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Newton力学⑤ 種々の力

前回の記事はこちら↓

必要な前提知識はこちら↓
・極限と微分,積分(準備中……)

Newton力学も,まもなく折り返しです。
前回の記事では,力と運動状態の間を結ぶ法則を見てきました。
今回以降は,具体的な場合に応用していきます。


力のはたらき

一般に,力のはたらきは三つあるといわれます。

支持(ある方向の合力を0にする)
加速(速度を変化させる)
変形(大きさをもち,形の変わる物体の形状を変化させる)

これら三つのはたらきのうち,③の”変形”に関しては第10回まで登場しません。
というのも,しばらくは質点(の集まり)や,変形しない物体を考えるためです。

重力と万有引力

重力

人が加える力(筋力)の次に身近な力が重力だと思います。重力$${\boldsymbol{W}}$$の大きさは,物体ごと,また場所ごとに異なりますが,同一の場所では,基準の物体にはたらく重力を$${\boldsymbol{g}}$$とおくことで,

$$
\boldsymbol{W}=m_\mathrm{g}\boldsymbol{g}
$$

この式の比例定数$${m_\mathrm{g}}$$は,本来無次元の量(単位をもたない)ですが,実は基準の物体をうまくとれば,$${m_\mathrm{g}\times1=m}$$となることが実験的に知られています。

MICROSOCPEという衛星での測定に基づいたPierre Touboul(ピエール・トゥーブール)らの解析(2022)では,チタン(Ti)と白金(Pt)の慣性質量$${m}$$および$${m_\mathrm{g}}$$について,

$$
\eta=2\dfrac{\left(\dfrac{m_\mathrm{g}}{m}\right)_\text{Ti}-\left(\dfrac{m_\mathrm{g}}{m}\right)_\text{Pt}}{\left(\dfrac{m_\mathrm{g}}{m}\right)_\text{Ti}+\left(\dfrac{m_\mathrm{g}}{m}\right)_\text{Pt}}=[-1.5\pm2.3(\text{得られたデータの68%が入るようにとった統計誤差})\pm1.5(\text{系統誤差})]\times10^{-15}
$$

であるとされており,$${\eta}$$は,ほぼゼロです。(←なんと大雑把な。しかも数式長すぎ。)

何はともあれ,とりあえず$${m}$$と$${m_\mathrm{g}}$$は等しいものとして扱われています。したがって,

$$
\boldsymbol{W}=m\times\left(\dfrac{m_\mathrm{g}}{m}\boldsymbol{g}\right)=m\boldsymbol{g}
$$

とおき直すことができますから,この表式での$${m}$$を(重力)質量とよび,$${\boldsymbol{g}=\dfrac{m_\mathrm{g}}{m}\boldsymbol{g}}$$を”重力加速度”といいます。

ちなみに,ここまで敢えて「”慣性”質量」と省略せずに書いてきたのは,重力質量と区別するためです。ここからは単に”質量”と書きます。

万有引力

Newtonは,運動の三法則をまとめ上げただけでなく,重力がはたらくしくみについても考察しました。

地球上ではたらく重力と同じ枠組みで,惑星の楕円運動を説明できないか……。
これが万有引力というアイデアの出発点です。

リンゴが木から落ちるのを見て,「月も地球に向かって落ち続けているのではないか,地球は太陽に向かって落ち続けているのではないか」と発想の転換を行ったという逸話もあります。
(補足:しばらくの間はリンゴが木から落ちないことから,リンゴは木に引っ張られている,これが「地球と物体だけでなく,すべてのものが互いに(作用・反作用の法則)引きあうのではないか」というアイデアの出所,というのをどこかで読んだような気もしますが,ちょっと見つけられませんでした。ご存知の方あればご教示ください。)

万有引力の大きさは,2物体の質量をそれぞれ$${M,\ m}$$,2物体間の距離を$${r}$$として,$${F=G\dfrac{Mm}{r^2}}$$($${G}$$は,万有引力定数とよばれる定数)で表されます。

復元力

復元力は,$${\boldsymbol{F}=-k\boldsymbol{r}}$$によって表される力のことです。

弾性力

ばねに繋がれた物体を考えてみましょう。壁と物体とをばねで結び,力がかかっていない状態の長さからの伸びを$${x}$$で表すことにします。水平方向にだけ伸ばします。
このとき,ばねにはたらく力[弾性力]の大きさは,MacLaurin(マクローリン)展開から,

$$
F=\displaystyle\sum_{i=0}^\infty c_i x^i
$$

$${x=0}$$では$${F=0}$$なので,$${c_0=0}$$。このとき,$${x}$$があまり大きくなければ,$${x^2,\ x^3,\ …}$$の順にどんどん小さくなっていきます。これらの項を0とみなし,伸びと反対向きに力が加わることを考えると,

