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”走力”とは何か

僕は強くなるにはどれだけ大事なことに気づいているか、強い選手が大事にしていることを見落とさずに気づくことができるかが非常に重要だと思います。

櫻井大介『800m』

自分で気付け 他人の言葉で理解できる訳ないんだ
きっとここで気付くかどうかで進路が決まる
気付けば自ずと困難の道に.. そして気付かなければ
気付かない事実に気付かないまま 余裕たっぷり幸せに死んでいく

竹内友『ボールルームへようこそ 9』


最近「理解 や 気付きを得るには人に教えてもらうだけでは不十分で、経験が伴ったとき初めて得られるのかも」と思ったりします。
でも同時に「他人が "気付きのきっかけ" を作ることくらいはできるよなあ」と思ったりもするので、いつか(根気強く読んでくれる)誰かの役に立つことを願って、この記事を残すことにします。


おはようございます。こんにちは。こんばんは。
「オリエンテーリング Advent Calendar 2022」24日用の記事です。

3年前にも記事(jogのすすめ)を書いたので、興味のある方は読んでみてください。今でも感想をいただけます。嬉しいです。書いた甲斐がありました。


自己紹介

根本 啓介と申します。筑波大学 体育専門学群というゴリゴリの学群に在籍していました。体育・スポーツを専攻したオリエンティアはレアキャラかもしれません。

現在OB2年目、オリエンテーリングは4年目です。
大学1-2年は陸上長距離をやっていましたが、私は箱根駅伝の出走メンバーに選ばれるレベルになく、大学2年の冬に退部し、3年の春にテニサーに入るくらいの軽い気持ちでオリエンテーリング部に入部しました。

今ではオリエンテーリングの沼に頭まで浸かっています。オリエンテーリングって楽しいですね。
本当にたくさんのおかげさまで、今年はWOCにも出れました。


0.本稿の前提

今更ですが、我ながら記事のタイトルが大層すぎて心配になってきました。
いくつか保険をかけます…!(許して)

  • 基本的に私が学生時代に読んだ論文 や 改めて調べた情報を基に書いていますが、解釈の違いや理解のずれ等によっては各方面から刺されそうなので、あくまで根本個人の見解としてお読みください
    (間違いがあれば教えてください)

  • オリエンテーリングに活かせるかもしれないし、活かせないかもしれません。読み手に委ねることになってしまいます。が、私はトレーニング計画を立てる上でヒントになると思っています(あくまでトレーニング論ではない)。

  • 本稿で度々用いられる「走力」は、厳密には「長距離走における走パフォーマンス」です。長いし固いので、本稿では「走力」と呼ぶことにします。
    ※一般的に、長距離走=3000m以上

オリエンテーリングのパフォーマンスを構成する要因は様々あります。本当にたくさん。それが魅力でもある。でも、冷静に考えれば ”走って” ”ゴールするタイムを競う” 競技である以上、上を目指すのであれば走力に向き合うことから逃げることはできないはずです(辛いし嫌だけど)。
これはより高いレベルで戦っているオリエンティアほど痛感しているのではないでしょうか。

(とはいえ、走力以外を極めればインカレ複数回入賞、JWOC・ユニバーシアード代表になれるらしいです。まだO-mapすら見たことない入部前の時期にURLが送られてきて読みました。私が初めてオリエンテーリングに触れたのは部の新歓ではなく、これ。とても好きな記事。)

そんな”走力”について「走力とは?」「何が走力を決定するの?」というところを簡単に、専門的な言葉は極力避けてまとめたものになります。

Summary
・本稿は根本の個人的な見解
・本稿における「走力」=長距離走における走パフォーマンス


1.走力の構成要因

本題に入ります。

結論から言うと、走力を構成する主な要因は、
{最大酸素摂取量(VO2max)× 乳酸性代謝閾値(LT)}× ランニングエコノミー(RE)
と言われています。何のことやら分からないと思うので次項以降、それぞれについて詳しく説明します。

図解すると以下のイメージです。

Midgley et al., 2007 の図を根本改編

Summary
走力 ={最大酸素摂取量(VO2max)× 乳酸性代謝閾値(LT)}× ランニングエコノミー(RE)


2.最大酸素摂取量(VO2max)とは何か

走力を構成する要因の1つ目は「最大酸素摂取量(VO2max)」です。
「VO2max」という単語は、陸上経験者でなくとも聞いたことがあるかもしれません。GARMIN を使っている方はトレーニングをしていると、VO2maxが計測されますね。

