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視覚。聴覚。嗅覚。味覚。触覚。 人間の五感のうち、もっとも記憶に作用するのは嗅覚なのだそうだ。 いつか見た風景ではなく、懐かしい人の声でもなく、たとえば金木犀の香りが鼻をよぎった瞬間に、その人の記憶が紐解かれるのだという。 だからだろうか。 『アイダホ』(エミリー・ラスコヴィッチ 著 小竹由美子 訳 白水社)の主人公アンは、やたらと匂いを嗅ぐ。嗅ぎまくる。まるで執念深い猟犬のようだ。 彼女の歳の離れた夫・ウエイドは、若年性認知症によって記憶を失いつつある。アンが匂いを嗅ぐ