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まだ諸々気をつけながら、それでも楽しんで暮らそうと思う

 以前の私は、「船旅」イコール「大勢で雑魚寝」というイメージを勝手に持っていた。

 思い込みの原因になっていたのは、中学時代の修学旅行で北海道から青森への移動に利用した青函連絡船での体験だった。
 今思えば、乗船時間が短い上に修学旅行という大人数での利用だったので個室を使う機会が無かっただけだろうし、そもそも本来であれば「雑魚寝」する必要もない。
 しかし運悪く、その年の修学旅行は悪天候だった。
 青函連絡船に乗船の際は「雨で足を滑らせると危険なので、デッキには出ないように」と指示された。それでも修学旅行という非日常の中、悪天候をものともせずハイテンションに騒いで引率教師に叱られる生徒もいたのだが、出航から30分も経たないうちに、船内は静かになった。
 いや、厳密には「静かになった」のは人間だけで、窓に打ち付ける雨音と波の音は激しさを増していった。
 遊園地のアトラクションのイントロダクションのように、ゆらり、ふうわりと揺れる船内。みんな座り込み、やがて横になり始めた。ノリノリで騒いで教師に叱られていた男子も一人、また一人とダウンしてゆく。制服姿の中学生が雑魚寝状態となった船内、波の音に混じって聞こえてくるのは嘔吐く音だけ。
 もともと乗り物に極端に弱かったので、乗船前に酔い止めのトラベルミンを服用し、乗船と同時に保健の先生の近くで横になるという特別待遇を許されていた私は、あの日、船酔いを免れた唯一の生徒だったかもしれない。

 人生初の船旅の経験がそんな感じだったので、大人になってからも、船旅は避けていた。
 時折テレビに映る「ベッドとテーブルもある個室で、窓から海を眺めながらワインなど傾けつつ優雅に過ごす船旅」なんてのは、超お金持ちが利用する豪華客船だけのものなんだろう、と思っていた。

 だが、今の私は、年に一度

「ベッドもテーブルもある個室」

での船旅を快適に楽しんでいる。

 それが、

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