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無地(日記67)

昔、父に無地のノートが欲しいと言ったら「そんなものはこの世にない」と言われたことがある。そんなわけがない。父の世界では全てのノートには罫が入っていて、それが狭いか、広いか、方眼かということは問題であっても、罫がないということはありえなかった。

父と私は文具店にいて、私は探すのを手伝って欲しかったのだ。無地のノートは置いてあった。父はどんな気分だっただろう。子どもにそんなことを言われて多少は恥ずかしかったのだろうか。それとも純粋な驚きも感じていたのだろうか。

今はどうだろう?あの時、父の世界に出現した無地のノートはまだあるだろうか?無いのかも知れない。年齢が記憶力にどう作用するのかよく分かるようになった今はそう思う。人がこんなにも忘れっぽくなれるとは子どもの頃は知らなかった。私がこの話を忘れないと良いのだけど。でもここに書いたことを忘れて何度も同じ話をしてしまう分には、まぁ、いいか。