「神々の山嶺」山に囚われた男たち

概要

羽生丈二。単独登頂家。死なせたパートナーへの罪障感に悩む男。伝説の男が前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑む。なぜ人は山に登るのか? 永遠の問に応える畢生の大作! 第11回柴田錬三郎賞受賞作。

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山の世界、というものを私は知らない。
同じ山を愛する人間にもいろんな種類が居てその種類によって山に対する接触の仕方や登攀の仕方まで様々なタイプがあることが分かる。
そして年齢を重ねるごとにその山への触れ方が変わってくる。
そんな妙齢を迎えた男女が織りなす物語りとエベレスト初登頂にまつわるエピソードを絡めてサスペンス要素も大いに楽しめる素晴らしい作品。

「山」に魅せられながらも年齢とともに傍観者となりつつある主役の深町。
そして生きている限り「山の現役」という雰囲気を醸し出しネパールはカトマンズで生活をしている羽生。
各々の身勝手もともいえる山への憧憬や執着を素晴らしい物語に昇華させた傑作。

私は執着心が強くないのでこういう状態になることはほぼないだろうと思うが、1度「山」というものを経験しその頂点を極める人間と「出会ってしまった」ことが深町という男の運の尽きだったのかもしれない。

シェルパという登山を助ける存在は何となく知っていたのですが、それと同時に「グルカ」という「軍隊組織」が世界最強と呼ばれていることを初めて知りました。
それもそのはずであれだけの高度で普通に戦える身体能力を要した兵士が他国のためにだけ戦うようになっていく過程と他国の登山を手助けるシェルパという存在が出来上がっていく過程とは瓜ふたつである、という記述はなるほどとひざを打ちました。

羽生という天才的かつ狂人的な登山家の後を追う深町といういわゆる「普通の人」。
普通の人がある意味狂気の人にあこがれて引き釣り回されていく様子が「山」を通して描かれるという極めて異質でありながら人間の王道を貫く凄味のある作品。

くどいほどに自分自身との対話が繰り広げられるがそれはこの内容であれば必要なことだろう。
私は酷い捻挫が完治しないうちに100キロウォークに参加してエライ目に遭いましたがその時の心境と被る、といったら怒られるでしょうね(笑)

「山」のほかに人生で何も持つことが出来ない男と、いろんなものの中で迷う男。
天才と凡人の違いを描いた大傑作。


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