最大酸素摂取量(VO2max)は「1分間あたりに体内に取り込める酸素量の最大値」と定義されており、数値が大きいほど能力が優れていると評価されます。
("V"olume + "O2" + "max" で 最大酸素摂取量)

VO2maxは骨格筋や血管、心臓の大きさに依存するため、トレーニングによる能力向上の可能性(トレーナビリティ)が低いと言われることもある一方、陸上中距離種目やトライアスロン、トレイルラン等の心肺負荷の高いスポーツ種目においては、競技者のVO2maxが有意に高いことも分かっています。
色々な論文を読んで(&根本の経験上)、個人的にはVO2maxのトレーナビリティはそこまで低くないのでは?と思っています。

では、VO2maxを向上させるためにどのようなトレーニングが効果的かというと、おそらく多くの人がイメージする通り、インターバルやレペティションのような比較的高強度のトレーニングが効果的とされています。
補強トレーニングであれば、タバタトレーニングも効果的です(タバタトレーニングを知らない方は調べてみてください)。
毎週のようにオリエンテーリングのレースでプッシュしていれば、それもVO2maxの向上に寄与するでしょう。(オリエンティアVO2max高いがち)

Summary
・最大酸素摂取量(VO2max)は「最大酸素摂取量は1分間あたりに体内に取り込める酸素量の最大値」
・VO2maxを改善するためには、インターバルやレペティションなどの高強度トレーニングが効果的


3.乳酸性代謝閾値(LT)とは何か

走力を構成する2つ目の要因「乳酸性代謝閾値(LT)」についてです。英語で”lactate threshold”です。

徐々に運動強度を上げていったとき、「乳酸が血液中に急増し始めるポイント」のことです。専門的な表現をすると、「解糖系のエネルギー供給にあまり頼らずとも、運動を継続することができる運動強度」です。

画像2
LTとOBLAのイメージ

LTを理解しやすくするために、ヒトの筋肉について少し説明します。

ヒトの筋肉は「遅筋」と「速筋」という2種類の筋肉に大きく分けられます(厳密には、速筋はさらに2種類(TypeⅡa, TypeⅡb)に分類できますが、記事の本筋と関係ないので今回は無視します)。

遅筋は、ミトコンドリアが多く含まれており、脂質や糖質などを使ってエネルギーを生み出します。有酸素運動を行うと痩せるのは、これが理由です。
遅筋はその名の通り、大きな力を発揮できる筋肉ではないものの、持久性に優れ、効率が良いため、強度の低い運動時にはこちらの筋肉が使われます。

反対に速筋は、ミトコンドリアが少なく、持久性に富みません。代わりに糖を分解する酵素が多く、それによって素早くエネルギーを生み出すことができます(先述の「解糖系のエネルギー供給」)
その名の通り、大きな力を発揮できることが特徴です。

運動強度が高くなってくると、遅筋のみでは対応できなくなるため、速筋の動員割合が大きくなってきます(下図のイメージ)。
速筋を動員すると、糖の分解が高まることになります。このとき、糖を分解する過程で産生されるのが 乳酸です。

先出の図を根本改変

LTを高める(図で言うと、LTの点をより右に持っていく)ためには、遅筋線維のミトコンドリアや毛細血管を増やしたり、速筋線維にもミトコンドリアを増やしたりすることが必要です。
これらは日々のジョグ、LSD(Long Slow Distance)、ペース走(閾値走)などのトレーニングで改善が見込めます。

LTが高まると、これまで糖を多く分解しないといけなかった運動強度でも、乳酸値を高めずに運動を継続できるようになります。
また、LTは成長期を過ぎた後でもトレーナビリティが高いと言われます。

【豆知識①】
遅筋は赤い見た目をしているため赤筋、速筋は白い見た目をしているため白筋と呼ばれることもあります。これは魚の身を見るのが分かりやすいです。
長時間泳ぎ続けるマグロなどの回遊魚は遅筋が多いため赤身、カレイなど海底でじっとしていることの多い魚は速筋が多いため白身です。

【豆知識②】
一般に”疲労物質”で知られる「乳酸」ですが、実のところ疲労物質ではないことが明らかになっています(むしろ部分的には筋疲労を防ぐ働きをするらしい)。
筋疲労は、厳密には「乳酸の産生過程で筋肉が若干酸性に傾くこと」や「筋肉に糖の蓄えが少なくなること」、「筋肉からカリウムが漏れ出すことによる筋収縮の低下」など、さまざまな要因が重なって生じます。(八田,2014)
乳酸が直接の筋疲労の原因ではないものの、運動の過程で産生される物質であり、筋疲労と血中乳酸濃度に強い相関があるため、筋疲労の度合いの指標とすることができます。

