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鳴潮のメモ#4

祈池村到着 ~ 三つの痕跡の調査

 黒石駐屯地から一路南下し祈池村へ。中枢信号塔を開けるなどする。北側一面に大きな池を湛えた祈池村はまさにその名通りの景観だったはず。水場は暮らしの基盤であり外敵への防壁。ポストアポカリプスでこうした土地を見つけたら拠点にしたくなる気持ちはよく分かる。もっとも、今は干上がった泥土に水溜りが点々とするのみ。加えて其処此処に茂る薄紫の灌木がロケーションの雰囲気を妖しげに彩っている。

 一帯では青白い野草が採取でき、それは蝕夜幽蘭(ギンリョウソウモドキ)というらしい。字面と読みの乖離。ギンリョウソウモドキは実在するようだが、ゲーム内テキストと照らし合わせるに、今州人が蝕夜幽蘭という別名をつけたようす。   
 台地状にせり上がった地形の中央には廃墟となった祈池村があり、淀んだ空気が村の善からぬ過去をプレイヤーに仄めかしている。

モルトフィーへの浮気が露呈する。

 また、ゲームシステムとしての無音区がここで開放され残像と連戦。難なく終えたものの今後コンテンツとして激化していくのだろう。


 無音区の残像を一掃したことで祈池村の調査が可能に。対象は壊れた木札、怪しい痕跡、謎の残像の3つ。
 思いのほか塩梅よく話が進んでいるが、葉に導かれた祈池村はとうに滅んでおり、我らが漂泊者とヤンヤンは悲劇の謎を紐解かねばならないようす。前回マンゴスチンは戦争の暗示であると二人は推理した。すると今回、葉は残像やそれによる被害の実態を漂泊者に示すのではないだろうか。

 まず、目立つ場所にいる謎の丸い残像と会話。人語を話す無害な残像で、「お兄ちゃん、助けて」といった言葉を繰り返す。こうした例は珍しくないのだろうか? ヤンヤンに困惑の色はない。
 ここで残像という存在一般に対してヤンヤンから興味深い情報が共有される。残像は他の周波数を吸収することによって生まれるというのだ。そして恐らく謎の残像は襲った人間の周波数を飲み込み、断末魔や末期の悲嘆を記憶しているのではないか、と推測。なんだか話がいっそう暗調を帯び始めた。つまり、この世界ではあらゆる悲劇や激しい感情が周波数として焼き付き、時に残像として具象化するということ。やはりここでも漂泊者は自身が迷い込んだ世界の過酷さを目の当たりにする。
 ところで、"残像は他の周波数を吸収する"……創世神話の天人や漂泊者は一身で残像を吸収した……やはり残像のなにか根源的な存在が漂泊者の中に眠っていたりしないだろうか。
 ヤンヤンは残像の頭に手を乗せ、情報の残滓を読み取る。残像に食われた人物や滅ぼされた村の切望が木霊している。こうした感情は色褪せておらず、悲劇からさほど時間が経っていないことも伺い知れるらしい。

熾霞が来るかもしれない!とメモを残していたおかげでたぶん熾霞に応援要請を送ったらしき旨のスクリーンショットだと思い出せる。


 次は地面の怪しい痕跡を調査。何かが引きずられたり複数人の争いが生じた跡に見えるとヤンヤンは推測。あまり多くの情報は得られず。


 最後は壊れた木札。かなり古びており、祠堂などで用いられるものらしい。過去の記録によると祈池村は何らかの信仰が流布しており、大規模な祈りの儀式を行っていたという。ここまで全てヤンヤンが情報源である。どうやら祈池村は池に守られた土地に因んだ名前というよりも、特別な祈祷のほうを重視した名付けらしい。池と沼の違いはあるが、なんだか黒い砂漠のグリッシー村を彷彿とさせられる。


残星組織監察、スカーの登場

 3つの調査を終えると強制的にカットシーンが入り、村の中央で焼け焦げた襤褸とカードのようなものを発見。辺りにまだ余燼が舞っており、遠い過去の痕跡ではないことがひと目で分かる。