$$
F\approx-c_1x=-kx\ (\text{Hooke(フック)の法則})
$$

この$${k}$$を”ばね定数”とよびます。

このことからも分かるように,物体が動くのと反対向きに力が加わる場合,物体の動きがそれほど大きくなければ,$${\boldsymbol{F}=-k\boldsymbol{r}}$$を満たしていると考えてもよいです。
(注:方向によって比例定数の値が異なり,かつ異なる軸方向の伸びが弾性力に影響したりすることもあるので,厳密にはテンソル形式を用いる必要があります。$${K=\displaystyle\begin{pmatrix}k_{11}&k_{12}&k_{13}\\k_{21}&k_{22}&k_{23}\\k_{31}&k_{32}&k_{33}\end{pmatrix}}$$として,$${\boldsymbol{F}=-K\boldsymbol{r}}$$です。)
似たような議論は電磁気学編でも出てきます。

浮力

液体と気体は”流体”とよばれ,場所ごとに異なる圧力をもつことで知られています。

すると,その圧力の差によって,力が生まれます。これを”浮力”といいます。

浮力の計算は,(圧力×面積)の差で出せます。圧力は,上の流体から受ける単位面積当たりの力なので,流体の密度を$${\rho}$$,高さの差(負の値になることもある)を$${\Delta h}$$,面積を$${S}$$として,

$$
\boldsymbol{F}=-\rho S\Delta h\boldsymbol{g}=-\rho S\|\boldsymbol{g}\|\boldsymbol{z}
$$

ただし$${\boldsymbol{z}=-\Delta h\boldsymbol{e}_z}$$($${\boldsymbol{e}_z}$$は$${z}$$軸正の向きの単位ベクトル)。

ここで,前回の演習問題で出てきた,急ブレーキをかけた電車内の風船について考えてみましょう。
”ホントにそうなるの??”と思った皆さま向けに,実験動画を用意しました(私も高校時代に見せられた記憶があります)。https://www.youtube.com/watch?v=y8mzDvpKzfY

風船が浮かんでいるのは,浮力によるものです(動画内の泡も同じ)。つまり,周りの空気が,いろいろな方向から風船を押しているけれど,結果として上向きの力となって表れているということですね。

電車(動画では車)が急ブレーキをかけるとき,空気は慣性力を受けて前に動きます。
すると,前にいる空気が多いので,前の方の圧力が高まり,結果として後ろ向きに浮力のようなもの(圧力差による力,という意味で)が生まれます。

動画内では,発進時の実験も行っていますが,慣性力と浮力を大体理解できた皆さんなら,解説は不要ですよね?

でも,急発進の後,なぜか前に動いてから後ろにも振れているような……🤔
この点については,第7回で考えてみたいと思います。

抗力

運動の変化を,できるだけ打ち消そうとする力が,”抗力”です。垂直抗力摩擦力の二つに大別されます。

垂直抗力

垂直抗力$${\boldsymbol{N}}$$は,文字通り,物体が接している面に対して垂直にはたらく抗力です。
垂直抗力を習うと,重力の反作用を垂直抗力と勘違いしやすくなるので注意しましょう(正しくは物体が地球を引く力)。

摩擦力

摩擦力は,なめらかでない2面が接するとき,できるだけ運動を止めようと,面に平行な向きにはたらく力です。
静止時の摩擦力[静止摩擦力]と運動時の摩擦力[動摩擦力]の2種類,また,面上をすべるときにはたらく”すべり摩擦力”と,面上を転がるときにはたらく”転がり摩擦力”の2種類の組み合わせで4パターンに分類できます。

垂直抗力は押し返す力なので理解しやすいですが,摩擦力ってなぜはたらくのか分かりにくいですよね。そんなわけで,かなり古くから研究されてきました。

その中でも,Charles de Coulomb (シャルル・ド・クーロン; 1736-1806)が提唱した,Coulombの摩擦モデルが有名です。
以下では,Coulombの摩擦モデルにのっとって,すべり摩擦力について考えていきたいと思います。

Coulombの摩擦モデルは,Amontons-Coulomb (アモントン=クーロン)の法則とよばれる,現実での経験的な法則が厳密に成り立つように構成されています。これは,以下の3つの主張で成り立っています。

〔Ⅰ〕最大静止摩擦力,動摩擦力の大きさは,垂直抗力の大きさに比例する (Amontonsの第一法則)
〔Ⅱ〕摩擦力の大きさは接触面積に依存しない (Amontonsの第二法則)
〔Ⅲ〕動摩擦力の大きさは,物体の速さに依存しない (摩擦力に関するCoulombの法則)

