闘う、仲良く。
「僕ずっと疑問に思ってました。どうして『闘病』って言うんだろう。『闘う』と言うから勝ち負けがつく」
数ヶ月前に話題になった言葉だ。
実写ドラマ版『ミステリと言う勿れ』の作中で主人公・久能整が“闘病”という言葉について持論を展開する件。
その放送日、私は人生初の入院を終えたところだった。病院食がほとほと嫌になり、揚げ物や味の濃いものを好きなだけ食べながら月9を見ていた。
大ヒット漫画『ミステリと言う勿れ』のドラマ化に世間が沸いていた最中、私は突然膝の関節痛に襲われていた。
初めは階段の昇り降りだけが苦痛だったが、そのうちあまり歩けなくなった。寝返りをうてず、毎日のように中途覚醒とひどい肩こりに悩まされた。食欲もなくなり、食べられる量が半減した。
謎の体調不良の連鎖でたくさんの病院を周った。
たくさんの検査で疲れ果てた。
とにかく私は普通の生活に戻りたいだけなのに。
どうしてすぐ薬とかくれないんだろう。
ついにたどり着いた大学病院で、難病の可能性を伝えられた。
全身性エリテマトーデスとかいう聞き慣れない言語の病気で、あまり頭に入ってこなかった。
こういうとき、本人は案外あっけらかんとしている。
周りの人間の方が、事がよく見えているから、心労も大きい。
母は、あまり表に出さないようにしているが、心配であまり眠れていないようだった。
一緒にいるようになって3年目のパートナーは、平静を装っているが暗くならないようにと気を遣われていたと思う。
当の本人は、2週間の入院が決まったときにはもう他人事だった。
スーツケース出さなきゃ、あれ買わなきゃ、iPadとかSwitchって持っていっていいのかな。
必要以上に色々買い揃え、もはや荷造りは楽しかった。
そんな“入院ハイ”は、しばらく続いた。
退院予定日が迫る頃、正式に診断が出た。
指定難病だから、役所に書類を持って行くと補助金の対象になる、と主治医に言われた。
へえ〜そうなんですか、ありがたいですね〜とヘラヘラしながら書類に必要事項を記入した。
退院前日の夜、
診断のことを伝えなければ、とパートナーに電話をした。
病棟のラウンジで電話をかけると、すぐに彼が出た。
一通りのことを、他人事のように伝えた。
彼は、淡々とする私の話を、淡々と聞いてくれた。
話終わると、こう言った。
「まあ、仲良くやってこ笑」
ぷつんと、強がりの糸が切れた。
目から、それはもうすごい量の水が出た。
ティッシュの山ができるほど出た。
感じていることを全部話した。
自分がいま何を感じているか、自分でも初めて知った。
彼は変わらず、淡々と聞いてくれた。
その夜は、久しぶりにぐっすり眠れた。
2月。
『ミステリと言う勿れ』第5話は小日向文世さんがゲスト出演していた。
ほお豪華なこと。今回の月9は相当良い。
カキフライを頬張りながら番組表であらすじを確認する。
劇中、今回も相変わらず整君が持論展開モードに突入する。
「僕ずっと疑問に思ってました。どうして『闘病』って言うんだろう。『闘う』と言うから勝ち負けがつく」
私は瞬間的に、パートナーの言葉を思い出す。
「まあ、仲良くやってこ笑」
ハッとして、翌日残りを食べようとカキフライの皿にラップをかけようとした手が止まる。
私の病は、一生治らない。
なら、闘うよりもなるべく仲良くできた方がいい。
自分にくっついた悪魔のように思うより、一緒に生きていかなきゃいけない自分の一部と思った方がいい。
彼らがくれたこの2つの言葉で、
私は強がらず、上を向いて生きていける。
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