 ヤンヤンから「残星組織(フラクトシデス)」の仕業であるとの提言。残星組織は人間と残像の融合を目的とし、過去にはテロ事件も引き起こした危険組織であるらしい。組織の末端人員は「アーティファイサー」、指導者層は「監察」と呼ばれる。工匠はいわば組織の手指、監察は組織の目ということか。職位の名称はさておき、とうとうここに物語の勢力図として明瞭なコントラストが浮かび上がった。更に話は続き、カードからは監察の一人、スカーという人物が導き出される。
 ここで二人は小さな物音に気づき、付近の茂みを探る。再びカットシーンでヤンヤンが野良猫を抱き上げ、思わず相好を崩す漂泊者。しかし雲陵谷と同様、無音区で気を抜けば凶事を招く。果たして、ヤンヤンは赤い四辺形の力場に飲み込まれ、漂泊者の前から姿を消してしまった。そして背後には下手人。残星組織という勢力名が出て間を置かず、アーティファイサーを一足飛びで監察が登場してしまった。

監察スカー、華胥研究院を出た漂泊者らを尾行していた内の一人。
彼のキャラモデルも抜きん出ており、その魅力を様々なアングルで打ち出してくる。このアオリができる3Dモデルは強い。

 スカーは漂泊者の過去を知る者らしく旧交のよしみで接触を図ったようす。既にあらゆる勢力が漂泊者を奪い合う構図が生じており、漂泊者は否応なくその渦中にいると告げる。
 ひるがえって漂泊者は仲間を害した相手を決して信頼できまいが、かといって過去を持ち出されると一蹴できるわけでもない。徐々に相手のペースに飲まれていく。スカーはヤンヤンを邪魔なので隔離したと述べたが、確かに彼女なら容赦はしないだろう。

大切な友達ということは、彼は漂泊者を実用性以外の観点で見ているのだろうか。

 話題は強引に祈池村の過去へと遷移。彼も世界の有り様を見せつけ、漂泊者の自我による選択を促すことがねらいだとすれば、この点は令尹とさほど変わりない。
 祈池村の惨状は誰の仕業なのか。ヤンヤンの話を事前に聞いているためプレイヤーも漂泊者も残星組織に疑念を向けたくなるところだが、スカーはこれを否定し、事態の複雑さを強調する。そして祈池村の過去が寓話仕立てで語られていく。信頼を得たいときに不正確な語り口を用いるべきではない。が、おそらくスカーの目的は論理的な説得ではなく、漂泊者の感情を揺るがすことで何らか化学反応を引き起こしたいものであると察せられる。
 私はてっきり祈池村は単なる残像潮に巻き込まれただけかと思っていたのだが、スカーの語るところによれば、これは歪な信仰や村民相互の疑心暗鬼の果てに至った凶状であるらしい。


祈池村の再調査とヤギ飼い寓話

 祈池村の過去の主要人物を無垢な少女、人望高い村長、純朴で善良な村人らとスカーは大別する。

 ごく短いあらましの後、スカーは語りを切り上げ漂泊者自身にもっと情報を探すよう勧める。先ほどの謎の丸い残像が先導を始め、村の各所で断片的な情報が得られる。これらを繋ぎ合わせて真相へ迫れということらしい。


希星の日記

 第一の情報は"無垢な少女"にあたる希星という人物が幼少期に残した日記で、彼女の出自が明かされる。内容は幼気でありながら既に良からぬ未来が暗示されている。
 希星は他所からの貰い子であり、はじめ村長宅に仮住まいしていたが後に正式な養女となった。特筆すべきは特別な力(共鳴能力?)で残像を退けられたという点で、村人からも崇敬の対象だったようす。なお、希星を手放した父母の消息は知れない。娘を売ったか或いは騙し取られて既に処理されたか。
 日記中では4年の月日の経過が示されており、希星の文体もひらがな主体の幼いものから、漢字に慣れた年相応のものへと変化している。8→12歳くらいだろうか?

断片をひとつ辿るたびスカーから比喩的な物語が語られるほか、しばしば個人的な感情が開示される。スカーも祈池村の関係者なのだろうか?

 スカーは寓話のなかで村人らを子ヤギに喩え、狼に恐れながら身を寄せ合い暮らしていたと語る。狼は残像の暗喩だろうか。あの謎の残像は希星? すると"お兄ちゃん"はスカーということだろうか。さしあたって確からしい情報は無い。


枝に巻かれた願い文

 残像に導かれるまま第二の情報を辿る。枝に巻かれた願い文から村人らの渇望を読み取れということらしい。そこには富の獲得や不具の克服といった切実な願いが綴られ、それらが成就したことに対する神や村長への感謝も述べられている。しかし一方で、願いの成就は予期せぬ代償を要するらしく、富を得た村人が代償として母を失い悲嘆に暮れている様子がうかがえる。
 さて、文の巻かれた枝の近くに破れた絵本のページが落ちており、スカーはこれに則って寓話語りを再開する。先ほど少女の日記を拾った際には絵本に関する言及など無かったはず……さておき、肝心の絵本の内容だが、一読しただけでは希星の日記との関連性が見いだせないため一旦切り離して整理したい。
 ある日のこと、村をヤギ飼いが訪れて子ヤギ達の暮らしを一変させる。安全や食糧のみならず欲しいものを全て叶え、ヤギ飼いは子ヤギ達の神となった、と。願い文に記されていた内容を部分的に暗示している。


