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詐欺師よ、葬儀の仕事を舐めるな

 数か月前、とある私の投稿を、注目記事的な個人マガジンに加えていただいたとの通知が届いた。


 確認してみると、それはnoteのクリエイターを対象に、アクセス増に繋がる文章の書き方や収益化の方法等を有料販売しているY(仮名)というアカウントだった。
 プロフィールには「作家」とあった。


 しかし、どう検索してもYの「作品」はnoteの投稿以外に出てこない。何かしらの受賞歴も無く、書籍が出版された形跡も無い。
 また、稚拙かつ乱暴な言葉遣いが目立つその文章を読むと、失礼ながら「果たしてこれがプロの作家の書いたものなのだろうか?」と疑問を抱かずにはいられなかった。


 Yのプロフィール欄には、Yが立ち上げたという会社名も記載されていた。
 社名をここに再掲することは控える(その理由は最後までお読みいただけばご理解いただけることと思う)。
 「希望」あるいは「望み」を意味する英単語と、「人生」「生活」を意味する英単語をあわせたその社名は、ベンチャー企業にありがちとも言えるが、しかしながら大文字と小文字を組み合わせた個性的な綴りでもあった。
 私は、Yのプロフィールが事実か確認するために、その綴りどおりに会社名をネット検索してみた。
 全く同じ綴りの会社がヒットした。
 それも、1社だけ。


 それは、とある地方都市の葬儀会社だった。



 今年53歳を迎える私は、これまでに実母を看取った際を含み、幾度となく葬儀に参列してきた。知人友人を含めると、参列した回数は数十回を超えるだろう。

 親族として通夜・告別式に参列した経験を持つ方ならよくお分かりだろうが、葬儀会社の方々の仕事は、通夜・告別式だけではない。
 仮通夜から葬儀、そして場合によっては繰り上げ法要まで。
 その会場準備、参列する親族の食事・宿泊の手配はもちろんのこと、病院から葬儀場まで遺体を運ぶのも葬儀会社の方々にお世話になったし、火葬に必要な公的手続きから住職への御礼の目安といった直接には少々聞き辛いようなことまで、葬儀会社の方々にはこちらから質問や相談するたびに丁寧にご説明いただいた。
 それも、言葉遣いから立ち居振る舞いまで、遺族に配慮しながら。


 これまでにお世話になってきた葬儀会社の方々は皆、そうしたひとつひとつの仕事を真摯に、誠実に行ってくださる方々ばかりだった。
 今こうして振り返っても、あらためて、感謝の念が湧いてくる。



 作家というプロフィールの真偽はともかく、Yが葬儀という仕事を通して蓄積してきた多くの知見をもとに、人物表現等についての指南をしたいというのであれば、確かに納得出来る。


 そう思いかけた私だったが、しかし、その会社の創業者にも取締役にも、Yの名前は無かった。
 もちろん、noteで使用しているアカウント名が本名とは限らない。
 私自身、このnoteで使っている「安部忍」という表記は本名のそれとは異なっている。
 しかしながら、Yのプロフィールから推察される年齢は、その会社の創業年度と照らし合わせると、あまりに若すぎた。
 また、少なくとも無料で読める範囲の彼の投稿には、どこにも葬儀関連の話は無かった。
 あるのは、noteの収益化を教えるとの言葉ばかり。


 この人は、本当にこの会社を立ち上げた人物なのだろうか。


 疑問が湧いてきた私は、その日はマガジン追加のお礼のコメントをすること無く、ページを閉じた。

 後日。
 再度確認したところ、Yの自己紹介からは、当該の社名が削除されていた。




 以前のnoteにも書いたが、私は「作家」「画家・漫画家・イラストレーター」「ミュージシャン」といったクリエイティブな職業は、社会的評価の有無によらず、作品を発表すれば誰しも名乗ることが出来ると思っている。


 誰にも見せることが無いのであれば話は別だが、少なくとも作品を不特定多数に向けて公開しているという実績があるのならば、その評価の如何によらず誰もがクリエイターだと思う。
 評価されていない・あるいは知名度が低いからといってクリエイターを名乗る権利はないなどというのは、作品を生み出すものへの暴言であり侮辱ではないか。
 私は、そう思っている。


 しかし、その分野における才能が乏しく、何かしらの実績も有しておらず、それゆえ社会的評価も得ていないレベルの人が、自身の作品で評価を得る前にその制作方法について他人にアドバイスし報酬を得ようとすることには、疑問を抱いてしまう。


 まして、嘘のプロフィールを掲載して有料記事を販売するのは、詐欺でしか無い。




 今回、このnoteを書くにあたって久しぶりにYのアカウントを確認したところ、私が以前見た時とは全く違うプロフィールに書き換えられていた。
 ビジネスマン風の写真だったアカウント写真はイラストに変わり、プロフィールには「ニート」と記されていた。
 以前彼が創業したと記していた社名は、プロフィールはもちろんのこと、自己紹介ページのどこにも全く記載が無かった。


 Yが会社名を削除した経緯は分からない。
 会社から抗議があったのか、自分自身の判断で削除したのか。
 いずれにせよ、実在する会社について「自分が創業した」とプロフィールに書いていたこと、そしてそれをユーザーへの説明無しに削除したことは事実である。

 楽しい場所だったはずのnoteにおいて、Yのような詐欺師が跋扈する状況を、私は不快に思う。
 偽りのプロフィールで情報知財を販売するその詐欺的行為が不快なのは言うまでもないが、私にとっては、この詐欺師が「実在する葬儀会社」の社名を勝手に使い、「創業者」を騙っていたことのほうが不快でならない。
 そこには、企業への敬意も無ければ、その仕事への敬意も無い。
 これまでに見送ってきた親族や友人の葬儀の際、様々に心を配りながら故人との別れの場を支えてくださった方々を侮辱されたような思いがする。


 しかし、私がここでどんなに不快感を表明したところで、詐欺師Yが心を入れ替えることは無いだろう。


 せめて、こうしてYの怪しさについて書き残すことが、今後Yに騙される人を一人でも減らすことに繋がればと思う。
 今この記事をお読みくださっている方々は、「今、このnoterが面白い!」などと持ち上げられても、浮かれて騙されぬようお気を付けていただきたい。


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