、ドラマチックでソウルフルで最高に漫画的な表現を用いて生み出された作品が、『少女ファイト』だと私は思う。一見するとその世界はどこまでも漫画的なのに、どうしようもなく共感しそそられてしまう理由は、そこにあるのではないか─。

そんなもの考えたところで別段意味はないのだけれど、勝手にますます『少女ファイト』が大好きになってしまった次第です。

そして読み返すたびに思わず唸る、見るだけでテンションが上がる「絵の力」!!

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少女ファイト』毎号連載記念壁紙 より

この太く力強い線と大きな瞳、眺めているだけでワクワクする。台詞がなくても、彼女たちに何か語りかけられているような気がしてならないし、みぞおちの辺りがほんのり熱くなる感じ。

大好好きです。


◆関係性フェチの境地!緻密に作用し合う登場人物の中心、“究極の人たらし”な主人公・練

さて、ようやく作品のご紹介。『少女ファイト』は、高校女子バレーを題材にしながらも決して「ジャンル:バレー漫画」にとどまらない、多彩で重厚な人間ドラマが見どころの作品だ。

主人公は、小柄だが規格外の運動神経とセンスを備え、強者と見れば興奮しプレーしたがる生粋の「バレー馬鹿」でありながら、壮絶な過去によりトラウマを抱える高校一年生の大石練(おおいし・ねり)。劇中に登場する多様なキャラクターとエピソードの中心にして、あらゆる人々を魅了し愛も憎しみも引き起こす、『少女ファイト』という世界の原動力となる主人公オブ主人公だ。もちろん彼女自体が、さまざまな試練に直面し悩み葛藤し、強敵との対決を経てレベルアップし、人としてもバレー選手としても成長し続ける姿を見せてくれる。その上で、練と練をめぐる人々の入り組んだ関係、そこから生まれるドラマの数々が、身震いするほど面白いのだ。

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強さと脆さを兼ね備え、関わる者の人生を揺るがす魅力底なしの主人公・練。<『少女ファイト』1巻 表紙より>

練は小学生時代、選手として将来を有望視されていた大好きな姉・真理の影響からバレーを始める。しかし、ある日その姉が事故死してしまい、練は心に大きな傷を負うことに。失意を振り払うようにバレーに没頭した結果、チームメイトを度外視した鬼気迫るプレーやスパルタ練習につながり、練は「狂犬」のあだ名と共に孤立してしまう。以来彼女は周囲と必要以上に関わることをやめ、バレーの実力を隠し「自分を殺して」プレーするようになる。

ところが「狂犬」の影響は大きく、練に平穏は訪れない。中学受験では仲間たちの“裏切り”に合い、それが後々まで彼女を蝕む新たなトラウマとなる。その後、中学では鳴りを潜めてバレーを続けるも、ある試合の最中にバレー欲を抑えきれなくなり「狂犬」の片鱗を発動。またもや問題を引き起こし、居場所と進学先を失った練は、運命に導かれるように亡くなった姉と同じ「私立黒曜谷高等学校」に進学、かつて姉が活躍した女子バレー部に入部することになる。

そこで出会い絆を深めていくチームメイトや、いつもそばで支えてくれる幼なじみ兄弟、心身共に成長させてくれる姉のかつてのバレー仲間である監督・コーチ陣、何かと因縁のある小学校時代からの友人にして強豪校の面々、学生たちの将来を左右する学園関係者の大人たち─。

練は多くの人々と関わる中で、互いに影響を与え合い、甘苦の経験を通して成長を遂げていく。「自分を殺して」プレーを続けるしかなかった練が、仲間たちとの出会いでバレーへの愛を再認識し、自分の居場所を見出し守るために“戦う”姿には、胸を打たれること間違いなし……いや、打たれないわけが!ない!

コートの中では「狂犬」と呼ばれ顔つきも恐ろしく変貌する練が、実は誰よりも気が小さいというギャップも、彼女の大きな魅力のひとつ。恋愛関係にある幼なじみや心を許した親友の前では、全力で甘えたい一方で、常に「大好きな人に嫌われてしまう可能性、去られてしまう恐怖」にさいなまれており、相当に繊細なのだ。

プレースタイルや意志の「強さ」で憧れを抱かせ、メンタルの「弱さ」で守りたい・力になりたいという気持ちを周囲に起こさせる練は、まさに究極の“人たらし”。本作では、そんな練に惹かれてしまった周囲の人々の人生が、彼女と関わることで良くも悪くも劇的に変わっていってしまうので、あらゆる登場人物から目が離せない。そしてその中心には常に……練!「関係性フェチ」にはたまらないドラマが、そこにある。

ちなみに、本作第一話のエピソードのタイトルは「多い試練(大石練)」前途多難でしかない主人公の今後が、気にならないわけがない仕様になっている!