絵本の頁

 更に残像が導くまま、第三の情報を得る。今度はじかに絵本の頁。内容は前回の続きとなる。
 子ヤギ達はヤギ飼いを崇拝したが、黒ヤギだけがただ一匹、その輪に加わろうとしなかった。そして黒ヤギは子ヤギ達の数が日に日に減っていることに気付く、というもの。(スカーの言に則るなら)搾取構造への気づきを表している。
 語りの折々でスカーは自らが黒ヤギの立場であるかのように、絶対的な権威に対する反骨を露わにする。そして話の焦点を現在の世界へと移し、ヤギ飼いと子ヤギのような搾取が他にも行われていると煽り立てる。スカーはこうした搾取構造の打破を望んでいるように受け取れる。

 スカーはかつて自分も十分な(等価の)対価さえあれば願いは報われると信じていた、と語り始める。ここから話は比喩的な表皮を纏ったまま、具体的で微妙なニュアンスへと迫っていく。
 実際のところ、報われるには等価ではなくより重い対価が必要であり、それが知れ渡れば願う者も損得を踏まえ慎重になる。が、他者に対価を肩代わりさせられるなら誰もが躊躇を捨てるだろう。自分が他者の肩代わりをさせられる可能性には気付かずに、と。スカーはやはり構造とそれに気づかない無辜の人々を指弾。彼のスタンスは一貫している。
 問題は、彼は既に祈池村だけでなくもっと巨視的な視点で語っている可能性があるという点。スカーの言葉はただ祈池村の過去を示すだけでなく、自身の過去、そしてこの世界の在り方という二重三重の示唆を秘めているように思われる。先の画像でスカーが「この村は俺と今州の因縁の始まり」と言っていたが、どこまで額面通りに受け取るべきか。彼は祈池村で起きた出来事を、単に今州という世界の構造に投影しているだけの可能性もある。
 しかし枝の願い文の内容を振り返えれば、あれは予期せぬ対価で苦しむ人々のようすではなく、誰かの願いの代償にされて苦しんでいるように思えてきた。これに関しては筋が通りそう。


壁の落書き

 続けて第四の情報。残像が導くのは壁の落書きで、「異端者」、「あいつを追放せよ」、「化け物」、「あの女のせいだ」とのこと。ふーん……今のところ祈池村関係者で明確に女性なのは希星だけ。しかし罵倒の内容は、希星ではなく絵本の黒ヤギに投げかけるべき言葉。希星は残像を退ける能力で村民らから慕われていたはず。
 新たな絵本の頁も獲得。ヤギ飼いが「子ヤギの数が減った理由は黒ヤギにある」と告げて子ヤギ達を煽動したことにより、黒ヤギはおそらく私刑を受け、朝を迎えられなかった。この結末を語り手は"ヤギ飼いが作った新しいルールを黒ヤギが破ってしまった所為"であると述べる。

画像のくだりの内容は判然としない。ヤギ飼いがもう子ヤギ達の願いを叶えなくなったのはなぜだろう。


スカーとの問答、ヤギ飼い寓話の全容

 プレイヤーは考えを纏めきれていないのに、早くも漂泊者はスカーに推理を開陳する段階に。私はもうこの戦いについていけない。推理はスカーの問いかけに対して、選択肢から応答するかたちで進んでいく。
 まず子ヤギの数が減った元凶は?という質問だが、これはヤギ飼いを選び、おそらく正答。
 次に願いを叶えるための対価について。これは即ち命。やはり、他者の命で願いを叶えるという構造が祈池村には具体的にあったようす。
 最後は一連の物語の真実を述べろと要求される。これに対しては"子ヤギとヤギ飼いが手を組み黒ヤギを始末した"で正答か。子ヤギはヤギ飼いに騙されただけで唯一の悪は黒ヤギである、という単純な構図が不適当であることは折々に述べられてきた。子ヤギ達もすでに"他者を犠牲に願いを叶える"という構造の維持を望んでおり、不必要な真実を知った黒ヤギは邪魔でしかなかったのだろう。

