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≠伝説の祭り

 近所の公園の一角に、微妙な広さの空き地があり、そこでは毎年8月に夏祭りをやっていた。「やっていた」と過去形な理由はお察しの通りである。

 夏祭りといっても規模はちゃちいもんだ。

 ペラッペラの屋台では、ややぼったくり気味な価格設定のかき氷やらポップコーンやらドリンク類やらが売られている。

 流れている曲は『マツケンサンバⅡ』とか『ダンシング・ヒーロー』とか、一昔前の曲ばかり。毎年それ。

 祭りやぐらでは、上手いんだか下手なんだかわからない大太鼓が鳴っており、その周りでは、浴衣の女性たちが延々と盆踊りをしている。

 で、自分はその夏祭りが大好きだった。

 18時頃になるとマツケンサンバが聞こえてくるので、ワクワクしながら夕食を食べて身支度をした。

 まあ、近年は家まで聞こえてこないどころか会場の近くまで行っても聞こえづらいんですけどね。いろいろとうるさい人がいるんだろうな。悲しいね、そいつの感性が。

 それはともかく、19時くらいには500円玉を握りしめて会場へと向かった。
 家から会場までは目と鼻の先なので、少し歩けばたくさん並んだ提灯と、浴衣姿の人々の群れが見えてくる。

 みんな友達や家族と楽しそうに歩いているというのに、自分は浴衣も着ずにひとりぼっちで祭りに向かう。傍から見たら悲しき不審者だが、虚しさを感じたことは一度もない。

 というか「ひとりで」祭りを楽しむというのが個人的に重要なところなので、むしろ予期せず知人と鉢合わせると「うげえ」となったりする。

 余談だが、幼い頃の私は一時期『太鼓の達人』にプチハマリしていた(今は当時の2000倍ハマっているワケだがその話は関係ないので省略)。

 定番曲であるジッタリン・ジンの『夏祭り』には、「少し向うに 友達見つけて 離れて歩いた」という歌詞がある。
 当時の私はゲーム中にこの歌詞を聞き取って「わかる~!」となっていた。
 どうやら自分のそれとは意味が違うらしいと気づいたのは、けっこう後になってからのことだった。

 会場の入口ではうちわを配っているので、それを受け取ってまずは祭りやぐらのまわりをぐるりと歩く。

 このうちわは、厚めの紙と木の取っ手でできていて、触り心地や、送られる風のなんともいえないやわらかさが好きだった。

 ほかに持っているうちわといえば、プラスチックの持ち手にペラい紙がくっついてる宣伝用のやつばかりだ。
 だから、この祭りでもらえるうちわにはちょっぴり特別感があったのかもしれない。
 安いっぽいうちわも、それはそれで好きだけども。

 踊る阿呆になるわけでも見る阿呆になるわけでもなく、音楽と祭りの雰囲気に酔いながら、会場内を徘徊する。
 ある程度散歩を楽しんだら、わざわざ長い列に並んで、わたあめやらかき氷やらを買う。

 わたあめは食ってる最中に溶けてきて手がベトつくので、買ったことを微妙に後悔するわけだが、私は学習しないので毎年これをやる。

 かき氷はだいたいいちごを選ぶ。たまにメロン。そういやかき氷のシロップってみんな同じ味だと聞いたことがあるが本当だろうか?

 ポップコーンの屋台もあるのだが、列が特に長いことが多くて、あまり買うことはなかった。
 だけど、ポップコーンをつくる機械が動いているのを見るのはけっこう好きだった。

 この夏祭りでいちばん好きなのは、20時頃から始まるよさこいのコーナーだった。
 地元のよさこいチームの人たちが祭りやぐらの前に集まって、楽しそうに踊っているのを眺める。
 毎年同じようなこと言って毎年同じ曲で踊っている気がするが、それがいい。

 チームの演舞が終わると、みんなで踊ろうぜ的なターンになる。
 自分は少し離れたところで眺めているのだが、よさこいチームの人が誘ってくるので、しかたねぇなぁという顔をしながら輪に入る。内心ではまんざらでもない。

 で、ここでは、なかなかアガれてノれる感じのお祭り曲が何曲か流れる。これがとてもよい。
 どの曲も、住んでいる県が秒でバレるので紹介できないのが残念だ。 うち一曲は区までバレる。

 ほとんどの曲は簡単な振り付けなので、前年の記憶も相まってすぐに踊れる。楽しい。
 ふだんは人見知りかつヒト嫌いな自分だが、この時ばかりは、まったく見知らぬ人と共に過ごすのも悪くないと感じる。

 それが終わると、また会場をしばらくうろついた後、住んでいる地域がバレる系の郷土料理の餅を買う。
 これは毎年家で食べる。たまに家族の分まで買ってきたりする。

 帰る頃にはだいたい『炭坑節』とか住んでいる市がバレる系の音頭とか、BPM低めのしっとりとした盆踊り曲が流れている。

 帰り道では、光り物のおもちゃを持った浴衣の子どもたちが、楽しそうに帰っていくようすが見られてほほえましい。

 自分もおもちゃとか欲しくなるけど、買ったら買ったで「要らない……」ってなりそう。
 以前は家に帰るまで曲がずっと聴こえたんだけど、最近は少し会場から離れると聴こえなくなってしまうので寂しい。

 noteのお題に「#お祭りレポート」というものがあったので、自分が好きなお祭りについてつらつらと書いてみた。

 ……よく考えたらこれは有名な祭りや個性的な祭りについて書くものであって、近所のショボい盆踊り大会について書くヤツじゃない気がする。まあいいか。

 ちなみによく覚えてないところは(時刻とか)適当に書いているので、実話風フィクションってことで。

 この文章を書いていたら、いろいろと思い出してあの温度感が恋しくなってきた。
 あーあ、お祭り行きたいなあ。

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