#31 非ビジネス月餅をいただきながら、ものづくりジャパンの復活を祈る。
【31日目】中秋節。夜は晴れそうでよかった。本帰国が決まったから、というわけではないと思うけれど、シンガポール人の友人に立派な木箱に入った月餅をいただいた。夫の仕事関係者にいただいたことはあるけど、自分のはなかったので、うれしい。【本帰国まであと69日】
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高島屋シンガポールの中秋節、月餅売りの催事、今年はコロナ禍で縮小化され、さびしいものになったが、毎年楽しませてもらってきた。
老舗月餅店や五つ星ホテル、一流レストランなどがブースを出していて、豪奢なパッケージを眺めて廻ったものだ。
玉子の黄身の塩漬けが入っているものがスタンダードスタイルだが、ドリアン風味の月餅、透き通った生地の”生月餅”、パッケージに日本語が印字された抹茶月餅など、変わり種も人気だ。
日本の有名菓子メーカーも、中秋節に合わせて、豪奢なパッケージを作り、月餅風のアレンジをして、中華系の人たちに売りまくればよいのにと思う。
いくつかの日本のメーカーのものを見かけたが、パッケージの造りがシンプルで、本気度は感じられない。
中秋節のプレゼント月餅はパッケージのルッキングが命。
確実に儲かる市場に、全力で出てこようとしないのはなぜなのだろう。
ジャンルは違うが、韓国のショップのアクセサリーや洋服を見ていると、ローカルの需要を丁寧にリサーチしているのがわかる。
たとえば、中華正月のときには、真っ赤なワンピースや「喜」の漢字をかたどったデザインのイヤリングやピアスなど、ローカルの人が欲しそうなものをたくさん並べている。
それに対して、日本のショップは、ローカルの需要をリサーチすることもなく、商品をただ並べているだけなのがわかる。
値段が高くて、地味な色合いのアクセサリーや洋服が、売れるわけがない。
商品に魅力がないので、販売努力のしようがないから、売り子さんもぼんやりスマホを見ている。そんな店は入りにくいだろう。
クールジャパンだかなんだか知らないが、そんな姿勢だから大赤字でシンガポールから叩き出されるのだ。
家電にも同じことが言える。
日本の家電は、要らない機能がついていて、価格が高い。
たとえばシンガポールでは、ヘルパーさん(=メイド)が家事を担っていることが多いので、シンプルでわかりやすいことが求められる。
ヘルパーさんは東南アジアの非英語圏から来ていることが多いので、細かい英語表示のものが使いにくいことは、容易に想像できる。
もちろん、価格が安いことも重要だ。
シンガポール人は基本的に倹約家で、お金を持ってはいても、無駄な金を払うことを極端に嫌う。
「日本製の家電の優れた機能を知ってもらいたい。」と、ユーザーの意見を聞かずに小難しいものを作ってきた結果、価格が高くなり、売り場から日本製がほぼ消えてしまった。
「本当は誰だってMade in Japan、それじゃなくても日本のメーカーを買いたいよ。かっこいいし大好きなんだ。でも高すぎる。」と周りの外国人たちは口を揃えて言う。
なぜ日本のメーカーは、ユーザーを啓蒙してやろうとする姿勢を捨てられないのだろう。
「日本には日本のやり方がある。」「外国人に媚びるようなことはしない。」という考え方はわからなくもないが、それを貫いた結果、シェアが奪われたのだ。
社員だけではなく、下請け会社の社員、そして彼らの家族の人生を削ってまで、自分たちのやり方を貫く意味ってあるんだろうか。
これもジャンル違いだが、女性に人気の某旅行本シリーズは、実現するまでに5年を要したそうだ。
女性社員が「派手な表紙、写真いっぱいの大型旅行本は、街角やカフェで開いて見るのが恥ずかしいし、目立つから危険に巻き込まれることもある」と、色味を抑えた、小さめな旅行本を提案した。
しかし、決定権を持っているのはオジさん。
オジさんたちは、彼女たちの意見を聞かず、5年もの間、出版許可を出さなかったのだそうだ。
出してみたら、大ヒット。パクる出版社が続出。「ガツガツと観光名所を廻るだけではない、自分らしい旅を落ち着いて楽しむ女性のための旅行本」という新しいジャンルが誕生した。
そのドキュメンタリーを見ていて、私は悔し泣きした。
誰がどう見ても、女性社員さんたちはすばらしい提案をしているのに、頭の固い保身オジさんが決定権を持っている限り、物事は何年も動かない。
世代交代は進んでいるが、いまだに多くの日本企業が同じ問題を抱えていると思う。
日本が世界で負け犬になったのは、決定権を持っているのが、頭の固い保身オジさんだからじゃないのか。
頭の固い保身オジさんは、現状維持が大好物。
物事が動かないから、動かしたい日本人が外国に引き抜かれていったし、外国人は技術を盗んで自国で実現したのだろう。
彼らを目の敵にしている人の気持ちもわからなくはない。
しかし、物事が動かないことのいらだち、そして物事を動かさないことで自己顕示をする高給取りへの怒りはよくわかる。
頭の固い保身オジさんから決定権を奪い、無駄な会議やファックスや電話やハンコがない職場が実現して、インドやインドネシアなどのでかいマーケットを理解している人が決定権を持って、物事がすごいスピードで動くようになれば、日本はまだまだ盛り返せるんじゃないだろうか。
日本のものづくりは、まだ死んではいない。そう信じたい。
そんなことを考えながら、シンガポール人の若い友人がくれたチョコレート月餅を食べ、丁寧に入れた珈琲をすすりながら、ひとりで満月を眺めた。
夫がビジネス月餅をいただくことはあったが、私ひとりのために非ビジネス月餅をもらったのは、初めてだった。
本当にうれしかった。
立派な箱は、アクセサリー入れにして、これからも大事にしようと思う。
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