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サプライチェーン「Made in 〇〇」の服

▼日本で売られる衣類は、ほぼ輸入品


現在日本では、衣類(服、下着、コート等)が、

1年間に約36憶点売られています。


この約36憶点の衣類のうち、どこで作られたかを見ていくと、

日本で作られたものは1.8%で、

ほか98.2%は、輸入したものです。


そのため、

「MADE IN JAPAN」にこだわらずに商品を買っていたら、

私たちが日々身に着けている衣類は、

気づくと、ほぼ海外で作られたものになっています。


このような海外で作られ、日本で売られる

という流れは、

グローバルサプライチェーンと呼ばれます。



▼グローバルサプライチェーンとは


そもそもサプライチェーンとは、

商品が、原材料から消費者の手に届くまでの

一連の流れのことです。

例:製造(糸→生地→Tシャツ)→販売

 

これが、1つの国ではなく、

2か国以上で行われると、

グローバルサプライチェーンと呼ばれます。

 

洋服を例に挙げると、

ブランド(ナイキ、ユニクロ、ZARA、GAP、H&M、良品計画等)は、

服の製造を、海外の工場へ任せます。

 

ブランドと工場は

例えば「〇〇の服を〇着作る。それに対し、〇円支払う」

といったように、契約を結びます。

 

そして工場は、1つのブランドと契約するのではなく、

多くの複数のブランドと契約します。

1つの工場で、複数のブランドの服が、

作られています。

  

もし工場がインドネシアにあれば、

日本ブランド(例えばユニクロ、良品計画等)の服でも、

Made in インドネシア 

のタグが付きます。


日本で買った服であっても、

グローバルサプライチェーンで作られた服

ということになります。


あまり普段考えることは少ないけれど

それらの服は、実際に着る人の手に届くまで

実は

とても長い距離を移動してきました。

 

  

▼きっかけ


私がサプライチェーンを知ったきっかけは、

2018年10月 工場で働いていたレナに

日本で会ったことがきっかけです。


レナは、インドネシアのある工場で働き、

日本ブランドを含めた複数のブランドの服を

製造していました。

工場は倒産しました。


働いている時、どれほど大変だったか

(最低賃金割れ、長時間残業、

夫が緊急入院したが

上司の命令でその日の製造目標の為に働かざるを得なく、

夫を看取ることができなかったなど)

  

倒産後は

高校生の娘の学費が支払えない為、遠くの親戚に預けていること

小学校の娘が病気になったけれど治療費が足りない為、

借金をしていること 等

レナは話してくれました。

私自身は安い服(海外製造)がとても気に入っていたので、

とてもショックを受けました。


自分に何かできることはないか、と考え、

インドネシアに直接会いに行き、労働者の話を聞いたり、

サプライチェーンを調べるようになりました。

 

▼利益分配


そもそもなぜブランドは、

自国ではなく、他国の工場に、

更に自社の工場ではなく、

社外の工場に服を作ってもらうのか。


それは、お金のためです。


・他国のメリット

服 1着〇円という買取価格は、

工場で働く人の給与が低いほど、

少なくて済みます。


買取価格の中に、

作った時間に対する費用(手数料、手間賃)が

含まれるからです。

    

2022年6月現在 最低賃金は、

日本 東京では、

1時間1041円

月約18万円(フルタイム≒1ヵ月173時間働いた場合)

ですが、

インドネシア 首都ジャカルタでは、

月 約3万7,572円です。


製造 手数料は、インドネシアの方が、

圧倒的に低いです。


そのため、ブランドは、

給与が安い(人件費が安い)国・地域の工場を選び、

製造を依頼します。

 

そして、服を製造する工場は、

服の買取価格を高くする

+労働者の給与を低くする

ことで、利益を増やそうとします。


買取価格を高くするよう交渉するよりも、

給与を低くする方が、基本的に簡単です。

  

ブランド、製造工場ともに、

自社利益のために、行動しています。

その結果、

利益配分は、このようになります。

オランダNGOの例(バングラディッシュ)です。

1枚のTシャツの利益配分

59%:小売業者 販売者(付加価値税を含む)

12%:ブランド

4%:現地の製造工場

0.6%:労働者の給与

 

例えば、ユニクロの場合は、

自社ブランドの服を、自社のお店で

販売しているので(SPA型)、

小売業者+ブランド分の利益(付加価値税を含む)

上の例だと、71%の利益分配です。

 

