#38 「何もしないこと」を楽しむ。シェア&イイネを拒絶する生き方。
【38日目】来星したての頃「働かない日本人の奥さんは、何かすることを見つけた方がいい」と言うシンガポール人の不動産代理人に「私は何もしないことを楽しみたい」と言った。それは正解だった。時間とお金を細かくバラまくのは、私には向いていない。【本帰国まであと62日】
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シンガポールに来たばかりのころ、仕事をしないつもりだと言うと、
「働かないなら、何かすることを見つけた方がいいですね。」
とシンガポール人の不動産代理人Kさんは言った。
「なぜ、何かしなくちゃならないの?」
「なぜ、ひとりで家で静かに過ごしていてはいけないの?」
と私。
「シンガポールは退屈だから。することがないと、自分の心が壊れてしまうから。ノイローゼになる。そういう日本人の奥さんたちを見てきました。」
とKさん。
「自分の人生が退屈なのを、シンガポールのせいにするのは、間違ってる。」
「駐妻Aさんは、シンガポールのことをまだ何も知らないでしょう?」
「たとえシンガポールが退屈な場所だとしても、私は退屈な人間ではない。だから、退屈するはずがない。シンガポールのことを知らなくても、自分のことはよく知っているよ。」
Kさんは苦笑した。
「私は、何もしないことを楽しみたい。ただ、丁寧に生活をしたい。友達も要らない、趣味も要らない。この広くて素敵な家で、丁寧に暮らすだけでいい。」
「駐妻Aさんは、普通の日本人の奥さんではないですね。」
Kさんは中華系シンガポール人なので「丁寧に生活をする」と言ったところで、真の意味はわからなかったのだろう。
基本的に中華系シンガポール人の女性は、炊事をしないし、洗濯や掃除もきっちりやる人は少ない。メイドさんがいることもある。
彼は、家族や自分のために手を動かして、丁寧に家を整える喜びというものを知らないのだ。
そういう女性の姿を、現実の人生でも、テレビドラマでも見たことがないのだから、知るチャンスがないのだろう。
これは生活文化の違いだから、しかたがない。いいとか悪いとかの話ではない。
Kさんはなぜか、私が家から一歩も出ない、誰とも関わりを持たないと決めつけていたが、そんなことはない。
ひとりで街のカフェで読書したり、勉強したりして、街を十分に楽しんでいたし、英会話スクールにも行っていた。
ただ「シンガポール的な過ごし方」をしていない、というだけだ。
「シンガポール的な過ごし方」とは、ランチだディナーだと友人知人とつるみ、写真を撮っては、インスタだワッツアップだFacebookだと、SNSでシェアをしまくることだ。
そしてイイネをかき集めて、満足する。
私は、ああいうやり方を好まない。
在星日本人駐妻のキラキラブログが小バカにされるのは、明らかに日本だったらやらないだろう、という動きを、奇妙な文章で全世界に公開しているからだ。
自分の軸をしっかり保ち、新しい世界で見聞を広げていく動きを、落ち着いた文章で記録した海外在住者のブログは、誰もバカにしたりしない。
もちろん、駐在ハイになるのは日本人だけではないだろう。
しかし世界のブログの8割が日本語で書かれているという事実から見たら、駐妻キラキラブログの8割も日本人駐妻によるものと見て間違いないと思う。
「人生にも季節があるんだよ。今は、シンガポールのことを勉強したり、英語を復習したりする季節だと思ってる。そのうち、たくさんの人と交流して、楽しむべき季節も来るよ。」
自分の言葉通り、やがてローカルや、在星外国人と交流を楽しむようになった。
もちろん、いちばん大切なのは、夫が仕事に全力で取り組めるように、家を整えることだ。
それが終わったら、何もしないことを楽しむ。
昼寝をしたり、音楽を聴きながらぼんやりしたり。
貸し切りの広くて美しいプールに浮くこともある。
日本では出来なかった、最高の贅沢だ。
スマホが普及して、忘れがちになっているが、人は本来、何もしなくても、考えごとや空想などをして、何時間でも豊かに過ごせたのだ。
そうやって、自分自身を丁寧に養っていた。
「何もしない」というシンプルで大切なことを、十分に取り戻せたシンガポール駐妻生活であったと思う。
東京は文化レベルが高いし、やりたいことは増える一方だ。
それでもやはり、何もしない時間を楽しむことは、大切にしていきたい。
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