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宝塚記念 新馬先生はこう見る~道標

プロローグ

いつになく難解な宝塚記念の予想をしていたら、
とても弱気になっている自分に気付いた。
このまま弱気だと、記憶の中にいる
先生はすごい剣幕で怒りそうだなと思った。
今日は、そんな僕と恩師の話をしたいと思う。

僕と先生が出会ったのは
もう18年も前になる。
競馬歴より若干、短いくらいだ。

厳密に言えば、先生と僕は直接出会ったわけではない。
その頃、僕は学生で
とあるサッカーサイトで記者のアルバイトをしていた。

僕はその頃、全国でユース世代専門で取材をしており、
それ以外の時間は先輩やフリーランスの記者が、
持ち帰ってきた記事の校正をしたりしていた。
余談だが、今は新馬戦を好み、当時もユースを取材している。
どうも、僕は若駒を分析するのが昔から好きらしい。

その頃は、毎週土曜日の昼から夜9時までは戦争だった。
囲み取材と共同記者会見のテキストがメールや電話を通して、
J1、J2と所かまわずやってくる。

それをアルバイトが校正し、編集長に持っていく。
更に朱を入れ、取材主に返しOKが出たら、webにアップする。
記事を読み込むのは、実際にユーザーと同じタイミングだった。
僕らの媒体は、携帯の有料サイト。
読者に求められていたのは、正確性も勿論だが、
それより即時性だったからだ。

そのインタビューも、毎週末、
10近くあるいつもの試合の共同会見のテキストが
メールに打たれてやってきた
・・・・・・・・・・はずだった。

そのインタビューを見た瞬間、雷に打たれたように手が止まった。
最初、書いてある意味を咀嚼するには時間がかなりかかった。

文面にはこうかかれていた。

「シュートは外れるときもある。それよりもあの時間帯に、ボランチがあそこまで走っていたことを何故、褒めてあげないのですか。」

校正を忘れて、言葉に自分自身が吸い込まれるような感覚に苛まされた。
サッカーの試合後、インタビューでこんな言葉を見た記憶がない。
急いで試合のハイライトを見返す。
そして気付いた。結果が求められる、いや全てだという世界で、
この人は、試合の結果より大事な練習プロセスや選手のマインドを見ているのだと。

当時は二期制だったJリーグ。
前期優勝をかけた、シーズン終盤。
対ジュビロ戦を迎えたジェフ千葉(当時・市原)の佐藤勇人選手はサイドにいた山岸選手があげたクロスに走り込み、フリーで飛び込んできた。
ただ、残念ながらシュートは枠外に外れ、試合は2-2の結果で引き分けに終わった試合。
優勝戦線最中に勝ち点1で終わったことよりも、指導者として自身の指導した選手たちが、意思を持って動いた過程を
記者として見ろと、そこを評価してほしいと言われていたのだと思った。

そのインタビューは、僕に問いかけているようだった。
「ジャーナリズムとは、表面ではなく、物事を深く突き詰めることだ」
と。

僕は、人から面白みがないと言われる。
でも、仕事に必要な本質とは、僕に伝えられることとは、
「少し潜ってみる」
ことだと、その会見から学んだ。

僕はその発言を起こした主を思い出す。
彼は、僕にとって道しるべだと思った。
今年の宝塚記念の予想は、自分なりに本質を突き詰めていこうと。
初心に帰る機会をもらったのだと私は思う。

さぁ、予想を始めよう。

調教診断

今回の追い切りについて、前走からの代わり映えという点と距離短縮組の場合、縦長隊列を想定しているため、
ラスト2Fのタイムや伸びなどを加点評価の対象にした。

調教評価第1位 

12 ウィンマリリン

1週前追い切り。四肢を広く使えている。

昨年のオールカマー時、この馬の調教を見て興奮を隠しきれなかった。とにかく躍動感に溢れていた。気持ちから何から全てが前へ!前へ!という前進気鋭なフォーム。その後の2走は脚部不安のため、調教から元気がなかったが、久しぶりにその時に似た形。クビの動きなどはオールカマーには及ばないが、栗東に滞在させて乗った最終追切でも馬のやる気が溢れる走り。
とにかくこの1戦に賭ける調教意図が明確に分かったので文句なしの1位。

調教評価第2位

1 オーソリティ

抜群の手応えで迎えた1週前

今回、中間に負荷の高いCW7F調教を行っていた馬は少なくないのですが、一番いいタイムを出していたのはデアリングタクト。ただ、調教質で評価するのであればオーソリティを上位に推します。
中間に7F調教を2回入れていることも、負荷の高い過程を経ていることもさることながら、調教助手を載せて出したタイムと馬のやる気に関して高い評価を上げました。共同会見で、普段現実主義な印象のある調教師の木村哲也調教師がいつになく、右回りに対して不安がないと言っているのは、とても面白いなと思いますが、この出来であればその自信も納得。

調教評価第3位

10 ヒシイグアス

発汗が気になるも、レーン騎手で1週前抜群の手ごたえ。

最終が軽かったので3位にしたが、1週前を見た段階なら、この馬を2位にしようかと思っていた。前走からの伸びしろという点で、海外帰りの前走より分かりやすく良化した。1週前の追い切りはラスト1F併せ馬を分かりやすく突き放していている。
レースの経験数を重ねるごとに調教も良化してきていており、展開的に差しが有効に働けそうな1週前追切のラスト1F10秒台という点も高い評価になる。