図では、このように表現されています

ブランド>工場>労働者


・外部に委託するメリット

ブランドから見たメリットは、

初期費用が抑えられることです。

(自社工場の場合は、

工場を用意して、ミシン等の機械を買い、人を雇い教育する等が必要)


デメリットは、品質を保てない、保ちにくいことです。


ブランドが製造委託をするのは、1つの工場だけではありません。

例えば、ユニクロは、服の製造(生地を縫い合わせて洋服を作る)を、

453工場(日本を含めた21か国)に委託しています。


それぞれの工場で品質が大きく違わないようにする

等の管理が必要です。


こういった自社工場を持たない仕組みにより、

デメリットはありつつも、

このような構造によって、

ブランドは、利益を上げています。


 

▼製造依頼者(ブランド)の責任 


ブランドは、

グローバルサプライチェーンのなかで、

いちばん影響力があります。


工場にとって、重要な存在です。


工場は、

借金をしてミシンなどを大量に購入やレンタルし、

服を作って、利益をあげ、

借金を返しながら

長期的に会社の売上を上げていこうと計画しています。


例えば、ブランドが突然 

工場への製造依頼を辞めた場合、

工場の経営に影響があります。

(ときには、工場倒産を引き起こすことがあります)


ブランド側から製造委託を辞める一つの要因として、

工場地域の最低賃金の上昇が挙げられます。


もともと、多くのブランドは、

製造コスト、人件費が安い国・地域の工場を選び、

製造を依頼しています。


そのため、最低賃金の上昇は、製造委託するメリットを薄めさせます。

最低賃金がより低い地域の工場へ、

依頼を変えようという結論になります。


もちろん契約キャンセルの理由が、すべて最低賃金上昇の為ではないですが、

サプライチェーンの構造上、

こういった理由も存在することは事実です。

 

このように、構造上、ブランドと工場が対等な関係とは言い難いにもかかわらず、

ブランドに対し法的規制が無い状態で、

「ブランドと工場はお互い対等な契約を結んでおり、

工場経営が悪化したのは、工場オーナーの問題だった」等と、

工場経営に対する責任をすべて工場が負うことは

私は問題があると考えています。


工場へのしわ寄せは、そこで働く労働者に波及します。

経営が悪化した結果

給与が最低賃金を割ったり、

残業代が未払いとなったり、

工場に掃除が行き届かなかったり、

生産性を高めようと思って、労働者へ暴言を吐いたり、

休憩時間を減らしたり、

家族の不幸があっても途中で早退を許可しなかったりします。


倒産をするケースもあります。

 

ブランドは、純粋に利益を求め合理的に動いただけであり、

「工場経営や、工場の労働者の事情なんて知らない、

自国内で解決してくれ」と思うかもしれません。


しかし、委託する工場がある国の課題も

考えなければならないと私は考えています。


▼工場がある国にも、課題がある


今のところ、大きく3つが課題だと感じています。 

1つ目は、製造を委託する工場で働く労働者個人が、

労働法に対する意識、知識を持っていない

知る環境にない、ということです。


通常は何かがおかしいと感じ、自分で調べたり、外部へ相談しますが、

違和感をもつ基準、センサーがとても低いです。

そのため、「そういうものか」と納得してしまい、

問題が顕在化しにくいです。


私が実際にあったインドネシアの労働者も、

「今まで、ミシンで指の第一関節を切断したり、指の骨を折る人が複数いた。工場から金銭的補償がなかったが、それが問題だとは感じていなかった」

と言っていました。

これは、社会として、
労働者が労働法を知る機会がない
最低賃金割れや法違反をチェックするシステムが機能していないことが課題だと考えています。

 

2つ目は、

工場が経営悪化や倒産した場合に、
働いていた従業員を
金銭的に支援する仕組みが整っていないことです。

 
工場が倒産した場合、

国が工場に代わって、未払いの給与を支払うこと

国が、失業者へお金を支払い、再就職を支援すること


日本ではどちらもありますが、

それらの仕組みがなかったり、不十分な国もあります。


働いている会社が倒産したら、

労働者はすぐに生活が成り立たなくなることが、

現実に起こっています。

(高い利息でしかお金を借りられず、借金を返す為に借金をするという生活にもつながっています)


