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刑法改正を機に読み直す

 元国会議員の山本譲司氏が、秘書給与詐取事件で実刑判決を受け、獄中での経験をもとに著述した、この本を久しぶりに読み返しています。

 きっかけは、令和7年6月に刑法が改正され、従来の「懲役刑」と「禁固刑」が一本化されて「拘禁刑」が新設されるのですが、改正の背景には、刑務所の実態に現行法の規定がそぐわなくなっていることがあり、その実態がこの本には克明に描かれているため、法務に関わる人間として、読み直しておこうと思ったからです。

 同じように刑務所に入所する「実刑」でも、「懲役刑」の場合は刑務所内での作業義務があり、「禁固刑」の場合は作業義務がありません。この違いはざっくり言うと、殺人や強盗、詐欺などを悪意をもって実行した場合は「懲役刑」、過失罪や政治犯罪の場合は「禁固刑」になっているようです。

 ただ、禁固刑の場合も、自由が奪われた中では時間を持て余してしまうため、8割の受刑者が自ら希望する「請願作業」により、刑務所内での作業に従事しているようです。

 もう一つの実態として、刑務所内の高齢化が進み、認知症患者や、障害者など、懲役刑を課せられても、通常の作業には従事できない受刑者が増加していることがあるようです。

 刑務所内の作業には、タオルやせっけんなどの日用品を製造し、所外に販売することで、受刑者にスキルを身につけさせ、さらには、社会復帰の際に必要な資金の一部に充てる、作業報奨金の原資にしているところも多いようです。網走刑務所の二ポポ人形は、有名です。

 10月ごろには、各地の刑務所で矯正展(即売会)も開催されます。

 一方で、認知症患者や障害者の受刑者は、こうした生産活動には従事することが難しいのですが、現行法で「懲役刑」の場合は、刑務作業が義務付けられているため、何らかの作業に従事させる必要があります。

 獄窓記では、刑務作業に従事することが難しい受刑者の集まる「寮内工場」にあって、同じ受刑者でありながら指導役となった山本氏が、ある意味、一般社会が受け入れ困難な人たちの吹き溜まりのような場所で、奮闘する様子が描かれています。

 この本を読むと、とにかく法に定められた刑務作業をさせるために、刑務所の担当職員にどれだけ負担がかかっているかが良くわかります。本が書かれたのはだいぶ前の話ですので、高齢化が進んだ現状においては、刑務所の状況はもっと深刻になっているのではと思います。

 既に、各地の刑務所では、刑法改正後を見据え、社会復帰に軸足を置いたプログラムが実施されているところもあるようです。

 犯罪者の収容された刑務所に対して、余計なコストをかけることに対しては、当然ながら「税金の無駄遣いではないか」と考える人も、少なくないとは思いますが、
かといって、一般社会から弾かれた人の最後の行き場である刑務所としては、受け入れて、その人の生きる手伝いをせざるを得ず、多くの刑務所が、福祉刑務所化している現状を考えると、今回の刑法改正は、やむを得ないのではないかと、個人的には考えます。

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