また、突然ながら私は運動音痴で、義務教育以外でほとんどスポーツをしたことのない大人なのだが、本作を読むと「バレーで喜んだり苦しんだりしている練たち」が本当にうらやましく、いや苦しむ姿をうらやましいなど不謹慎かもしれないけれども、「ただ死んでいない状態」よりも「命すり減らして燃やし続けている状態」のほうが、やっぱり生きている感じがして、心底憧れてしまうのだ。人間関係が作用して人生が変化していくことは、社会で生きる醍醐味だと思うから。

恥ずかしながら大した信念も覚悟もない人間ながら、読んでいるだけで「練の人生と交わりたい」という気持ちまで沸いてきてしまい、彼女の輝きはまばゆさに完全にあてられてしまっている始末。恐るべし、練の「主人公力」!

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『少女ファイト』ピックアップ連載記念壁紙B より


◆“全員”に見せ場あり!練をめぐる個性的で魅力的なキャラクター陣

本作の大きな見どころである、「練と練をめぐる人々の関係性の変化」。その「めぐる人々」、多数登場するキャラのすべて(と言い切っても差し支えないだろう)に、重要な役割と見せ場が存在する。特にストーリーが進みバレーの大会が始まると、次々に新たな強豪校のキャラクターが登場するが(正確に数えてはいないがすでに100人は超えているはず)、「生み出したからにはキャラクターの命をまっとうさせたい」という、ヨヲコ先生のほとばしる「キャラ愛」をひしひしと感じ、読者も常に全力でキャラクターにぶつかられているような気持ちになる。これがめちゃくちゃ心地良く、一冊読み終えた後の満足感がとてつもない。

キャラクターたちは、良い行いもそうでないことも「誰かのため」に実施する(最初は「自分のため」だったが、最終的に「誰かため」になるケースも)。バレーにおける「トス上げ」はもちろんのこと、コートの外でも、弱っている相手を励まそうと奔走したり、一見すると悪い行いが実は誰かを助けるための秘策になっていることもある。行動動機はいつも「誰か」だ。主人公の練は、誰かのために動いたり動かれたりすることもあれば、無関係だったはずがいつの間にか問題に巻き込まれ、練自身が課題を解決するための条件になったりもする。そうして誰もが練でつながってしまうから、キャラクターたちの関係性の変化にドラマが生まれ、見ごたえが増していく。

たとえば、練の大親友となる小田切学(おだぎり・まなぶ)。私は彼女のことがめちゃくちゃ大好きで、作品的にも間違いなく超絶キーパーソンにあたるため、ここでは学をピックアップしたい。

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人の気持ちに寄り添える優しい学。練の隣が似合いすぎるし、いつだって隣にいてほしい。<『少女ファイト』2巻 表紙より>

彼女は小学生時代にいじめられていたところを練に助けられて以来、練を心のヒーローとしている。それがきっかけで趣味の漫画(お世辞にもうまいとは言えない)でバレーを描くようになり、「漫画のために」バレーを勉強すべく練と同じ高校に入学するも、「流れ」でプレイヤーとしてバレー部に入部。未経験からまさかの高校バレーデビューを果たし、明晰な頭脳と勤勉さでもって積極的に練習に励み、少しずつ着実にバレーを覚えていく。

彼女はわかりやすく「練に人生を変えられた」一人だが、実は学こそが練の心を救い勇気を与え、彼女を成長させるかけがえのない存在になっていくのだ。心優しい学は誰よりも他人を思いやり寄り添うことで、練や周囲の心を解きほぐしていく。バレー経験と自信のなさから何度も心折れそうになるも、絶対に仲間から逃げない学は、本作の圧倒的良心「こんな友達がほしい」、そして「人に対してこうありたい」という願望を具現化したような存在だ。やがて「練に巻き込まれた」からではなく、自分の意志でバレーを続けることを決意し、プレイヤーとしてもチームを超えた戦力になっていく姿が、大きな勇気をくれるキャラクターでもある。

学にはまだまだまだまだ語るべき長所と物語が残っているが、こんなにもドラマチックなキャラクターが、大量に登場するのが『少女ファイト』だ。

たとえば、名家のお嬢様にして高いバレースキルを兼ね備えたキャプテンながら、喘息でわずかな時間しかコートに立てず、体だけでなく「家」の問題に心まで悩ませつつも、仲間の前ではマイペースにフザけてみせる最高の女(ひと)、犬神鏡子(いぬがみ・きょうこ)など…

個人的に性格がどツボすぎて、彼女の幸せを願ってやまない鏡子など…!