Summary
・乳酸性代謝閾値(LT)は「血中乳酸が急増し始めるポイント」
・LTのトレーニングによる能力向上の可能性(トレーナビリティ)は高い
・LTはジョグ、LSD、ペース走などのトレーニングで改善が見込める


4-1.ランニングエコノミー(RE)とは何か

3つ目は、ランニングエコノミー(RE)についてです。

こいつが厄介です。自分でREをきちんと理解したくて色々調べたことがそもそもの発端です。つまり、ここがメインといっても過言ではない。

"Running Economy" は「走の経済性」と訳されます(そのまま)。REは「ある速度での酸素摂取量」のことです。REが高いほど、ある速度での酸素摂取量は少なくなり、エネルギー効率が良いということになります。

正直、REの理解の導入としては、以下の動画を観るのが一番わかりやすいと思います。筑波大学陸上競技部の先輩 三津家さんの解説動画です。
(いまや登録者数40万人超のTikToker)
お時間に余裕のある方は是非観てみてください。

画像4
↑ 画像をクリックすると三津家さんの解説動画へ

REは以下の5つの要因で構成されます。

  1. ランニングフォーム

  2. 筋力

  3. 代謝能力

  4. 形態的な特徴

  5. 心理的な要因

それぞれについて、軽く説明していきます。

Summary
・REとは「ある速度での酸素摂取量」
・REは「ランニングフォーム」「筋力」「代謝能力」「形態的な特徴」「心理的な要因」で構成される


4-2.ランニングフォーム

REを構成する要因の中で全体の50%を占めると言われているのが、ランニングフォームです。超重要ですね。

長距離走においてどのようなランニングフォームが”パーフェクト”なのか、というのは実のところまだ分かっていません。しかし、良いとされるポイントはいくつかあります。

なかでもエリートランナーとそうでない人の違いとして、走る際に「股関節をうまく使えているか」が一番に挙げられると、個人的には思います。
以下で少しだけ説明します。

下肢の関節概略図

陸上長距離の世界では、接地時と離地時で足関節と膝関節の角度が変わらないのが、良いランニングフォームとされます。

足関節を底屈(以下画像参照)させる動きで推進力を生みだしている人の場合、主に使っているのはふくらはぎになります。筋肉でいうとヒラメ筋を使っています(すねの横らへんを触りながら足関節の底屈/背屈をしてみるとわかるかと思います)。
ヒラメ筋などの筋肉をオーバーユースすると脛骨(その名の通り、すねの骨)の骨膜に炎症が起き、シンスプリントという故障につながります(陸上の世界では”初心者病””素人病”と言われます)。

底屈と背屈

また、膝関節を使って走る人は比較的前ももの筋肉(大腿四頭筋)の動員割合が大きい可能性が高いです。大腿四頭筋は”ブレーキ筋”とも言われ、推進力を生み出すのにあまり適していません。
反対に、大殿筋やハムストリングスなどの筋肉は”アクセル筋”と呼ばれます。

では、”接地時と離地時で足関節と膝関節の角度が固定されている”ことが何を意味するかというと、股関節の屈曲/伸展で推進力を生みだしていることを意味します。つまり、股関節の屈曲/伸展動作が大きいほどランニングフォームが良いとされます。

屈曲と伸展

股関節の屈曲/伸展動作が大きくなると、臀部(おしり)の筋肉やハムストリングス、腸腰筋など先述したアクセル筋をよく使えるようになります。(どこの筋肉のことかわからない方はぜひ調べてみてください。スポーツの世界で超頻出の筋肉たちです。)
これらの筋肉はヒラメ筋などの筋肉と比較して、大きいことからパワーを発揮しやすく・疲れにくい筋肉であるため、いかにこれらの筋群をうまく使えるようになるかが重要になります。

(とはいえ、この動きを身に付けるのは時間がかかるかもしれません。ヒトは基本的に身体の末端の小さな筋肉の方が扱いやすいため、そちらの筋肉を使いがちになります。)

他にも、腰高な走りができているか、ひじが鋭角に振れているか、骨盤がほどよく前傾しているか、などモーメント的に良いとされるポイントはいくつかありますが、ここでは割愛します。