 こうした問答を経て、改めてひと繋ぎの寓話がスカーの口から語られる。「それってつまり……」と言ってくれるヤンヤンは今ここにいない。
 新規情報は語りの後半で追加される。まだ黒ヤギが私刑される以前の時間軸。ヤギ飼いは黒ヤギに対しても「他のヤギを対価に何かを願え」と迫るが、黒ヤギはこれを拒絶。結果、ヤギの集団から疎外される。更にヤギ飼いは子ヤギが消えていく元凶を黒ヤギであるとうそぶき、彼がルールを破ったためにもう願いを叶えることはしないと告げる。そして、全ての子ヤギは対価のことを知ったうえで先述したように構造の維持を望んでいることを指摘。

 これでヤギ飼いの寓話は終わりらしく、祈池村に起こった真相も分かったはずと言われるが、全く分かっていないプレイヤー。スカーが世界をどんなふうに捉え、どんな心理の変遷を経て残星組織というアウトローに属するに至ったかは理解できたが、祈池村や希星がどうなったのかについて私は少しも腑に落ちていない。
 腑に落ちないまま結局スカーと殴り合うことになったので、瓦礫の浮かぶ謎空間で仕様がなく殴り倒す。戦闘中の発言によると、スカーはやはりヤギ飼いを「ルールを作る側」、黒ヤギを「ルールを打破する側」と見なしているらしく、この場合のヤギ飼いは令尹のような体制側の人々であると言いたいのだろうか。
 なお、スカーは蹴りを主体とした格闘に加え、罠に変化するカードの投擲を織り交ぜて戦う。こんな戦闘スタイルはめったに見かけないが、スカーの晦渋かつ前のめりな人柄とよく似合っているように思う。


スカー打倒 ~ 祈池村地下空洞、真相

 打倒に伴いヤンヤンの声が響き、彼女がスカーの作り出した幻境(おそらくは先ほどの謎空間)を打ち破って漂泊者を助け出してくれたことが明らかになる。それってつまり、自分が閉じ込められた幻境を破り、漂泊者のそれも破ったということ? やはり軍人は強い。そしてスカーの相方らしき女性が静止に入り、彼を伴ってその場を去る。スカーは瞬間移動や異空間の生成に長けているらしく後を追うのは困難であるそう。便利能力なので組織の使い走りとして今後も幾度となく接触するのではないだろうか。
 ここまでのスカーと漂泊者の会話劇は決して棒立ちではなく常にユニークなモーションが散りばめられており、グラフィック面でプレイヤーの目を開かせる工夫に関して万事が尽くされていた。今後も鳴潮のストーリー演出に期待が持てる。

とはいえこれは誰もが持つ傾向で、人は多かれ少なかれ、事実の羅列に物語や意味を求める。

 荒事のあいだ身を隠していた謎の残像が姿を表し、「お兄ちゃん」と呟く。"お兄ちゃん"はやはりスカーのことではないかと漂泊者、ヤンヤン双方が推察。
 そしてヤンヤンは感知能力で壊れた木札の欠けた一方を探し当て、完全な状態に復元することで地下への道しるべを発見する。木札は確か、最初の三つの痕跡のうちの一つで、祠堂において儀式などに用いられるものだった。まだまだ祈池村の真相に迫る余地があるようす。
 干上がった池底の地下には大空洞が広がっており、中央にはもはや見慣れた無音区の形跡。

 残像は地下空洞でも先導者となり日記の断片を提示する。やっと希星のエピソードの続きが語られる! 今度の日記も漢字が適切に用いられていることから前の日記より後の時系列。項目が多いので日付にわけて纏める。