これに,「静止摩擦力の大きさは動摩擦力の大きさより大きい」という法則(実は反例となる実験結果もある)や,Amontonsの第三法則(静止摩擦力は加えられた力と反対向きにはたらく)を付け加えることもあります。

静止摩擦力の大きさは,ある閾値(限界の値)までは,物体にかかる力を打ち消すように増加していきます。この閾値の力を”最大静止摩擦力$${{\boldsymbol{f}_\mathrm{sta.}}_\mathrm{max}}$$”といい,次の式で表されます。

$$
{\boldsymbol{f}_\mathrm{sta.}}_\mathrm{max}=-\mu\|\boldsymbol{N}\|\dfrac{\boldsymbol{F}\times\boldsymbol{n}}{\|\boldsymbol{F}\times\boldsymbol{n}\|}
$$

$${\boldsymbol{N}}$$は垂直抗力,$${\boldsymbol{F}}$$は物体にかかる力,$${\boldsymbol{n}}$$は面に対して垂直な方向の単位ベクトル[単位法線ベクトル]。$${\mu}$$は”静止摩擦係数”とよばれる値で,接している面の状態によって決まるものです。

物体にかかる力の大きさが最大静止摩擦力の大きさを超えると,物体は動き始めます。動いている物体にはたらく動摩擦力も,似たような式で表されます。

$$
\boldsymbol{f}_\mathrm{dyna.}=-\mu'\|\boldsymbol{N}\|\dfrac{\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{n}}{\|\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{n}\|}
$$

ここで$${\boldsymbol{v}}$$は物体の移動速度,$${\mu'}$$は動摩擦係数とよばれる値で,これも接している面の状態によって決まります。

Coulombの摩擦モデルを成り立たせるために,摩擦力のはたらく機構について,”凹凸説”と”凝着説”という2つの仮説が提唱されてきました。
凹凸説は,物体表面には凹凸があるため,2つの面の凹凸がはまったり外れたりを繰り返すことで摩擦力が生まれるという仮説です。
それに対し,凝着説は,物体表面が平らではないため,本当に接している面積が,見た目の接触面積より十分小さい,という仮説です。その面積に摩擦がかかると考えると,「垂直抗力が大きい→上から押し付けられている→接触面積が増える」ときに,摩擦力が大きくなるのは当然ですよね?

現在では,摩擦の主要因としては凝着説に軍配があがっているものの,静電気力や凹凸など種々の要因が複雑に絡み合って生じるものとされています。また,垂直抗力や速度が非常に大きい(または逆に非常に小さい)場合には,Coulombの摩擦モデルによる近似は成り立ちません。

演習問題


図のように,変形しない板の上に置かれた質量$${m}$$の物体がある。この板の水平からの傾きを$${\theta}$$($${0\le\theta\le\dfrac{\pi}{2}}$$)とおく。物体と板との間の静止摩擦係数を$${\mu}$$,動摩擦係数を$${\mu'}$$,重力加速度の大きさを$${g}$$として,次の問いに答えよ。
(1) まず,$${\theta=0}$$のときを考える。物体に大きさ$${v_0}$$の初速度を与えたとき,静止するまでの時間$${t_1}$$と,静止するまでに移動した距離$${L}$$を求めよ。
(2) 次に,静止した物体を置いた板を傾けて$${\theta}$$を増大させていく。ある角度$${\theta=\alpha}$$を超えると,物体は斜面をすべりだす。このギリギリすべらない斜面の角度$${\alpha}$$を,$${\mu,\ g}$$を用いて表せ。ただし,物体が回転することはないものとする。
(ちなみに,この角度$${\alpha}$$のことを”摩擦角”といいます。)

摩擦さえ分かれば,斜めったところに物を置いても大丈夫。


(1) 運動方程式$${m\dot{v}=-\mu'mg}$$から,

$$
\dot{v}=-\mu'g\\0-v_0=-\mu'gt_1\\\therefore t_1=\dfrac{v_0}{\mu'g}\\L=v_0 t_1-\mu'g{t_1}^2=\dfrac{{v_0}^2}{2\mu'g}
$$

(2) 力のつりあいの式から,

$$
mg\sin{\alpha}-\mu mg\cos{\alpha}=0\\\therefore \alpha=\mathrm{Tan}^{-1}\,\mu
$$

なんとまさかの$${g}$$によらないという結果が出てきました。月面で同じ実験をしても,たぶん同じ角度になるということですね。

今回はここまでです。
ありがとうございました!

Newton力学編 目次
力学とは何か
位置の表し方
運動エネルギーと運動量
運動の三法則
⑤ 種々の力 ←今ココ!
仕事と力積
⑦ 運動方程式を解く
⑧ 回転運動
⑨ 剛体の運動
⑩ 反発係数
◼︎ 章末問題

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