※ただし※
平地・整地で良いとされるランニングフォームと、フォレストなどの上り/下り・不整地で良いとされるランニングフォームは異なるだろう
ということは頭に入れておかなければなりません。
例えば、先述した股関節の屈曲/伸展動作を大きくすることは(もしかしたら整地以上に)不整地を走るうえでも有効と思われますが、ひじを鋭角に振れていることが不整地でも良いフォームと言えるかは分かりません。
一定以上の斜度の下りでは腕振りなどせずに、腕は脱力して身体のバランスを取ることに意識を向けた方が良いかもしれません。

不整地での走り方に関しては、フォレストのトップ選手の方が詳しそうです。教えてください。

Summary
・ランニングフォームはRE全体の50%を占める
・股関節の屈曲/伸展動作が大きいと良い
・平地とフォレストオリエンテーリングのような不整地で良いとされるフォームは異なる(と思われる)


4-3.筋力

長距離選手は筋トレをしないイメージを持つ方は多いかもしれませんが、普通にします(もちろんボディービルダーのように筋肉を大きくする目的での筋トレはしません)。
例えば、3000m・5000mなどの日本記録保持者・大迫傑選手は週3回の筋トレdayを設けているといいます。

細かいトレーニング方法については記載しませんが、

  • 短縮性筋収縮(コンセントリック収縮)

  • 伸張性筋収縮(エキセントリック収縮)

  • 等尺性筋収縮(アイソメトリック収縮)

の違いを意識してメニューを組むと良いと思います。
興味ある方は「そもそも何それ?」というところから調べてみてください。

また、前項で「REを構成する要因の中で全体の50%を占めると言われているのがランニングフォーム」と書きましたが、これは平地での話です。
不整地においては、REの構成要因の中で筋力(特に下肢)の占める割合が、平地とそれと比較して大きくなるのでは?と推測しています。
(完全に根本の直感です。不整地走の論文はあまり読んだことがないので実際は分かりません。)

(2022/12/30 追記)
上記と直接は関係ないですが、陸上部同期が不整地走の論文(D. P. Ferris et al., 1998)を紹介してくれました。
専門用語多すぎて専攻してない方向けに噛み砕くのがムリだったので超ざっくり要約すると「不整地を走ったり、柔らかいシューズを履いたりしてトレーニングをするとREが改善される」ことが示唆されてます。
不整地走のメリットは故障リスクの軽減だけでないみたいなので、できる限りアスファルトみたいな硬い路面より不整地を走る方がメリットが大きそう。
(追記ここまで)

参考までに、陸上部時代に補強として、以下の筋トレをやっていたりしました。
当時の陸上長距離界のトップ選手らが所属していたチーム(Oregon Project)が取り入れていたとされる補強トレーニングです。

↑ 画像タップで遷移

4-4.代謝能力

どれだけ血液循環や代謝能力が良いかです。
これらの能力は有酸素系のトレーニングを行うことで改善されます。日々のジョグやLSDなどが効果的です。

また、低酸素下、暑熱下でのトレーニングも代謝能力の向上に寄与すると言われています。
ただし、環境的なストレスを加えることはトレーニングの質の低下にも繋がるため、比較的低強度なジョグやLSD、ペース走、距離走などを行うのがおすすめです。

Summary
低酸素下、暑熱下でのトレーニングが代謝能力の向上に繋がる


4-5.形態的な特徴

アキレス腱が長いとか、膝下が細くて長いとかの形態的な特徴が長距離走にとって良いとされています。

これは正直努力ではどうにもできません。生まれつきのものです。他のところで頑張りましょう。一般的にケニア人・エチオピア人は形態的な特徴が優れているとされています。


4-6.心理的な要因

心理的な要因も無視できません。
メンタルがREに影響します。

俗に言う(?)”不純パワー”もここにあたるでしょう。
パートナーとうまくいっていたり、レースで勝ちを重ねて自信をつけたりしたイケイケドンドンでポジティブな心理状態の選手は生理学的に見ても強いです。

また、レース中に抜かされると血中乳酸が有意に増加するという研究を、陸上部の先輩がやっていた記憶があります。これも心理状態がネガティブに作用した例と言えますね。

そういう意味では生理学的な観点でも、いかにレース当日に向けてモチベーションを上げていくか、心理的にポジティブな状態にもっていくかを考えることはとても大切です。
気持ちのつくり方については、人それぞれ合う方法と合わない方法があると思うので、経験を積んで自分に合った方法を確立していくしかないのかもしれません。


ちなみに、私の知り合いの中で最も足が速く、重要なレースで勝負強い先輩(1500m:3'37"36(日本歴代7位) , 3000m:7'53"01 , 5000m:13'34"57)曰く、