原文のひと繋ぎ。

6.19
 なんと、"お兄ちゃん"が希星のもとを訪ね、「俺たちは同じ側の人間」であると言い含め、ヤギ飼い寓話を希星に語ったことが記されている。文中では「もし私が黒い羊だったら」と書かれているが、ヤギ、羊、ヤギ、羊……いや、ヤギと羊くらい誰だって間違えはする。
7.20
 次項では希星が残像を退けるのに失敗し、村がなんらか被害を受けたことへの自責が吐露される。加えて、友人らしき"西ちゃん"が問題のある姿に変貌してしまったこと、そして、村長に共鳴能力で西ちゃんを元通りにできる可能性があると言い含められているようすも記されている。
12.17
 「あの事件から3ヶ月が経過した」と記されているが、何を指しているか不明。日付を無視して考えるなら前項の一件なのだが。村長は希星に命じ、残像の周波数を操って物を創造・模倣させるようになった。この力には何らかの代償が伴っていることが読み取れる。
 おや? これまでの時系列では村長自身がなにか特別な能力を有していたわけではないらしい。ここでようやく祈池村にもヤギ飼い寓話のように代償を伴う願望機が登場したというわけだ。
 希星は「私が西ちゃんを残像に変えた」ことが周囲に露呈することを恐れ、平常心を失っている。
2.8 (翌年であるかは不明)
 ヤギ飼い寓話の筋書きと同様、希星は村人の数が次々減っていることを察知。また村長が残像を連れ帰ってくるのを目撃している。
 おそらく、希星は残像を退ける共鳴能力とは別に、"誰かを残像に変えることで、無から何かを生み出す能力"を行使していると思われる。これは彼女自身の共鳴能力かもしれないし、共鳴能力者を使って祈池村特有の儀式を行うことで起こせる現象かもしれない。
(日付なし)
 希星が村人らに囲まれ罵声を浴びせられたことが記されている。おそらく壁の落書きのような内容。そして祈池村(または神)に対して、「自分を対価にこの村を救ってほしい」と希星が願う旨が記され、以降の記述はない。
 また末尾には「どうやらお前の方が運が良かったな」とスカーらしき人物の追記が添えられている。

 これで祈池村に関する情報は全てらしい。さて、話を整理する。
 希星の辿った道行きはヤギ飼い寓話と筋書きは近いが、"真実を知る黒ヤギでありながら願望機(=ヤギ飼いの権能)でもある"という点において、少し様相が異なる。そして漂泊者を導いた謎の残像の正体は、自分を対価に村の救済を願った希星ではないか。これを踏まえるとやはり、ヒトを残像に変えることを代償にモノを生むという権能は希星個人の共鳴能力に依るものではなく、あくまで祈池村の儀式に依拠していると考えられる。
 尤も祈池村の現状を見るに、希星の最後の願いはどうやら望ましい形で叶うことは無かった。希星ひとり分では対価として不足だったのかもしれない。村内における無音区の発生や残像の闊歩は、不完全な願いの結果か。
 ここまで進めてようやく得心がいった。
 私は祈池村の悲劇が一度きりと思い込んでいたが、実際のところ、こうした儀式による搾取は少なくとも数度繰り返されてきたものと思われる。希星は直近の黒ヤギだが、スカーは更に過去の時点において寓話通りの筋書きで村から疎外された黒ヤギだった、ということではないか。であれば、スカーの「この村は俺と今州の因縁の始まり」という言葉も筋が通るし、日記の末尾に「お前の方が運が良かった」と書き加えられた一文も、希星はヤギ飼いと子ヤギの共謀によって私刑を受けるかたちではなく、自分の意思で権能にアクセスして村に(本意でなかったとはいえ)終止符を打つことができたと解釈すれば、彼女の道行きはスカーよりも恵まれていたと考えられる。
 ゲーム内情報から導ける真相はこれが限界で、これ以上は憶測を重ねた想像となってしまうが、個人的にはようやく腑に落ちてくれたので満足して次章に進める。
 思うに、祈池村の悲劇を世界の構造に当てはめたなら、権能を持ちながらもただ利用される黒ヤギ(=希星)の姿は、力を秘めながらも希薄な自我でさまよう漂泊者のひとつの末路と言えるだろう。日記における希星は「きっと間違っていたんだ、私はもう未来のない道を歩いている」と吐露したが、自分の力と世界の構造に自覚的にならない限り、これと全く同じ言葉を漂泊者はいずれ漏らすことになる、とスカーは警告したかったのではないか。
 確かに教訓はじかに言い渡されるより、虚構の表皮を纏っていたほうが心に馴染みやすい。しかし、彼の言動は余りにも迂遠すぎる。スカーという今州随一の悲劇詩人が仕掛けた渾身のドラマツルギーだが、漂泊者はしっかり受けとめられただろうか。

なおスカー打倒の際、やはり物陰から散華さまが見ていた。


 今回はスカー(と希星)。彼は今まで登場した人物の中では漂泊者に対して最も深く自己を曝け出した。それを好意的に受けとめるか否かはプレイヤー次第なのだが、少なくとも私は彼の先行きに興味が湧いてきた。
  希星が固有グラフィックでないことについては少し残念に感じつつも、よく考えてみれば、スカーも希星もなれ果てた後はツノが生えている。偶然かもしれないが。

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