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強さと儚さと幼さが同居する鏡子。彼女が練習中に練に「お体大切にして下さい」と泣かれるシーンは号泣不可避。<『少女ファイト』7巻 表紙より>

本作では、そんな魅力溢れるキャラクターが数えきれないほど登場し、直接的にも間接的にも練とつながって、心に響くドラマをどんどん拡張していく。

特にバレー部一同の関係性は、「近すぎず遠すぎず…いやでもやっぱり近くがいいな!」の絶妙な距離感が最高なので、わちゃわちゃしている様子だけでも白飯が進みます。


◆バレーだけじゃない!目まぐるしく同時展開する多数のドラマ

本作で描かれるのは「バレー人生」だけにとどまらず、主人公の練を筆頭にとにかく多くのキャラクターたちのドラマが、同時に、劇的に展開されていく。

たとえば、「御家騒動」

本作では、練が通う黒曜谷高校を経営する「三國家」、その分家の「犬神家」、三國家と同格で商売敵である「鎌倉家」という財閥が登場する。その中で、黒曜谷女子バレー部には、理事長の娘であるキャプテンの犬神鏡子、鎌倉家出身ながらワケあって幼少期より鏡子の世話役を務める鎌倉沙羅(かまくら・さら)という、家柄的には対立構造にあるも誰よりも強い絆で結ばれている二人が所属。さらに同校の男子バレー部には、犬神家専属の庭師の息子であるキャプテンの千石雲海(せんごく・うんかい)三國家の御曹司にしてバレー優秀者の三國智之(みくに・ともゆき)がおり、鏡子と智之は政略結婚をさせられそうになる中、その陰で鏡と雲海が愛を育んでいる……という構図も。

バレー部はこうした“家”の問題をめぐり度々政治に巻き込まれ、次第に練もその渦中に取り込まれていく。さまざまな思惑が絡み合う「VS財閥」バトルは、どこか“昼ドラ”的な愛憎劇も含む盛り上がりで楽しませてくれる本作の重要要素だ。特に、かけがえのないお互いを守るために画策する鏡子と沙羅が、「これは相手のためなのか?自分のエゴなのか?」について悩み葛藤し続ける姿は、辛いながらも愛が深すぎて本当にまぶしい。

そして、そんな二人を守ろうとするバレー部一同も……!

それぞれが主役を張れるほどのバックボーンを持った彼女たちが、時に自ら悪役を買ってまで、互いに作用しながら御家騒動に立ち向かう姿は、愛しかないので一刻も早く読んでいただきたい。

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『少女ファイト』ピックアップ連載記念壁紙A より

もちろん御家騒動だけでなく、人の数だけ事件とドラマが山積みで、そのどれもが常に同時進行。

「強豪校を陥れようとする何者かの罠」「練の中学受験トラウマ事件の真相」「練と恋仲の幼馴染、シゲルの目の病気問題」「学の引きこもりの弟、明(あきら)を待つ意外な出会い」……

あ、だめだ全然かいつまんでの紹介ができない、何せ人の数だけドラマがあるから……!!

しかもひとつの事件がさらに別の事件と結びつき、ドラマが拡大していくのですべてを追わなければならない。それは読者として本当に、幸せな作業です。


◆「好き」を止める権利は誰にもない!オタクを肯定し抱擁する、究極の漫画愛

『少女ファイト』にはさらに、漫画ファンが涙なしには読めない最高のプレゼントが用意されている。ヨヲコ先生自体が漫画愛の化身だし、作品自体を読めること自体がすでに十分なファンサービスなのだが、ここではあえて2点に絞ってお話したい。

※以下、未読の方にも差し支えないよう結末的な部分には触れないように…と気を付けたつもりなのですが、結構なネタバレになってしまうため、再度ご留意の上ご覧いただけますと幸いです…!

* * * * *


一つ目は、ヨヲコ先生作品内でのクロスオーバーが見られること。そもそもヨヲコ先生作品では、異なる作品同時が同じ世界を共有していることが多いのだが、『少女ファイト』には『G戦場ヘヴンズドア』の主要キャラクターが登場し、それもストーリーに関わるレベルで活躍する。

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鉄男と町蔵<『G戦場ヘヴンズドア』3巻より>

『G戦』は、人気漫画家の息子・町蔵と敏腕編集者の息子・鉄男が出会い、漫画と命がけで向き合う物語だが、『少女ファイト』では下記のようにその要素が絡んでくる。

・売れっ子漫画家となった町蔵が、「週刊少年ファイト」で男子バレー漫画「エドガワ排球団」を連載している。
・鉄男と彼らの幼馴染、久美子の間に生まれた留弥子(るみこ)が、練のバレー部の一員、主要キャラとして活躍している。
・『G戦』では幼女として登場し町蔵に「お嫁さんになってあげる」宣伝していた留弥子が、『少女ファイト』でも引き続き町蔵にゾッコン。
・引きこもりで漫画家志望の学の弟、明(あきら)と、敏腕編集者の娘、留弥子が出会い、【胸アツ展開に発展】。