3つ目は、最低賃金だけでは生活できない、

最低賃金の設定が低すぎることです。

最低賃金が低すぎる場合、給与のほぼすべてを日々の生活で使うので、

貯金ができません。


そうすると、倒産や病気で働けなくなった時
すぐに生活が苦しくなります。

実際に、工場の給与支払いが遅れ始めたすぐ後から

借金を始めた方がいましたし、

倒産後、治療費が払えず、

治る病気でも、亡くなった方がいました。



このように、倒産して解雇されたインドネシアの労働者の話を聞く中で

私が感じたのは、

日本と同じ感覚で、すべてを考えられない

それぞれの国で課題があるということです。


製造を委託する側、発注者もその国の課題に配慮するか、

あらかじめ配慮するよう設計された仕組み(例えば、倒産時の金銭補償のために、あらかじめ発注者からお金を徴収するなど)

や規制が必要だと考えています。


▼国際認証機関


FLA(Fair Labor Association) 公正労働協会
のような機関もあります。


FLAは、フェアトレードマークのように、
「この会社(ブランド)は、適切な労働環境で働かせています」
というお墨付きを企業に与えることで、
私たち消費者が、
安心して商品を買えるよう認証をしています。


FLAは、企業を認証する代わりに、
企業が生産委託している下請工場の労働環境が
適切かどうかをチェックします。


具体的には、

まず、認証の段階で、

加盟企業の商品を作る工場(製造業、農業)

の監視体制が国際基準を満たしているかを
数年かけて厳しくチェックします。


認定後も、
ランダムに定期調査を行い、
違法等 問題が見つかれば、「要改善(緊急)」
等と企業へ報告します。


また、第三者(下請工場の労働者)からの苦情を受けて、
申し立て内容(違法行為)が行われているかを
調査します。


このタレコミにより調査をするという点は、

少し、労働基準監督署に似ています。


労基署は、労基法等の法律を基準にし、
会社は、指示に従わないことはできません。

最終的に逮捕等を行うことができます。


一方、FLAは、
企業に対し、世界基準(ILOの基準)や

工場がある現地の法の尊重・順守、改善を依頼します。


FLAは民間機関であり、強制力は持たないということです。



また、第三者からの申し立てに対する調査も、
多くの関係者から状況を確認するので、

時間がかかります。


工場が倒産した場合などの対応では、

適さないかもしれません。

(その間に労働者は借金をせざるを得ない等、生活が困窮する為)


少なくとも、FLAという組織がある、
認定がされている企業だからといって、
労働環境が適切に保たれている
とは限りません。


実際に、私が会った労働者は、

FLA認証企業の商品を作る工場で、働いていました。

工場が法律に違反せず、適切に働く環境を整える手段として、

他にもいくつも選択肢がある中の一つとして考えるのであれば、

いいのかもしれません。


▼法規制以外の流れ


ブランドに対する法規制はないですが、国際NGOの影響で、

各ブランドが、

製造委託先工場リストを公開する流れになっています。


これは大きな流れで、グローバルサプライチェーンの

一部分が消費者に見えやすくなっていると言えます。


また、工場が閉鎖した場合、
工場労働者に対し、ブランドが支払いを行う事例が増えてきています。

海外の情報(Maquila Solidarity Network)を基にスライドを作成


▼何が解決策になるのか


私自身は、もともと高い服より 安い服のほうが好きでした

この問題を知ってから、なるべく
高くて長く使える服を買うように変わりました。

それでも実際に作っている人の生活を知ることはできないから、
消費者として、いわゆる搾取の構造に加担している可能性を感じています

いろいろな方面からの対策が必要だと考えています。


▼参考:規制化の流れ

■1970年代 多国籍企業規制 スタート

 1975年 多国籍企業センター(UNCTC)設置 企業監視が目的

 1976年 OECD多国籍企業ガイドライン 策定 *法的拘束力なし 

    1977年 ILO多国籍企業宣言 策定

■1990年代 生産拠点の海外移転が加速

 1996年 ナイキの児童労働 アメリカの雑誌ライフの記事に
    サッカーボールを作る パキスタンの子供(12歳)等

■2000年 OECD多国籍企業ガイドライン改訂

 国連グローバル・コンパクト 提唱

 NCP 各国に設置(National Contact Point、問題解決支援の連絡窓口)

■2011年  
    ① OECD多国籍企業ガイドライン改訂 
    ②「ビジネスと人権に関する国連指導原則」(国連指導原則)策定

2013年4月 ラナプラザ事件 バングラディッシュの工場が崩壊
      1134人の労働者が死亡、2600人が負傷。
*工場建物に亀裂が見つかったが、オーナーは服の生産継続を命令。  
もともと、生産量を増やすため、違法に工場を拡張(6階から8階へ増設)、  工業用でない建物に製造用の機械を置くなど、構造上問題があった。

2017年7月 ILO多国籍企業宣言 改訂


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