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夫のカレーライス

 先週の土曜日。
 仕事を終えて帰宅すると、ドアを開ける前からカレーのいい匂いがした。

「ただいまー!」

 つい子供のように大きな声で言ってしまう。

 「おかえりなさい!」

 台所から夫の声。続けて、

 「お疲れ様。今日のカレーは辛いです。」

 そう言ってカレールーを見せてくれる。今回のルーはジャワカレーのスパイシーブレンドらしい。

 「わーい!楽しみ!!」

 私も夫もエスニック料理が大好きである。唐辛子がそのまま丸ごと入っているような激辛料理となるとさすがにちょっとためらってしまうが、辛口のカレーは大好物。

 夫の勤務先は、完全週休二日制。一方の私は隔週で土曜日も仕事がある。
 今の仕事についてから、私が出勤する土曜日の晩ごはんは夫が用意してくれるようになった。メインは、いつもカレーライス。
 夫のカレーはいつも、その日スーパーで安かった具材を取り入れて作ってくれるので、具もルーの種類も毎回違う。
 基本のジャガイモ、タマネギ、ニンジンの他に入っているのは、ブロッコリーだったりキノコ類だったり様々。お肉も、鶏だったり豚だったり挽肉だったり。
 けれど、ゴロゴロと大きく切られて食べ応えのある食感を残しつつもしっかりと火の通ったジャガイモとニンジン、程よい炒め加減のタマネギの存在感は、いつも同じ。
 そして、いつも必ず美味しい。

夫作・鶏ひき肉としめじたっぷりのカレーライス

「美味しいっ!!!」

 ひと口食べて私がそう言うと、良かったぁ、と安心したように言って、夫もスプーンを口に運ぶ。
 いつもよりピリ辛のルーは、甘いタマネギがたっぷり溶けてもまだスパイシー。でもそれが美味しい。ほくほくのジャガイモとニンジンに、シャキっとした食感のシメジ。ルーと一緒に口の中に広がる鶏ひき肉がまた美味しい。
 夫が独身時代から使っている直径20センチ以上ある鍋は、今では月に2回のカレー専用となっている。一人暮らしをしていた頃には一度に作ったカレーを3~4日かけて食べていたらしいが、二人で食べる今は、翌日にはきれいに完食している。
 それが嬉しいと夫は言う。

 「初めて作ってもらってから、ずいぶん経つね」

 私がそう言うと

 「あの正月の時な」

 夫が笑う。同じ日のことを思い出したのだろう。
 夫が初めて私にカレーを作ってくれた日、私は、夫が料理してくれているのに気づくこともなく熟睡していた。


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