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それを目的とした物事

 その文章を僕がインターネットで見たのは偶然だった。
 でも、彼に言わせれば必然だったというのかもしれない。それは、先ず小説ではないという前書きから始まった。しかし、これまでに見たことの無い文体だったし、素直に新鮮だと思った。その文体そのものよりも何か得体の知れない違和感が感じられる文章だった。
 インターネットを長くやっているとわかる、この文章を書いた人間が、何を感じて書いたか。そして、これまでの人生までも一目で分かる様になれば一人前のネット利用者らしい。  
だが、それもネットをしている人の言葉なので真偽は分からない。
 その文章は、ある漫画家を主人公にした小説(と、僕は感じたが違うらしい)だった。
 その主人公は、精神病院に入院している。その後、家族の愛を理解できずに死んでしまう。在り得る話だ。また、インターネットにありがちな設定でもあった。そう、ありがちな設定だった。基本を、非日常に設定し、少しだけ現実性を持たせる、そうする事で「違和感」を演出できることを僕は知っていて、また、そういう文章には飽き飽きしていたのだ。
 しかし、その文章は明らかに違っていた。どこが違うかといえば、僕は知っていた。その漫画家の生涯を。
 いや、実際に知っていた訳ではない。その証拠に、前書きで、彼は主人公の名に仮名を用いたことをはっきりと明記していた。また、僕はそれほど漫画に精通している訳ではない。人よりかは読むが、その漫画家の作品性を察するに明らかに僕向きではなかった。あまりにも狂気的で破滅的な作風であること察する事ができた。
 しかし、それ以前に、僕はその漫画家のことを知らなかったのだ。それなのに、僕はその生涯を知っていて、感動すらしたのだった。
 僕は、その時、恐怖というよりもむしろ共感を覚えたものだった。何故か。
 それはその時は分からなかった。

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