見出し画像

銭湯求めて歩くよ満月の日

※これは旅先で感じた想いを出てくるままに書きおろしたもの。気づいたら物語のようになりました。連載でもなんでもありません☺️


満月の夜
あたたかい湯船に浸かりたくて
泊まっているホテルから歩いていける温泉をマップで探す。
どうもこの辺りは温泉とゆうよりも銭湯が多いみたい。なんとなくの直感でここだと決める。

少しお腹を満たし
もう一度外へ出ることを躊躇う自分がいた。

コンタクト液を買わないといけない理由があったから、重たい腰をあげてアウターを羽織りホテルの一室を出る。

ホテルをあとにした空には
雪が舞い落ちる。それも結構降っている。
やっぱり辞めろってことかな?とか
引き戻す理由を頭で考えだす。
コンビニによりコンタクト液と明日の朝食べようとヨーグルトを手にとる。

お会計をすまし
コンビニの外へ出ると
もう空から舞い落ちる雪の結晶は消えていた。

やっぱり行けってことかと
向かう足先をホテルとは反対方向へ動かしだす。
いつもわたしはひとつひとつの選択に賭けをするような選び方をしているのかもしれない。
自分の直感を頼るとゆうか、信じてみたいとゆうか、試してるのだとおもう。
その先に待っている未知なるワクワクを知りたいから。

しばらく歩く。
歩いた先に表通りから1本中にはいる道がある。
ここかな?と読めないマップを片手に
その細い道へと足は向かう。
街頭の数が減り提灯下がる焼肉屋が角にある。
さらに奥へ進むと
もうひとつ、住宅と住宅の間へ入る細道が目の前に現れる。

銭湯とかかれた
看板があり
ここか。とひとり呟く。
迷路に迷い込んだような気分。

久しぶりに見た
女って書かれた赤く染まるのれんと
男って書かれた青く染まるのれん。
入り口は別のようだ。

そーっと赤ののれんをかきわけ扉を横にずらす。
いらっしゃい。と
ふくよかなマスク越しでもわかる笑顔でおばさんがお番台にいる。
「450円ね。」
と言われお財布からお金を出す。
冷え性の私は2月の寒空の下
手袋もせず歩いたおかげで完全に指先が冷え切っていて思うように小銭が取り出せない。
そんな私を何も言わず空気のように待ってくれる番台のおばちゃんに、私はすぐに好印象を抱いた。なにも言われないし急かされない。
それがなんだか心地よかった。

「そこ開けて入っていってね〜」と
背中を向けた私に声をかけてくれた
は〜いと会釈をし
またそーっと扉をよこに開ける

珍しいものを見るかのように
お風呂あがりのおばあちゃん達が一斉に私を見る。
「こんばんは。」
挨拶をし荷物を置く場所を決める。

きっと常連さんなのだろう。
カラダはすっかり冷え切っていた。
そそくさと服を脱ぎ洗い場へ急ぐ。
おばあちゃん達の間を軽く会釈しながら。

銭湯
昭和の香りがする。
わたしは平成うまれ。
昭和のイメージはテレビの中でしか知らない。
だけど、昭和の香りがわかる気がした。
温泉とはまた違う
独特の雰囲気。

だけど
わたしは好きだ。
むしろ、温泉より好きかもしれない。
この新しすぎない
色褪せた建物も創りもタイルも照明も
なにもかもが不完全な中途半端な感じも。

男湯との間にあるタイル壁の低さに驚く。
いや、あれ覗けば見えるだろってひとり心の中でつっこむ。
蛇口の低さにも驚く。
湯船と湯船の間にある置物もなぜだか滑稽でしばらく見つめてしまった。
魚に跨る裸体の女性。その魚の口から永遠にお湯が出続けている。
なんだかなぁ。
そんなことを考えてる今
平和ボケしそうだなとニヤッとする

冷え性のわたしは
温泉が好きだ。
あたたまると思考も身体も心も全てが緩む。
湯船に顎ギリギリまで浸かり目を閉じる。
しあわせやなぁ。
湯気に包まれながら少しずつ身体の芯からあたたまってくるのを感じて心もどんどん溶けてとろけていく。

銭湯っていいなぁ

高い高い天井を見つめながら呟く。
ポッカポカになった身体
湯冷めしないようにそそくさと脱衣場に向かう

さっき私を珍しい物でも見つけたかのように
見つめてくれたおばあちゃん達はみんな帰っていた。そこに今から入ろうとしている1人のおばあちゃんが新しくいらっしゃる。
こんばんは。
挨拶をするとこんばんは。と笑ってくれる。
なんでおばあちゃんってみんな可愛いのだろうって一瞬考えた。

ある程度身を纏ったら
1台端っこの方にあったドライヤーを見つけ
手を伸ばそうと思うと
え、ドライヤーするのにお金かかるんやと
心の中で叫ぶ。する?しない?する?しない?
迷ったあげくこのままホテルまで帰ろうと
しないを選択した。
髪の毛ショートにしてよかったーって思ったよね。

お先です〜とおばあちゃん達に声をかけ
入り口の少し重たい扉を横に開け
最初と変わらずそこにいるお番台のおばさんが
変わらない笑顔で「ありがと」と伝えてくれる。

あたたまった身体に
あのおばちゃんの癒し力は効果的面やなと心の中で呟く。

あたたかいものに触れたあとは
両手両足を思いっきり伸ばしたくなる
寒いかなと心配していた帰り道も、案外平気でむしろ少し気持ちがいいくらい夜風と夜の気温が自分の体温と重なりあう。
なまぬるい心地よさで優しくわたしを包んでくれた。

ハマりそう。旅先での銭湯巡り。
ひとりで自由に銭湯とか贅沢な身分やなぁと思うわたしと思い描いていた30歳とは全く違う今を生きてる自分と少し複雑な気持ちになった。
だけど、そんな今の私がなんだか愛しくなったのと同時にもっと自分の人生に誇りをもって
思うままに堪能して歓びも幸せも嬉しさも
誰かを愛するあたたかさも切なさも
哀しみも悩みも葛藤も諦めも味わい尽くそう
なんて思いふける不思議な帰り道だった。

寒空に浮かぶまぁるい満月を追っかけて。
私はテクテクと歩く。
歩かないと辿りつかないような、なにかを求めて今日も歩く。


あ、コンビニでアイス買えばよかったなぁ。




ありがとうございます🥰