調教評価第4位

11 パンサラッサ

最終追い切り。坂路、途中までかなりリズム良く走る。

1週前のステイフーリッシュをぶち抜いた追切は状態のよさを示していたが、同時に危うさも感じた。制御が利かないのではないかと。
最終の坂路も本来であればラスト2Fから1Fのタイムが遅い馬をあまり評価はしないのだが、リズムよくタイムも優秀。とにかく前に、横にいる馬は全部かわしてやろうというスピードにものを言わせている。

調教評価第5位

15 ディープボンド

1週前の追い切りは一杯、かなり強めに追っていたが反応は鈍め。最終追切は前走の6Fより遅れていたが、評価したのはラスト1F。
この馬は、大幅な距離短縮で、今回大事なのは早いペースが想定できる中どれくらい追走できるかなので、瞬発力を意識した過程を評価した。
上位陣であるとこの馬を評価したい。

その他

今回、評価に悩んだのが4 エフフォーリア。1週前まで、右横にいる馬を気にして、左後方からくる馬はノーマーク。

上が天皇賞秋、下が1週前追い切り

とにかく集中力に欠ける追切に見えた。それを踏まえて大阪杯のパトロール映像を見ると右横にいるヒシイグアスの方に首が傾いており、ブリンカーは確かに集中力を増すのに有効だ。
ただ、ブリンカーは劇薬。毒となるか薬とするかはレースを走ってみないと分からない。
1頭軸にするのはリスクを感じると判断したが、最終追切は天皇賞秋の走りに近い調教はしていたと思う。

エピローグ

そのインタビューを起こした数日後、
市原臨海でジェフ市原(現 千葉)がユースチームと試合をしていた時、
週の真ん中、日中ということもあり、取材しているメディアは数えるほどだった。

当時ジェフの練習はとにかく、練習量が多く、運動量も多く見たこともないもので飽きなかった。
「考えて走る」
というのは彼のサッカーの代名詞だ。
練習からそれはよく見えてくる。

今年の宝塚記念、パンサラッサが逃げる。タイトルホルダーが追う。
アフリカンゴールドやギベオンも前に置くだろう。
隊列はきっと縦長になるはずだ。

騎手という側面から見ると、
川田騎手がいない、福永騎手も有力馬には乗れない。
前の馬に鈴をつけにいく勇気ある騎手は誰だ。
考えて走る人は誰だ。

「リスクを負わない者は勝利を手にすることができない」

と、先生は言っていた。

練習場で試合が終わった後、
記者たちを睨むように一瞥を送った190㎝を超える大男は席を立ち、
クラブハウスに立って行った。
僕はトップチームの選手たちより、
専門のユースの選手たちに囲みをしたかったので
少し遅くまで残っていた。
あわよくば、先生と言葉を交わしたいと一縷の望みを持ちながら。
その願いは叶わないのは分かっていたけれど。

ユースの選手たちと江尻コーチと簡単なインタビューを終え、
やっぱり願いは叶わず、
帰ろうとした時、クラブフロントの方から取材元として、
自身の媒体紙がどこかを尋ねられた。

「君はどこの媒体紙なの?」

「携帯サイトの●●です。」

と伝えた後、名刺を求められた。なぜ名刺が必要だったのか、
頭にクエッションマークを抱えながら、練習場を後にした。
その日のユース取材で、
とある選手の特集をインタビュー記事と共に翌日サイトに載せた。
自画自賛ながら、その選手の本質が聞けてよかったと思えるものだ。
数か月後、試合を担当するフリーの記者を通して、
自社媒体名を名乗ると
インタビュアー泣かせと言われる先生のインタビューが
いつもよりしやすかったと教えてもらった。
その名刺と記事のせいかは分からないけど、
なぜか、よかったと満足感に浸った。

今回、展開面を考えた時、ある馬が先頭に立つイメージが頭の中に浮かんでくる。

「いったん掲げたら堂々とそれをめざせ。戦いの前から負け犬になるな。」

先生の語録の中で、好きなものの一つだ。
敵は強いが、この馬も一線級と戦ってきたキャリアは負けてはいない。

物見をするこの馬にとっては、
縦長展開になりそうな、有力な逃げ馬がいるこの舞台は向いている。
そして、その背には誰より戦える騎手をパートナーに配備して。
ルメール騎手は、水を運ぶ役ではなく、この界隈の主役。
前門の虎に鈴をつけにいく狼だ。

2022年5月1日、
日本サッカー界の発展に大きく貢献した
1人の知将が、僕にとっての先生が、亡くなった。

名将 イビチャ・オシム。

日本サッカー界に留まらない偉大なる権威。
そして哲学者。
日本をこよなく愛し、代表を率いてくれた時、
そのチームが奏でるパスワークは、魔法のようだった。

彼が日本で一躍その名声を高めた、
ジェフで20代前半で若手の阿部勇樹をキャプテンに指名した時、
驚きの声があがった。
若手にその大役が務まるのかと。
指名したオシムは、
ピッチの指揮官となるチームキャプテンに求める素養をこう評した。

「誰もが尊重する選手。選手たちだけでなく、
ジャーナリストや観衆をもが評価する選手」

それは、まさに監督像オシムそのものであった。
キャプテンに、リーダーに必要な資質、
それを僕の先生は
英単語一言でこう訳された。

宝塚記念、僕の本命は
◎1オーソリティ

オシムさん、今でもあなたの一言一句が僕のバックボーンです。
日本を愛してくれてありがとう。
心からご冥福をお祈りいたします。

ファン投票で出走馬を決める、ドリームレース。 
あなたの、そして、わたしの夢が走ります。
皆様の宝塚記念が良い夢となりますように。

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