などなど……

正直「町蔵の漫画を『少女ファイト』の世界のみんなが愛読している」という設定だけでも涙モノなのに、ここまで両作に作用し合うなんて……。ヨヲコ先生は自身の作品とキャラクター愛がとんでもないのだと思うし、その愛が自動的に、ファンを大歓喜させる結果に結び付いているのだと思うと、ものすごく満たされた気分になる。

そして二つ目は、漫画ファンを肯定し大いなる愛で包んでくださること。

大会が本格化するなか、練たちの対戦相手として、町蔵の漫画「エドガワ排球団」が好きすぎて、バレーをやってみたら意外と才能があり春高にまで進んでしまったオタクチームが登場する。それが、漫画への愛とたゆまぬ努力で漫画研究会からバレー強豪校へと華麗なる転身を遂げた「山吹矢高校」だ。

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山吹矢高校の柴田このみ(手前)、早乙女花子(奥)。「好きが高じて」の最終形態。<『少女ファイト』13巻特装版より>

山吹矢の面々は、その言動が気持ち良いぐらいにオタクなのが特徴だが、“バレー力”は非常に高く、漫画「エドガワ排球団」のキャラクターのプレースタイルを完コピして攻撃してくるという、独特の戦い方で練たちを翻弄する。幼い頃(大人になってからでももちろんいいが)、スポーツ漫画で描かれるエフェクトごりごりな“必殺技”に憧れて、その動きを真似てみたり、キャラクターたちと同じように活躍することを夢想してみた経験は、漫画ファンには少なからずあると思う。山吹矢は、そんなオタクの夢と希望が詰め込まれたスペシャルな存在だ。

練たちは、そんな彼女たちに対戦にも関わらずまたたく間に魅了されるが、山吹矢はいかんせんオタクすぎるがゆえに、実力で春高という晴れ舞台に立っているにも関わらず、観客からブーイングを浴びることになる。漫研の面々をバレー部に誘った張本人・山吹矢の柴田このみは、それを受けて涙ながらに問いかける。

確かにワイらは好きな漫画に影響受けてここまで来たわ
せやかて 何でそれを裁かれなあかんねん
ワイらも仲間に入れてくれや
あんたらはバレー界の代表なんか?
バレーって誰のモンなんや?
ワイはもうバレーを愛しとんのや
(『少女ファイト』99話/12巻 より)

練たちは環境こそ違えど、「大好きなバレーをさせてもらえない辛さ」を知っていたため、このみの言葉に心打たれ、あらためて真摯に向き合い、最高の試合が展開されていく。

しかもその試合を、山吹矢が愛する「エドガワ排球団」の作者・町蔵が涙ながらに見守っているのだ。「好き」がほとばしる試合の熱量だけでなく、ファンの愛情が作者のもとへ届く姿に、思わず“もらって”しまうこと間違いなしの印象的なエピソードである。

「好き」の気持ちを遠慮する必要はないし、止める権利は誰にもない。

そして、作者とファンは相思相愛に成り得る。作者が作品に込めた思いを、オタクは「好き」を原動力にいろんな手法でもって全力で昇華させるし、発信されたオタクの愛は必ず作者に届くのだ。

山吹矢のエピソードは、そんなヨヲコ先生からの温かいメッセージだと思っている。何度読み返しても、元気と勇気と幸福感をチャージすることが可能だ。

ちなみに山吹矢戦のあとも、魅力的でワケありな強豪校のキャラクターたちが登場してくるが、最新17巻では、これまでのどのタイプとも異なる、非常に“やっかい”な対戦相手と戦うことに。青磁学園の雨宮摩耶(あまみや・まや)だ。

もっと早い段階から登場していたキャラクターではあるが、ここへきてその本当の恐ろしさが徐々に明らかに。「あの時もあれもこれも、お前が─!?」という予感と共に、とにかくまだまだ未知数すぎてめちゃくちゃ怖いです。

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雨宮摩耶。その態勢だと指が痛そうだが、彼女は痛みを感じにくい体質……。<『少女ファイト』17巻(特装版) 表紙より>

さらに、コートの中でむき出しになり炸裂する少女たちの思い─。ドラマが動きまくる最新17巻、当然ながら必読!!

未読の方もそうでない方もぜひ、この機会にぜひ「1巻から」読んでみてはいかがでしょうか。その時の心境で押しキャラや刺さる台詞も変わって面白いし、何より興奮と多幸感でいっぱいになるはずだから。

みぞおちの辺りがほんのり熱くなる感覚を、ぜひに!!


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