「開かせていただき光栄です」これを80歳の人が書いたのか・・・


まず、18世紀末のロンドンを舞台にした作品を日本人が書いているという感覚が全くしない。
読んでいて感じるのは「翻訳本」のそれの感覚でありなぜかこの18世紀末のロンドンの光景や風俗が極めて生き生きと瑞々しく伝わってくる。
そしてこれを1930年生まれの女性が書いているという驚くべき事実。
これは一体どういうことなんでしょうか。
実際に書いていた時期がいつなのかは分かりませんが刊行されたのが2011年なので・・・皆川博子という作家は化け物のような人ですね。
今まで全く知らなかったのはこれは無知の極みですね。
本当に驚きました。

本書で最も面白いのは、盲目の判事を登場させているところ。
この判事が「捜査」をしていくわけですが、助手の力を借りつつもその言葉と自分の感性をすり合わせながら盲人ならではの嘘と真実の見極めを耳で行っていく。
その様子はまさに、文字だけでしか現状を知りようがなく実際にその場面を観ることは頭の中で想像する以外ない我々読者との状況と酷似しているため極めて身近な存在として感じざるを得ない。
こういった登場人物を中心に配しながらも、肝心の事件の中心はもちろんこの判事ではない。

18世紀末にはまだ気持ち悪がられ理解されない職業であった「解剖」に携わる個性的な面々たちがこの物語の主人公だ。
そこに筆一本でなんとか人生を切り開いていこうとしていた一人の才能あふれる青年が絡んでくる。

各々の立場で全く違う景色が繰り広げられそれが一つの物語の中でうねり絡み合う。
現状の維持、金銭の貸借、過去の遺恨、未来への希望、現在への絶望、
全てが絡み合い素晴らしいひとつのミステリーに仕上がっている。
ただ、これをミステリーという枠だけで捉えようとするとかなり無理がある。
多くの登場人物のあらゆる感情が一つの事件に集約され昇華する素晴らしい物語。


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