誰しもの心の中にある…
「Cool」「Passion」「Thanks」
この3つによって構成される三角形のちょうど真ん中にスタート直前にポジショニングさせておくこと。
これが必要な心のポジショニング

だそうです。なるほど分からん。

Summary
不純パワーが最強


5.終わりに

ここまで読んで感じた方はいるかもしれませんが、スポーツは割とサイエンスです。パフォーマンスには必ず要因があり、現代においてそれらのいくつかは定量的に測れるようになっていたりします。
オリエンテーリング競技におけるパフォーマンス要因の定量評価は競技特性上難しくなかなか進んでいませんが、その気になれば時間の問題だと思います。
(この観点からWOC2022前にあった強化委員会主催のスプリント強化方針説明会は、個人的にとても納得感がありました)


オリエンテーリングでも、仕事でも、おそらく何でもそうですが、パフォーマンス要因を細分化できると、それぞれを伸ばすための打ち手が見えてきます。
逆に、パフォーマンス要因の細分化ができなければ、パフォーマンス向上のためにどんなトレーニングをすべきか分からない、仮にパフォーマンスが上がったとしても何のトレーニングがパフォーマンス向上に寄与したのか分からない(からパフォーマンス向上の再現性がない)ということになりかねません。
これはコーチングをできる人材が少ないオリエンテーリング界において、特に学生などの短期間で競技力を上げたい選手にとっては致命的になり得ます。

私は今年は縁があり、WOC代表選手らと一緒にトレーニングをする機会が多く、競技に関する様々な会話をしましたが、やはり彼らは漏れなくトレーニングに意図があり、言語化ができていました。
トレーニングに関する質問をすれば必ず何かしらの答えが返ってきて、私自身かなり勉強になりました。
(その意味では、昨今の筑波大学の躍進は 国内トップ選手 Hiroki Komaki が部に在籍しており、気軽にオリエンテーリングについて会話できる環境にあったことは無視できない要因と個人的に考えています。)

例えば、今年の平岡選手の Advent Calendarの記事 (完璧なオリエンテーリングを目指して 〜地図読みの先を見越したプランニング〜) や、2021年の Komaki の記事 (トータス合宿講義録2020)、2020年の北見選手の記事 (戦術論:オリエンテーリングスタイルとは?その必要性と分類) はオリエンテーリング技術や思考、戦術などの言語化に成功している典型といえます。

先述したようにパフォーマンス要因の定量評価が難しい(あるいは手間のかかる)オリエンテーリングという競技において、多くのオリエンティアからトップ選手の思考などが書かれた記事が求められていると思います。

(個人的にこういう記事がめっっっっちゃ好きです。その人の今まで蓄積されてきた思考が書かれた記事、良い。できることなら自分もこういう文章を書きたかった。)


また、あくまでコーチはトレーニングを”サポートする”役割であり、選手個人がある程度思考できるようになる必要があると考えます。理由のひとつに、コーチは選手よりも知識・経験が優れているからこそコーチ足り得ますが、各選手の日々のコンディション把握は非常に困難であることが挙げられます。

具体的にいうと、コーチは中長期的な目線で選手のトレーニング計画を立てることはできますが、各選手の疲労状態や日々の生活リズムを考慮に入れた綿密なトレーニング計画を立てることは膨大なリソースを要します(丁寧にやろうとするほど選手のプライベートに踏み込むことにもなるので、そんなことは不可能なのかもしれません)。
そういった状況で自らトレーニングの目的を設定し、コンディションに合わせて柔軟にトレーニングを組み、実行していく力がある競技者は勝手に伸びていく印象があります。


最後に、トレーニングに関して後輩に必ず伝えることをひとつだけ。
ときにトレーニングには”やった感”を求めてしまいがちです。言い換えれば、自己満足を求めている状態に陥ります。オリエンティアだと一番多いのは、”自分でなんとなく定めた月間走行距離目標を盲目的に追っているとき”とかですかね。

そういった状況を回避するために、定期的に一度立ち止まって今の自分の課題とトレーニングの目的がマッチしているか、今のトレーニングの方向性は正しそうかを再確認する作業が必要です。
以前も書いたし、くどいかもしれませんが、練習は常に現状と理想のギャップを埋めるための手段です。


…と締めでテーマと関係ない普段考えていることを思うままに書いてしまいました。この辺で終わります。
考えが変わったり新たな知見を得られたら、このnoteも今後少しずつ修正・追記していくかもしれません。

みなさま良い Christmasを🎅

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